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卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~  作者: 露李鈴
● 187年| 冬:九章「揺らぐ道」

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第百七十六話 残された痕

 誰も動いてなかった。


 生者も、死者も、

 まるで時が止まったかのように。


 ただ。


 西へ傾きはじめた陽だけが。


 横倒しになった修羅と、

 散らばった荷を、赤く照らしだしていた。




「近くに敵がいるかもしれん」


 いち早く動いたのは、イワホコだった。

 大斧を構えてまわりを警戒する。


 その目は、道の両側へ広がる、

 薄暗い木々へ向いていた。


「オレ様は向こうを見てくる」


 イバラも槍を手に、

 森の木陰に目を光らせる。


「深追いはするなよ」


「そっちこそ」


 二人は左右に分かれ、

 周囲の警戒へと向かった。



「わしらは生きてる者を探すぞ」


 シラガは、そう言うと、

 血溜まりの道へ躊躇なく踏み込んだ。


「…………」


 倒れていた男へ膝をつき、

 シラガは、口元へ手を寄せて確認する。


 そして。


「駄目じゃ……」


 それだけ告げて、

 すぐに次の者へ向かった。




「なんてこった……」


 アシも、恐る恐る歩き出すと、

 倒れている者たちに近寄っていく。


「こいつ……」


 倒れている男の顔を見た途端、

 アシは、伸ばしかけた手を止めた。


「今朝、三野で話したやつだ……」


「アシさん?」


「はじめての名張を、

 これから、楽しみにしてるって……」


 隣にも目を向ける。


「こいつも……あれも……、

 今朝、三野で笑っていた顔だ……」


 足元をふらつかせながらも、

 ひとりひとりを確認してまわっていた。



――――――――――


 俺は。


 一歩も動けずにいた。


 冬の冷たい空気に混ざる、

 濃い、血の匂い。



 散らばった荷の間から。

 泥に汚れた腕が、伸びていた。


 開いた掌には、

 縄に擦れた跡が残されている。


 ここまで、何度も、

 縄を引いてきたのだろう。



 槍を握る手じゃない。


 荷を――

 仲間のもとへ運ぼうとした、人の手だ。



 * * *


 人の死を、すでに何度も見てきた。


 三野との戦や、行商のアラトを守り、

 命を落とした者たちたち。


 あの人たちは槍を握っていた。


 だが、この人たちは、

 荷を運んでいただけなのだ。


 なんで――



 荷が欲しいから奪う。


 邪魔されたなら、

 戦うことがあるかもしれない。


 だが、ここまでする必要があるのか。


 * * *



「…………っ」


 気づけば。


 爪が食い込むほど拳を握っていた。


 開こうとしても、

 指は、すぐには動かなかった。


 名前も知らなければ、

 話を交わしたこともない亡骸をまえに。


 どうして、こんなにも、

 腹の奥が熱くなる。



 まるで。


 ずっと昔にも。


 同じ怒りを、

 知っているかのような――




「イミナ、大丈夫か」


 名前を呼ばれて、

 俺は、はっと顔を上げた。



「こっちには誰もいなかったぞ」


 探索に出たイワホコが、

 木々の間から、戻ってきたようだ。


「向こうもだ」


 イバラも、道へ戻っている。


「もう、とっくに姿を消してやがる」


 誰もいない森から。


 風に擦れる、

 枝の音だけが聞こえてきた。



「皆のもの、こっちに来てくれ」


 シラガの重い声があがった。



――――――――――


「……ひでえな、こりゃ」


 イワホコは、近くの亡骸の前にしゃがみこみ。

 その状態を確認する。


 その倒れた男の、両の脚。


 左右、同じ場所に、

 槍で貫かれた跡があった。


 そして、喉にも。



「こちらもじゃ……」


 隣で、シラガが呟いた。


「両の足、そして喉じゃ……」


 そこで、シラガが顔をしかめる。



「みな、絶命したあとに貫かれておるな」


「分かるのか?」


「血の出方が違うからのう」


 シラガが、亡骸の傷へ目を落とす。


「なんで、そんなことをわざわざ」


 その後ろで。



「なんで」


 イバラが動きを止めていた。


「こんなところに、奴らが」



「……知っておるのか?」


 シラガが尋ねる。


「あ、ああ……、

 山で、人を贄(にえ)にする時の作法だ」


 亡骸の両の脚へ視線を落としながら、

 イバラは、口をひらいた。



「贄(にえ)……?」


「まず、両の足を地へ結び……」


 それから視線を喉に向ける。


「最後に天だ……」


 三つの傷跡を辿るように、

 ゆっくりと、イバラは指を動かす。


「その、三つを結んで、山の形を作るんだ」


 その向こう。


 夕陽を失いかけた空には、

 黒い山の稜線が、浮かんでいた。



「こいつら、山の神の、贄にされたんだ――」


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