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卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~  作者: 露李鈴
● 187年| 冬:九章「揺らぐ道」

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第百七十四話 ★火子・動きだす道

◇【伊賀之火子(いがのひこ)】視点◇



 オヤジと、ミナセは、

 いつも難しい話をしている。


 そのほとんどが、

 俺には、よくわかんねぇ。


 だけど。


 ゆっくりと首を絞められているのを、

 黙って眺めてりゃ、そのうち死ぬ。


 それぐらいはわかる。



――――――――――


 ざっざっ――


 霜道を踏みしめる音が、

 遠くのほうから聞こえてきた。


 道からそれた木々の陰で、

 俺たち伊賀者は、息を潜めている。



「来たな……」


 道の向こうへ目を凝らす。


 三野から来る者たち。


 背には、いくつもの大きな籠。


 その前後には、

 槍を持った守りの男たちもいる。



「本当に来やがったか……」


 フクロウの話なんざ、

 ひとつも信じちゃいねぇ。


 だが。


 荷が出る日も、

 通る道も。


 そこだけは、

 きっちりと合ってやがる。



「ヒコ」


 隣に伏せる、

 頬に古い傷のある大男が呟いた。


 伊賀之熊子(いがのくまこ)である。


「本当にやるのか?」


「ああ、殺すなよ」


「伊賀臣も、無茶なことを言う」


「ほんとにな」


 クマコが苦笑する。


 その向こうでは、

 別の、伊賀者の一人が腰を落とし。


 もう一人が、音もなく反対側へまわる。



『やれるのは、

 お前しかおらぬ――』


「そこまで言われちゃ、

 やらねえわけにもいかねえだろ」


「たしかにな」



「まずは俺が出る、

 合図したら前と後ろを塞げ」


「承知」


 そう残して俺が腰を上げると。


 静かだった冬の森が、一斉に動き始めた。



――――――――――


「青山の奴ら、

 三野の品を気に入るかな」


「これで行き来が増えりゃ、

 嬉しいんだがな」


 のんきに、

 ゆっくりと近付いてくる声。


 ただ、青山へ、

 荷を届けに行くだけの奴らだ。


「…………」


 だからといって、

 今さら、止めるわけにもいかねえ。



「止まれ!」


 俺は、道へ飛び出して。


 一気に距離を詰める。


「なっ――」


 護衛の一人が、

 慌てて槍を構えようとする。


「遅いっ!」


 相手の槍の柄を、

 横払いで弾き飛ばした。



「ぐっ――!」


 そのまま、

 相手の懐へ入りこむと。


 肩から、思いきりぶつかる。



「がっ」


 三野の男が、霜の残る道へ転がった。


「貴様っ!」


 もう一人、横から石槍が飛んでくる。


 その穂先をかわしながら。


 相手の手首を掴むと、

 腕を捻りながら、足を払った。



「ぐあっ!」


 そのまま、背中から道へ叩きつける。


 石槍の穂先で、

 喉も、腹も狙わない。


 相手を立てなくして制する。


「……ったく、面倒くせぇ」


 でも、これでいいんだろ。


 オヤジ――




 俺は、荒げる息を整えながらも、

 まわりを見渡した。


 クマコも、三野の男を地に押さえこみ。



 少し離れた場所では二人の伊賀者が、

 一人の護衛を挟み込んでいた。


 二人の伊賀者の、

 一人が相手の槍を叩き落とし、


 もう一人が、背後から腕を締め上げる。


 そうして、三野の者たちを、

 次々に地へ押さえ込んでいった。


 あとは紐で縛れば――



「このやろう!」


 近くから怒鳴り声。


 振り向けば。


 城之越の若い男が、

 倒れた男に、槍を振りあげていた。



 その石穂が、胸へ落ちる――



「やめろ!」


 その前に腕を掴み、

 なんとか、槍先を逸らした。


「オヤジの言付けを忘れたのか!」


「でも、顔を見られた、

 このまま、生かして帰せば……」


「かまうことはない、

 それより、荷だけ持っていけ!」



「…………」


 一瞬、若い伊賀者と視線がかち合った。


「分かったよ……」


 そういうと槍を下げる。



「ひ、ひいっ」


 そんなことをしている間、

 三野の男が一人、森に逃げ込んだ。


「あの野郎!」


 伊賀の者たちが立ち上がる。


「追うな!」


「でも――」


「いい、行かせろ!」


 伊賀の者たちの足を止めた。


 逃げる三野の背中は、

 冬の木々の向こうへと消えていった。


「くそ、なんだっていうんだ」


 何人かの口から不満の声があがる。


 そりゃそうだ、

 こんな気持ちの悪い仕事。


 俺だって、文句の一つも言いたくなる。


 だが――



「急いで荷を改めろ、長居はすんな!」


 俺の言葉で伊賀者たちは、

 地へ降ろされた籠を、次々と開けていく。


「お、食い物だ」


「布に、酒まであるぞ」



「…………」


 元・三野臣高彦の品が積まれている。


 そんな話だったはずだ。


 だが。


 出てくるのは、

 暮らしに使う物ばかり。


「やっぱり、フクロウの野郎、

 嘘ついてやがったな」


 まあ、それでも。


 城之越が、冬を越すためには、

 ありがたい物だがな。



「あまり欲張んな、

 持てる分だけを持っていけ!」


「ヒコ、お前も行くぞ」


 他の者たちが山へ向かうなか、

 クマコが、声を掛けてきた。


「先に行ってろ」


「……いそげよ」


 荒れた道を一度振り返り、

 クマコは、木々の間へ消えていった。


 そうだ。


 最後に残るのは、俺でいい。



――――――――――


「おい、生きてるか」


 倒れた三野の男のひとり。

 その傍らへ、俺はしゃがみ込む。


「うっ……」


 額の傷は深くない。


「ちっ、めんどくせぇ……」


 手持ちの布をちぎり、

 流れる血へ、強く押し当てた。



「いっ……!」


「我慢しろ」


「なんで……」


「下手に死なれたら、

 こっちが、困るんだよ……」


 男の目は怯えていた。


 いきなり荷を奪われ、殴り倒されて、

 恨むなって方が無理な話だ。


 それでも、

 死人だけは出しちゃいけねえ。



「このくらいなら、死にゃしねえな、

 あとはしばらく寝てろ」


 男を、地へ戻し。


 その奪った槍を、

 少し離れた場所へ放り投げた。



「もし追ってきたら――

 今度は、もうちょい痛い目見るぞ」


 それだけ言い残すと、

 俺も、樹木の間に入っていった。



 白い霜の残る「三野の道」は、

 いくつもの足跡に踏み荒らされて。


 倒れた籠、折れた槍、散らばった荷。


 その間に、わずかな血だけが、

 赤く残っている。


 それでも。


 死んだ者だけは、

 一人も、出さなかった。


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