↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~  作者: 露李鈴
● 187年| 冬:九章「揺らぐ道」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
177/230

第百七十三話 ★瀬渡・沼にむかう道

◇【伊賀臣瀬渡(いがのおみせと)】視点◇



「また、梟(ふくろう)からの催促か……」


 白い溜息がこぼれる。


 竪穴の中だというのに、

 城之越の夜は、震えるほど寒かった。


 中央の炉は薪を惜しみ、

 そのわずかな火を保つだけである。



 阿閉から来たという男が

 我らの前で、膝をついている。


 だが、その実は、フクロウの手の者だ。



「返事は、どうしましょうか」


 伊賀之水瀬(いがのみなせ)が静かに問う。


「返事なんかいらねえだろ」


 伊賀之火子(いがのひこ)が吐き捨てた。



「あんな奴らの言うことなんか、

 聞く必要ねえ」


「…………」


 阿閉からの使いは、ヒコに睨まれても、

 顔色のひとつも変えない。


 ここでの悪態も、

 フクロウへ持ち帰るだけなのだろう。



――――――――――


 そんな阿閉の使いが運んできた言伝は、

 あまりにも酷いものだった。



――次の月が満ちる日の、早朝。

――三野から、青山へ向かう交易品を襲え。


 荷の出る日。


 通る道まで。


 ご丁寧に添えられている。



「今の三野臣とは、

 裏で密かに話がついておりまして……」


 阿閉の使いは続ける。


「今回の荷には、かつて、

 三野臣高彦さまのものであった品が、

 多く含まれておりまして……」


「城之越が襲ったように見せて、

 それを返してもらう手はずとなっております」


「もちろん、阿閉臣さまも、

 裏で承知しておられるとのことです」



「馬鹿馬鹿しい――っ」


 普段は冷静なミナセが、

 おもわず、その声を荒らげた。


「今の三野臣黒犬(みののくろい)と、

 タカヒコが、裏で繋がっているはずがない」


「まして、阿閉臣まで加わるなど……」



「だから言ってんだろ!」


 ヒコが膝を強く叩いた。


「フクロウの野郎が、

 勝手に阿閉臣の名を使ってるだけだって!」


「ならば、どうする?」


「決まってる」


 ヒコが身を乗り出す。


「本当に饗守(あえもり)が命じたのか、

 本人に確かめりゃ済む話だろ」



「…………」


 我は、炉へ目を落とし。


 赤くなった薪の端を、

 手に持った細い枝で押し込んだ。


「それでは、月が満ちる日に間に合わぬ」



「だったら……」


 ヒコが食い下がる。


「この、フクロウの勝手な命を、

 そのまま、饗守(あえもり)に教えてやりゃいい」


「勝手に名を使われてるぞってな」


「ヒコ」


「なんだよ」


「その時、饗守(あえもり)が、正直に答えると思うか?」


「……は?」



「我が命じたと――

 饗守(あえもり)なら喜んで言うだろう」


 そして。


「その命に、城之越は背いたとな……」



「あの野郎のやりそうなことだ」


 ヒコが舌を鳴らす。


「真偽は関係ないということですね」


 ミナセも眉を寄せた。



「フクロウも、こんな話を、

 我らが信じるとは思っておらぬだろう」


「だが、嘘だと分かっていても、

 従うしかないとも知っておるのだ」


「くそっ……!」


 ヒコが拳を握る。



「なら、もう三野へ話を通そうぜ」


「こんな阿閉なんかに、

 いつまでも従ってる必要ねえだろ!」


「どうやってですか……」


 ミナセの一言に。


 ヒコの身体が、ぴたりと止める。


「今の三野臣黒犬(みののおみくろい)のもとへ、

 どうやって我らの話を届けるんです?」


「それは……」



 今の我らには――


 三野へ直接、

 話を通せる者すらいない。


 今、城之越から使者を出したところで。


 阿閉の差し金か。

 高彦の罠か。


 そう、疑われるだけだろう。



「それに、三野が、

 我らの手を取る保証もありません」


 ミナセは静かに続ける。


「今から三野へ、

 橋を繋ぎ直すには時が足りぬ」


 我は、ゆっくりと息を吐いた。



 * * *


 昔。


 三野臣が、タカヒコであった頃。


 阿閉と何かあった時の備えとして、

 城之越が生き残れるように。


 人を替え、山を越え、阿閉の目を掻い潜り。

 三野と何度も使いを交わしてきた。


 そうして、ようやく繋いだ細い橋だった。


 それが今となっては――


 * * *



「皮肉なものだな」


「父上?」


「我らが生き残るために繋いだ、

 三野との橋が……」


 我は、目の前の男を指先で示す。


「今ではフクロウという形となって、

 我らの首を絞めておる」


 ヒコも。


 ミナセも。


 何も言わなかった。



――――――――――


「まあ、飲むしかあるまい」


 ゆっくりと立ち上がる。



「父上……っ」


「分かっておる、ヒコ」


 荷を襲わなければ、

 阿閉の命に背いたと責められる。


 襲えば、今度は、

 三野との争いを広げたと難癖をつけられる。


 饗守(あえもり)なら、

 どちらに転んでも理由を作るだろう。


 そこに道はあっても、


 今の城之越には選ぶ術がなかった。




「ミナセ」


「はい」


「月が満ちる日の朝、

 三野から出る荷を確かめよ」


「フクロウの言葉を、

 決して、そのまま信じるな」


「分かりました」


 ミナセは、一度だけ、

 使いの男へ視線を向ける。


「荷を運ぶ者の数と、

 その守りも見てきましょう」


「ああ、頼む」



「ヒコ」


「……なんだ」


「本当に荷が出るなら、お前が行け」


「俺が?」


「ただし、人は殺すな」


「…………」


 ヒコは訝しげな表情を浮かべる。


「逃げる者は追うな、

 向かってくる者は殺さず退けよ」


「なんだよそれ」



「ここで三野の者を殺せば、その恨みが残る」


 いつか我らが阿閉を離れ、

 三野へ手を伸ばす時が来るかもしれぬ。


 荷なら返せる、詫びることもできよう。

 だが、殺した者は戻せぬ。


「三野の血を流せば、これからの道を、

 自らの手で焼くことになる」


 そして、それこそが、

 饗守(あえもり)の最も望むところだろう。



「でもよ、荷の守りもいるんだろ?」


 ヒコは、ミナセを見る。


「そいつらを殺さず、

 押さえて、荷だけ奪えってのか?」


 それから視線を我に戻し。


「そんな真似、できると思ってんのかよ」


「普通の者にはできぬだろうな……」


 ふと、天井を見上げる。



「だからお前に頼むのだ、ヒコ」


 我は、息子をの目を、

 まっすぐに見る。


「それをやれ遂げれるのは、

 城之越で、お前しかおらぬ」



「…………」


 ヒコは、

 しばらく我を見返し。


「……ったく」


 その、握っていた拳を、

 ゆっくりと開き。


「難しいことは、

 オヤジと、ミナセに任せるとして」


 小さく息を吐いて。



「俺は、俺にできることをやるとするか」



 炉の中で。


 焼けた薪がひとつ。


 音もなく崩れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。