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卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~  作者: 露李鈴
● 187年| 冬:九章「揺らぐ道」

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第百七十一話 修羅の道

 ぱちり――


 薪が爆ぜるたび。


 魚の脂が焼ける匂いが、

 白い煙に混じり広がっていく。



「おいしそ~」


 名張の広場。


 中央に燃える「巫女の火」のまわりには、

 みんなで使う炉がいくつかある。


 そのひとつで。


 昨日、イバラたちの獲った魚が、

 ずらりと並べられていた。


 昨夜、食べきれなかった魚。


 その腹を裂き、肝を抜いたものを、

 今日は煙に当てている。



「にぃに、これ、いつ食べれるの?」


「昨日も食べたでしょ」


「きょうのも、おいしそう……」


 イミコは、火に小さな手をかざしながら、

 じぃっと炉の魚を見つめていた。


「そんなに見てもできないよ」


「むぅ……」


 目の前で魚から脂が落ち、

 じゅっ、と音を立てる。


「イバラさんたち、

 ずいぶん、獲ってきましたねぇ」


 魚の焼き目を返しながら、アサメが笑う。


「今日もヤナセに獲りに行くって、

 息巻いてましたよ」


「そりゃ助かるねぇ」


 そんな時。



「アシが戻ったぞー!」


 環濠の入口から男衆の声が響いた。


「お、来たか」


 俺は立ち上がる。


 イミコも続くが。


 名残惜しそうに、

 一度だけ、炉を振り返る。


「おさかな……」


「逃げないから」



「お魚は、私が見ていますから。

 おふたりは行ってらっしゃい」


「んっ」


 アサメに見送られ。


 俺たちは、

 環濠の入口へ向かった。



――――――――――


 環濠の橋を越えて、

 市庭の広場まで出ると。


「戻ったぞ」


 三野へ知らせを届けていたアシが、

 こちらへ歩いてきた。


 その脛には、

 乾いた泥がこびりついている。



「……おかえり、アシ」


「おう、火の巫女様も元気そうだな」


「んっ」


 イミコが、嬉しそうに頷いた。


 その後ろから。


 大きな荷を背負った、

 三野のカナメたちもやってきた。



「みな、ひさしいな」


 どさり――


 背負ってきた荷が、

 次々と地へ降ろされる。



「三野臣からの返事だ」


 アシが口を開く。


「青山の者たちが、

 次の市庭に来るそうだ」


「おお、それは嬉しいのう」


 シラガが目を細めた。



「それでな」


 アシが続ける。


「波多からだけじゃなく、

 三野からも礼の品を贈りたいそうだ」


「ほう」


「今回、先に、いくつかの道具を持たせてくれた」


 こうして話を聞いてる間にも。


 カナメたちの手によって荷の縄が解かれ、

 石斧や、木鍬が、土の上へ並べられていく。



「次の一巡り後に食べ物や、

 ほかの礼品を、まとめて送るそうなんだが」


 そこで、アシが間を取った。


「次の荷が多いため、三野臣は、

 三野にある修羅(しゅら)を使いたいそうだ」



「修羅(しゅら)……?」


 聞き覚えのある名前を、

 俺は、記憶から引っ張り出す。


 以前、大石を運ぶために使った木そり。


「たしかに修羅(しゅら)なら、

 人が背負うより多くの物を運べますね」


 たくさんの品を運ぶため、

 それだけでも、十分に意味はある。


 まだ、馬のないこの辺りで。


 より大量の食糧などを運ぶことが、

 できるようになれば。



 この『道』が、戦にも――



「三野臣も、おもしろいことを考える」


「なんじゃ?」


「いえ、なんでも」


 俺は、少しだけ笑った。


「荷も多いから、守りも多く付けるそうだ」



――――――――――


「道のほうは、どうでした?」


 名張の道を作ってから、

 初めて迎える冬。



「歩くだけなら問題なさそうだが」


 アシが呟き。


「荷を背負ってると、少し厄介だ」


 カナメが、横から口を挟んできた。



「厄介とは?」


「朝の日陰は、土が凍ってな、

 たまに足を滑らせることがある」


「ああ……」


 カナメの足元には、

 固く乾いた泥がこびりついていた。


「そして、昼になれば緩んで、

 今度はぬかるむ」


「これじゃ、荷が重けりゃ、

 遅れることもあるだろうな」



「なるほど」


 道を作って。


 歩きやすくはなったけれど。


 冬になれば、

 また、別の問題が出てくる。


「履物も、考えたほうがいいか」


 農作業や、川仕事で使う履物はあっても。

 普段の暮らしでは素足で歩く。


 道が変われば、足元だって、

 変えていく必要があるのかもしれない。



「あ、それと最近、

 道で見知らぬ顔が増えたな」


 アシが、思い出したように言った。


「遠くからの行商ですか?」


「それなら、まだ分かるんだが」


 アシは首を傾げる。



「荷も持たずに、

 歩いてる奴がいるんだ」


「荷も持たずに……?」


「青山の者たちが、

 道を見に来たのではないか?」


 シラガが、白い髭を撫でる。


「そうかもしれませんね」


 道が知られれば、

 知らない者が通ることも増える。


 それ自体は、おかしなことではない。


「人が通るための道じゃ、

 増えるのは悪いことではなかろう」


「そうですね」


 俺は頷いた。




「おっ、そうじゃ」


 シラガが声を上げる。


「カナメ殿、帰りに魚を持っていかぬか?」


「魚?」


「昨日、名張川で獲れたんじゃよ」



「ああ、例の野盗どもか」


 三野から来る途中の、

 名張川で、見かけたのかもしれない。


「今は名張の人ですよ」


「そうだったな」


 カナメは、一度だけ黙り。


 小さく笑った。



――――――――――


 しばらくして。


 三野の者たちは、

 来た道を引き返していく。


 三野から荷を運んできた背負籠。


 帰りには、煙の匂いをまとった、

 ヤナセの魚が入っていた。


「じゃあ、また、一巡りの後にな」


 カナメが手を上げる。



 次に来るのは。


 今日より、

 ずっと大きな荷だ。



 魚を載せた籠を揺らしながら。


 三野へ続く道の向こうへ、

 その人影は、小さくなっていった。


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