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卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~  作者: 露李鈴
| 秋:八章「名張の実り」

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第百六十五話 青山編:実りの日

 ごり、ごり――


 こん、こん――


 朝から名張の環濠には、

 さまざまな生活の音が響いていた。



「にぃに、おもい……」


「もう少しだから、頑張ろう」


「うん……」


 そんな中、俺とイミコは、

 二人で大きな土器を抱えて歩いていた。


 土器の中に入っているのは、

 菜の切れ端、魚の骨。


 食べられなくなった生ごみ。


 歩くたびに生臭い汁が、

 たぷたぷと、土器の底で音を立てる。



 重い――


 イミコと二人で持ってこれなのだから、

 俺一人では到底運べないだろう。



「にぃに、だいじょうぶ?」


「だ、大丈夫……だいじょうぶ……」


 そう答えて土器を持ち直す。


 俺も、名張に暮らす一人の村人。


 自分たちから出たゴミくらい、

 自分たちで運ばなければ。


「こっち、だよね?」


「そうそう」


 環濠の橋を通り抜けて、

 皆で決めた捨て場へ向かった。



――――――――――


「そっちは、昨日、

 土を被せたばかりだぞ!」


「なら、今日はこっちか」


「灰の追加、持ってきてくれ!」


 先に来ていた村人たちが、

 それぞれ、声を掛け合っていた。



「イミコさま、こちらにどうぞ」


 ゴミ捨て場にいる女衆の一人が、

 俺たちに声を掛けてきた。


「わかった……にぃに、いくよ」


 よいしょと、イミコが土器を傾ける。


「よし」


 俺も、一緒に力をこめる。


 ざらざらと土器のなかのゴミが、

 捨て場の穴に落ちていく。



 一年前なら。


 環濠の周りにも、

 生活の残りが散らばっていた。


 腐った臭いと、

 そこに群がる虫が当たり前だった。


 それが、今では、

 臭いも虫もずいぶん少なくなった。


 俺が口を出さなくてもいい。



「にぃに?」


「ん?」


「どうしたの、嬉しそう?」


「……ん、なんでもないよ」




「おいっ! そこへ置くな!」


 環濠へ戻る道のほうから、

 イワホコの、大きな声が聞こえてきた。


「持ってこいって言ったのは、そっちだろ!」


 イバラたちの一行が、

 大きな猪を、数人がかりで担いでいた。


「場所の話だ、道の真ん中へ転がすやつがあるか!」


「そうは言っても、重てえんだよ!」


 運ばれている猪は、

 たしかに、かなりの大物だった。



 その先では、すでに。


「ふむ、こんなものだな」


 タケたち、那婆理の民が中心となり、

 肉をさばき、皮を剥いでいた。



「なんだか、みんな、そわそわしてるね」


「今日は特別だからね」


 野盗だった者たちも、

 今日だけは、本環濠へ入ることを許されていた。


「しゅうかくさい!」



 薪を割る音、土器を運ぶ声。


 名張の環濠中が、

 今夜に向けて動いていた。



――――――――――


 中央広場まで戻ってくると。



「イミナ殿」


「あ、ナトリさん、お久しぶりです」


 歩いてきたのは、波多之鳴鳥(はたのなとり)。


 日に焼けた顔には、

 相変わらず柔らかな笑みがある。


 その隣にはカゲハ。


 後ろにも数人、

 波多の者が続いていた。



「今、シラガ殿への挨拶を済ませて、

 イミナ殿がこちらにいると聞きまして」


「わざわざ、ありがとうございます」


「火の巫女さまも、お元気そうで」


「……わぁ、ナトリだ、こんにちは」


 ぺこりと頭を下げる。



「先日、お届けした荷で足りましたかな」


「十分すぎるくらいです」


「なんかもらったの?」


 イミコは俺にむけて首を傾げる。


「このまえの青山の話し合いのお礼で、

 三野臣から五穀をたくさんもらったんだ」


「今回は、波多の酒も回しました」


「わぁ、ナトリ、ありがとう」



「なに、酒か!」


 名張の広場で収穫祭の設営をする、

 イワホコから声があがった。


「もう飲んでいいのか!」


「いやいや、夜まで待ってください」


 そんな俺たちのやりとりに、

 まわりから、どっと笑い声が上がる。



「五穀よりも、酒のほうが、

 喜ばれておりませんかな……?」


「気のせいですよ、多分」



 酒か――


 度数が強ければ、

 消毒にも使えるかな。


 いや、今夜ぐらいは黙っておこう。



「小麦を分けていただき、

 こちらこそ助かりました」


 ナトリが目を細める。


「全部、食べちゃ駄目ですよ」


「分かっておりますとも」


 ナトリが苦笑する。


「この小麦焼きの香りを、

 波多にも広めたいものです」


 ナトリが、くん、と鼻を動かす。


 風に乗って、香ばしい麦と、

 焼ける猪の脂の匂いが漂ってくる。



「今夜、食べられると聞いて、

 楽しみにしておりました」


 ナトリの顔が緩む。


「たくさん焼いてますから、

 楽しみにしていてください」


「それは何より」




 ごり、ごり――


 この音だけは変わらない。


 今夜の小麦焼きも、

 毎日、少しずつ擦って、


 みんなで貯めてきた粉だった。



――――――――――


 日が傾いてきた頃。


 広場には猪の肉、五穀、波多の酒。

 焼き上がった小麦焼きが並び始めていた。



 名張に滞在していた行商たちも、

 荷から少しずつ品を出し、祭の輪へ加わる。


 去年よりも、

 目に見えて食べるものが増えていた。


 そして、それ以上に、

 食を共にする人が増えていた。



「一年、か……」


 去年の収穫祭で。


 イミコは「来年も、みんなで食べようね」と言った。


 今夜、また、

 みんなで食べられる。



 ごり、ごり――


 こん、こん――



「みんな――っ」



 広場の奥から。


 穏やかな空気を、

 切り裂くような声が響いた。



「来てくれ、妻が――っ」


 カヤだった。


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