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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:秋十二章「名張の実り」

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第百六十話  創造の陸:山の先にあるもの

 ざっ、ざっ――


 ずるっ――


 一歩踏み込んだ足元で。

 枯れ葉と一緒に、小さな石が滑った。


「うわっ……」


 俺は、慌てて、近くの木へ手をついた。


 崩れた落ち葉の下から、

 湿った土の匂いが立ちのぼった。



「あしもとに気を付けろよ」


 前からタケの声が飛んでくる。


「は、はい……」


 ここまで来ると。

 もう、三野から続く「道」とは呼べない。


 細い山道。


 片側は斜面。


 木の根が地面を這い、

 落ち葉の下には石が隠れている。


 気を抜けば、すぐに足を取られた。



「にぃに、だいじょうぶ?」


「うん、大丈夫だよ……」


 そう答えながらも、

 少し、俺は息が上がっていた。


 どうやら、俺よりイミコのほうが、

 山道には強いらしい。


 やはり、このイミナの身体、

 どうにも体力が追い付いてこない。



「んっ……」


 イミコが、その小さな足を、

 精いっぱい持ち上げる。


「ほら」


「ありがと、にぃに」


 俺の手を借りて、

 よいしょ、と根を乗り越える。


 小さなイミコの身体には、

 木の根ひとつが、大きな段差になっていた。


「だいじょうぶ?」


「……ん、へいき……」


 イミコが、

 その額に張りついた髪を払うと。


 また、前に進んでいく。


 その横を。


 クロが、軽々と駆け上がる。



「……クロ、げんきだね」


「わんっ」


 すこし先で振りかえると、

 尻尾を、大きく振っていた。


「犬と張り合うなよ」


 タケが笑った。


 さすがは那婆理の民。


 タケも、ハヤトも足場の悪さを、

 ほとんど苦にしていない。



「ふむ、こっちだな……」


 そして、先頭を歩くカゲハ。

 彼は山を歩くだけではなかった。


 道そのものを見分け、

 俺たちの歩きやすい道を選ぶ。


 危険な石を避け、

 邪魔な枝をかきわけていく。



――――――――――


「……少し休むぞ」


 先頭を歩くカゲハの足が止まる。


 見上げれば、

 青空を遮るように木々が茂っている。


 その中に、わずかに開けた草むらがあった。



「はぁ……」


 俺は、誰よりもはやく、

 手前の大きな岩へ荷を下ろした。


 瞬間。


 一気に肩が軽くなった。


 歩いている間は暑かったのに。


 足を止めると、

 汗が急に冷えていく。


「つかれたぁ……」


 イミコも。


 俺の隣へ、

 ちょこんと腰を下ろした。


「お水、飲もうか」


「うん」


 竹筒の水を、すこし口に含む。


「おいしい……」


 イミコが、ほっと息を吐く。



「ずいぶんと歩きましたね」


 木々の隙間から、

 登ってきた谷筋を覗けば。


 さっきまで歩いていた谷筋が、

 ずいぶんと下に見えた。


 少し離れたところでは、

 ハヤトが、クロにも水を与えている。


 タケは木へ背を預け。



 カゲハは、大きな岩へ腰を下ろしていた。


 昨日。


 あの竪穴で聞いた言葉を、

 思い出す。


「カゲハさん」


「……なんだ」


「柏尾を出てからは、

 ずっと波多にいたんですか?」


「いや」


 カゲハは、手にした水筒へ目を落とす。


「しばらくはどこの者でもなかった」



「どこの者でも……あ、それって……」


「環濠の外だ」


 カゲハも、また。


 俺たちや、あの野盗たちと同じように、

 環濠の外を生きた者だった。



「俺は運がよかった」


「運が?」


「柏尾を出て、しばらく流れの身となったが、

 やがて波多に拾われた」


 カゲハが、木々の向こうへ目を上げる。


「どこの者とも知れない俺を、

 波多は……ナトリ様は受け入れてくれた……」


「そうだったんですね」



「でも」


 少し考えてから聞いてみる。


「今は、波多も、

 三野と一緒になっていますよね」


「黒犬様に異はない、だが――」


 谷から吹く風が。

 一度だけ、木々をざわりと鳴らした。


「俺が仕えるのは柏尾でなければ、

 三野でもない……」


「波多であり、ナトリ様だ……」



「カゲハさんは、はた、すきなんだね」


 隣で、イミコが小さく首を傾げた。


「……」


「……そうだな」


 カゲハは、少しだけ口元を緩めた。



 そんな彼の表情を眺めていると。

 不意に、昨日の言葉が浮かんでしまった。


 俺は柏尾へ戻れば、殺される――



「カゲハさん」


「なんだ」


「柏尾では……」


 そこで一瞬。


 その言葉を口に出すか迷った。



「何があったんです?」



 カゲハからの返事はない。

 それでも、言葉を続けずにはいられなかった。


「もし、俺たち名張で、

 なにか力になれることがあれば……」


「しっ」


 カゲハが、

 口元に人差し指を立てる。


 ほぼ同時に、

 クロの耳が、ぴくりと立った。


 ハヤトが無言で、

 その首元へ手を添える。



 カゲハは、

 木々の奥を見据えていた。


 俺も目を凝らす。


 樹木の幹に、森の影。

 風に揺れる葉。


 その、どこにも人影など見えない。


 にも関わらず。



「おそらく――」


 かさり――


 遠くで。


 枝葉が、一度だけ揺れた。



「囲まれている」


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