↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:秋十二章「名張の実り」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
162/176

第百五十八話 創造の肆:伊賀という名

「さて」


 三野臣黒犬みののおみくろいが膝へ手を置いた。


 ここは、三野の本環濠、

 その一番奥にある大きな竪穴。



「こたび、みなに来てもらったのは、

 知らせに伝えた通りだ」


 炉の向こうに三野臣が座っていた。




「伊賀についてじゃな」


 左隣に座るシラガが呟いた。

 そのさらに奥にはタケが座っている。


 反対の右隣にはイミコ。


 ハヤトとクロは、

 竪穴の入口近くに控えている。



「伊賀まで、道でも、

 伸ばそうっていうのか」


「そうではない」


 三野臣は目を細くした。


「今、北へ道を繋いでも、

 その先には阿閉が構えているからな」




「伊賀に、なんの用があるのじゃ?」


 シラガが髭に手を添える。


「今ある道と、荷へ、

 手を出さぬよう話しておきたい」



「俺たちの道で、

 好き勝手すんなってことか」


 タケが腕を組んだ。


「言い方は悪いが、

 まあ、そういうことだ」


 三野臣は小さく頷く。


「道に手を出せば、三野だけではなく、

 名張も動くぞと見せておきたい」


 手元にある土器を手にとり、

 水を一口、含んだ。



 そんな時――


 伊賀は、一枚岩ではない。


 以前、ナギトから聞いた言葉が、

 俺の脳裏をよぎった。



「どこの伊賀に話を通すのですか?」


「それがわからぬのだ」


 三野臣は手に持った土器を、

 静かに、地に置いた。



「なので、知る者を呼んだ」


 竪穴の入口へ、三野臣が視線を向ける。


 そこには一人の男が立っていた。



――――――――――


「カゲハさん?」


 波多の環濠を治める、

 三野之鳴鳥みののなとりに仕える男衆の一人。



「久しいな」


 入ってきたカゲハは、

 俺たちへ、一度だけ目を向けると。


 炉を挟み、三野臣から、

 少し離れた場所へ腰を下ろす。



「波多から来てもらった。

 元は、伊賀の生まれだという」



「伊賀の生まれといっても……」


 カゲハが口を開く。


「伊賀には城之越じょのこしに、依那古いなこ……青山あおやま柏尾かやお……」


 淡々と。


 聞き慣れない名が、

 炉の火を囲んで次々と落ちていく。


「そんなにあるのか」


「ほかにも、小さな集まりは、

 まだいくつもある」


 カゲハは、どこか遠い視線を浮かべていた。




「それらをまとめる長は誰なんじゃ?」


「伊賀を統べる者はいない」


 カゲハの返事は早かった。



「同じ名の下にありながら、

 長も違えば、守る土地も違う……」


 シラガの指が、髭の上で止まる。


「つまり、同じ伊賀でも、

 仲間とは限らないというわけだな」


 タケが、小さく鼻を鳴らした。



「その中でも、大きい伊賀というのは、

 どこになるのでしょう?」


「城之越、依那古、柏尾あたりになる」


「……カゲハさんの生まれは?」


 その問いに。


「…………」


 逡巡するカゲハの様子がみえた。



「柏尾だ」



「それなら、柏尾の伊賀にむけて

 カゲハさんから話を通してもらうなど――」


「無理だ」


 カゲハの答えは早かった。



「俺は、もう、柏尾の者じゃない」


 カゲハは視線を炉に落とす。


「そして、柏尾へは、

 俺を連れて行かないほうがいい……」




「それはどうして?」


「やつらが俺を見かければ」


 ぱち、と。

 薪が小さく爆ぜる。


「おそらく、殺しに掛かってくるだろう」


 隣で。


 イミコの指が、

 そっと俺の袖へ触れる。



「その時、名張や、三野の者を連れていれば、

 それも柏尾の敵と見られるだろう」


「それほどまでか……」


 シラガが静かに頷いた。



――――――――――


「問いを変えよう」


 三野臣の声が沈黙を断ちきる。



「北の伊賀へ出向くとして。

 まず、どこに声を掛ければいいのだ?」



「ここより北へ向かうなら――」


 カゲハは、何かを想いふけるように。


「まずは青山の伊賀に当たるだろう」



「青山……」


 行商のナギトから預かったものを、

 俺は、思い出した。


 腰袋から取り出したのは、

 掌に収まる、かの古びた石包丁。


 二筋の刻みが表面に残っている。



「青山の者から、

 これを渡されています」


 カゲハに石包丁を手渡した。


 その二筋の刻みを、

 親指で、ゆっくりとなぞる。



「……古い伊賀の印だな」


「青山なら、これを見せれば、

 俺たちの話くらいは聞いてくれると」


「何もないよりは、いいだろう」


 カゲハは、それだけ言うと、

 石包丁を俺の手元に戻してきた。


 その程度と言うことだろう。



「そこで、青山と話がついても、

 伊賀の全部とはならないんですよね」


「そのとおりだ。

 青山と結んだ約束を、

 城之越や、依那古が守る道理はない」


 だが――


「何もしない理由にはなりませんよね」




「カゲハ、青山までの案内を頼めるか?」


「青山なら案内はできるが、

 話をまとめるのは、お前たちに任せるぞ」


 カゲハは、俺に視線をむけてきた。



「はい」


 俺は、手の中の、

 古い石包丁を握りなおす。



 まずは――



 青山の伊賀だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。