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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:秋十二章「名張の実り」

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第百五十六話 創造の弐:まわりはじめる知識

「面白い、ですか……?」



「ああ」


 イワホコは、

 こちらを見ることもなく答えた。


 太い指が、俺の刻んだ、

 不揃いな溝をゆっくりとなぞる。


「で、これを、お前はどうしたいんだ?」


 イワホコが顔を上げる。



――――――――――


「えっと……」


 俺は、イワホコの隣、

 二枚の石の前へしゃがみ込んだ。


「下の石は動かさずに、

 上の石だけを回したいのですが」



「こいつは、このままか」


 イワホコが下臼を叩き、

 今度は、上臼へ両手を掛ける。


 ごり――


 石同士が低い音を立てて擦れあう。


 すこしだけ動かしたところで、

 上臼が、横へずれた。



「すぐに外れるな」


「本当は、真ん中に軸を通すんですが」


「軸?」


「上下で石の中心が、

 ずれないようにするための棒です」


 イワホコの視線が、

 二枚の石の中央へ落ちる。


「木か?」


「……木でも作れると思います」


「思う?」


「……はい」


 おもわず言葉に詰まる。




「……で、さらに上から麦を入れる穴も

 開けたいのですが」


「このあたりか?」


 こんこん、と。


 イワホコが、

 上臼の中央を指で叩く。


「はい、そこから入れた麦が

 石の間へ落ちて潰れていきます」



「なるほど。それで……

 石を直接持って回すのか?」


「いえ、上臼には柄を付けようかと」


「この辺か」


 イワホコは上臼の端へ拳を置いて、

 棒でも握るように腕を動かす。


「……たぶん」




「これには、なんの意味があるんだ?」


 イワホコの指が、不揃いな溝へ移る。


「麦を噛ませて潰すためです。

 砕いたものを外へ送る役目もあります」



「ふむ」


 ざらり――


 太い指を、溝の上に滑らせる。



「何本だ?」


「え?」


「この溝は何本掘るんだ?」


「それは……」


「あと、深さはどれくらいだ?」


「……」


「線はまっすぐか、斜めか?」


「……」


「上と下の溝は、

 同じ形でいいのか?」



 答えられない――


 俺の頭のなかには、

 後の時代に使われる石臼の姿がある。


 溝の役割も、働きも分かっている。


 けれど、その線を、

 どう刻むのか、わからない。



「何本もの溝が、

 必要なのは確かなんですよ」


「そうだな」


「でも、どれくらい深く、

 どういう向きに刻めばいいのかまでは……」


「分からんか」


「はい……」


 石粉のついた指を、

 膝の上で、無意識に握り込む。



「すみません」


「ん?」


「こんな、曖昧なことばかりで……」


「なにを謝ってんだ?」


 イワホコは眉を寄せる。



「いや……だって……」


 俺は、石臼に刻んだ、

 いびつな溝に視線を落とす。


「肝心なところが全然分からなくて……」



「それを、これから考えるんだろ」


 イワホコは、

 そう、あっさりと言い放った。



――――――――――


「要は……」


 ごつ、と。


 下臼を叩く。


「こいつが動かねえようにして」


 次に、上臼へ手を掛ける。



「真ん中からずれないように、

 この上だけが、まわるようにして」


 溝をなぞり。


「その間へ麦を噛ませて、

 潰したものを外へ出すんだな」


 最後に、上臼の端を、

 柄でも握るように掴む。



「で、今より楽に回せりゃいいと」


「はい」


「そこまで分かってるなら、

 何を謝ってるのか俺には分からんな」



「……」


 何も言えなかった。



「なあ、イミナ」


 イワホコは、もう一度、

 上臼を持ち上げる。



「これ、俺も考えてみていいか?」


 石肌と溝を確かめてから。


 ごとん――



「いいんですか?」


「おもしろそうだからな」


 当然のように、そう言った。


「それなら、石を削るのが得意な奴にも、

 見てもらうとするか」


 きょろきょろと環濠をみわたす。


「軸や、柄なら、木を扱う奴にも、

 話を聞きたいところだな」


 それから。



 ごり。


 ごり――


 すぐ近くで磨石を動かしている、

 男衆や、女衆たちにも視線をむけた。



「実際に使う奴らにも、話を聞かねえとな」


「え?」


「どこが重い、どうなら楽になる、

 ……毎日使ってる奴が一番分かるだろ」


「たしかに……」



 俺は――


 自分の知っている石臼を、

 そのまま、形にしようとしていた。



 イワホコは――


 名張の人たちが使えるものを、

 これから、作ろうとしている。



「お願いします」


 そう、口にした途端。

 握っていた指が、ようやく緩んだ。



――――――――――


「おい!」


 イワホコが近くの男衆へ声を飛ばす。


「石を削るのが上手い奴、

 あとで、何人か呼んでくれ!」


「イワホコがまた、なにか言い出したぞ、

 今度は何を作るんだ?」



「俺にも、まだ分からん!」


「分からんって……」


 男衆が笑う。


「だから、考えるんだろ」


 イワホコも口元を緩めると。


 再び、上臼へ、両手を掛けた。


 ごり――



「……うむ、確かに重い」


 それでも、イワホコは、

 その石から手を離さなかった。



 俺が手を止めた、

 その先で。


 今度は――


 別の手が、

 石をまわしはじめていた。


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