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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:秋十二章「名張の実り」

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第百五十話  秋の伍:★野盗のイバラ:悪くない

◇【野盗のイバラ】視点◇ (※前話と同時刻)



 ざくっ。


 ざくっ――



「……くそっ」


 すきを振り下ろす。

 湿った土が、木の先へまとわりつく。


 朝から、ずっとこれだ。


 掘って。


 土を運んで。


 また掘る。


 すきを握り直すたび。

 擦れた手のひらが、じくりと痛ぇ。


「なんなんだよ、この重さは……」


 すきの先端部にはりついた土を、

 すぐ横のかごへ放り込み。


 また、同じ場所へすきを突き立てる。



「おい、そっちじゃねえぞ」


「あぁ?」


 土を入れたかごを抱えると、

 名張の男が声を飛ばしてきやがった。


「そっちへ積んだら邪魔になるだろ、

 こっちの足元だよ」


「分かってるよ!」


「分かってねえから言ってんだ」


「うっせえな……」


 かごを握る指へ、

 思わず、力が入る。


 それでも。


 言われた場所へ、

 重てえかごを運んでいく。



「そうそう、そこだ」


「最初から言えってんだよ」


 確かに。


 こっちへ積んだほうが、

 邪魔にはならねえ。


「ちっ……」


 だからって。


 礼なんざ、

 言ってやらねえけどな。



――――――――――


「つ、つかれた……」


 少し離れたところから、

 聞き慣れた情けねえ声がした。


 ノギだ。


 大きな木材の端へ座り込み、

 肩で息をしていやがる。



「すこし、木を運んでただけだろ」


「そうは言っても、重くて……」


 三輪の男が、

 ノギへ、声を掛ける。


「だったら、次は濠を掘るか?」


「えぇ……それは無理ぃ……」


 周りから、

 小さな笑い声が上がる。


 ちくしょう、舐めやがって。


 重たそうに木を持ち上げようとする、

 ノギの方に、一歩踏み込む。


 だが。


「ほら持っていくぞ」


 俺が声をかける前に、

 三輪の男が、木の反対側を持ち上げる。


「あ、ありがとう……」


 二人は、そのまま、木を運んでいった。



「…………」


 昔なら。


 知らねえ奴に声を掛けられりゃ、

 まず、オレ様のほうに視線をむけていた。


 それが、今じゃ……。


 三輪の男と並んで木を運んでやがる。



「……まあ、いいけどよ」


 遠ざかる背中を見ているうちに。

 噛みしめていた奥歯から力が抜ける。


 野盗だった頃なら。


 こんな朝から晩まで、

 土を掘る必要なんざなかった。


 けど。


 腹を空かせることも。


 眠りながら、

 仲間の裏切りを気にすることもあった。


 それが、今では。


 夜になりゃ、

 倒れるみてえに眠ってる。




「イバラ! 手ぇ、止まってるぞ!」


「分かってるよ!」


 ……くそ。


 今は、今で、

 働かされてばっかりじゃねえか。



 すきを握り直す。


 ざくっ。


 足元には。


 朝にはなかった濠の段差。


 今日掘ったぶんが、

 明日に、ちゃんと残っていく。


「……ふん」


 だからって楽しいわけじゃねえ。

 こんなの、ただの土掘りだ。



――――――――――


「…………っ…………っ」


 少し離れたところで。


 名張の坊主が、

 イワホコと話していた。



「結局、あれから、

 誰も逃げてないんですね」


「ああ、全員いるな」


 そんな言葉だけが耳に入ってきた。



「…………」


 逃げる――


 それを考えなかったわけじゃねえ。


 顔を上げてみると、

 見渡す限りに名張の山が見える。


 昔なら迷わず逃げ込んでいた。



 だけど。


 逃げて、どこへ行く?


 また山で腹を空かせながら、

 道を通る奴を襲って。


 奪って、追われる。


 また、あの、なんの意味もない、

 繰り返しの日々に戻るのか。


 それにくらべりゃ……。


 まだ、オレ様の足元には浅い濠しかなく、

 毎日帰る竪穴は借物だ。



 でも、これを完成させりゃ――



「逃げたりするもんか」


 おもわず声が出てしまった。


 こんな童に、なにか言ったところで、

 なにが変わるわけでもないのに。


「聞こえてたんですか」


「そりゃ、聞こえるってんだよ」


 オレ様は、泥のついたすきを肩へ担ぐ。



 この数日。


 まわりからの言葉が、

 うんざりするほど聞こえてくるんだ。



「せっかく、ここまで掘ったんだ」


 足元へ続く濠を見る。


「途中で放り出すなんて、

 気持ち悪いだろ」



「よし、その心意気だ」


 イワホコが、

 でけえ声を上げた。



「それじゃ、今日は、もうひと作業だ!」


「へいへい……」


「ぐぇ、まだ掘るのかよ……」


 あちこちから文句が聞こえてくる。

 だが、誰もが動き始めていた。



 オレ様も、すきを握りなおす。


 ふと振り返れば。


 昨日よりも、また少し、

 濠は伸びていた。


「…………」



 まあ。


 悪くは――



「イバラ」


「あぁ?」


 振り返ると。


 ノギが、すぐ横に立っていた。




「なんだよ」


「いや……」


「だから、なんだってんだよ」


「その……」


 オレ様の顔を、じっと見てやがる。


「なんだよ、気持ち悪ぃな」


「ち、違うよ」


「さっさと言え」



「今日の、イバラさ……」


 ノギは、

 少しだけ困ったように笑った。


「あ?」


「ずっと文句、言ってるよな」



 はあ――?



「当たり前だろ!」


 擦れて赤くなった手を、

 ノギへ突き出す。


「朝から土掘って!

 手ぇ痛えし、腰も痛え!」


「名張の奴らも、三輪の奴らも、

 好き勝手に指図してきやがる!」


 一旦、荒い息を吐きだす。



「なんだってんだよ、こんな苦労……」


「でも……」


 ノギは、オレ様の悪態なんざ気にせず。


 昔と変わらねえ、

 穏やかな微笑みを浮かべていた。


「イバラ、良い顔になってるから」


「…………」



 不意に――


 握っていたすきの柄が、

 手の中で少し下がる。



「……うっせえ」


 すんでの所ですきを握りなおすと、

 なんとか、それだけを口にした。




「ほら、ノギ、この木も運ぶぞ!」


「あっ、いま行く!」


 ノギは、木を運ぶ連中のほうへ、

 ふらふらになりながらも走っていった。



――――――――――


「…………」



 良い顔。



 オレ様が――?



 泥まみれで。


 汗まみれで。


 朝からずっと、

 土ばかり掘らされて。


 それなのに――



 泥のついた指で、

 自分の頬を、ざらりとなぞる。



 そうか。



 オレ様は。


 笑っていたのか――


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