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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:秋十二章「名張の実り」

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第百四十九話 秋の肆:馴染んでいくモノたち

 名張の山で蜂の巣を収穫して。

 蜜蝋を作り、一日が過ぎ。


 イミコと山小屋へ帰る道すがら。


 ざくっ。


 ざくっ――


 秋の風に混じって、

 土を掘る音が聞こえてきた。



「わぁ、ひろーい」


 イミコが、足を止めて周りを見渡した。


 音のする方へ視線を向ければ、

 以前は、草が広がっているだけだった土地に。


 草は踏まれ、土は掘り返され、

 浅い濠が大地に長い線を引いていた。



 新しい環濠である。


 濠の脇には掘り出された土。


 その周りには、切り出した木や、

 いくつもの籠が置かれていた。



――――――――――


「おーい、イミナ! イミコ!」


 遠くで、イワホコが手を上げながら、

 こちらに歩み寄ってきた。



「作業の様子を見に来たのか?」


「いえ、山への帰りみちですが」


 俺は、掘りかけの濠を見渡した。


「随分と作業の進みが早いですね」


「あいつらが思ったよりも頑張ってくれてな、

 まあ、まだまだだけどな……」


 イワホコは、

 泥のついた腕で額の汗を拭いながら。


 今も、作業している者たちに視線をむけた。



 名張の男衆が、土へ、鍬を振るい。


 その横を、三輪の男が、

 土の入った籠を担いで通る。


 その向こうには。


 イバラや、ノギをはじめとした、

 あの十人の姿もあった。



「三輪の人たちも作業しているんですね」


 ユラが、三輪の男衆に声を掛けながら、

 作業の指示を出している。


「やっぱり、新しい環濠を作るとなると、

 三輪の知識は頼りになるからな」


 イワホコが、その様子を見ながら笑った。


「さすがですね」




「あら、イミナ様」


 こちらに気づいた三輪のユラが、

 ゆっくりと歩いてきた。


「ユラさん、おつかれさまです、

 三輪の皆さんにはお世話になります」


「いえ、こちらこそ」


 ユラは、小さく首を横に振る。


「名張の皆様の手仕事には、

 今でも、学ぶことばかりですから」


 そう話している間にも。


 ユラの後ろを、三輪の男たちが、

 籠を担いで通り過ぎていく。


 ユラは一礼すると。


 すぐに、その作業の中へ戻っていった。



――――――――――


「おい、そっちじゃねえぞ」


 名張の男の声が響きわたる。



「あぁ?」


 土を入れた籠を抱えたイバラが、

 気だるそうに振り返る。


 その額には大粒の汗が浮かんでいた。



「そっちへ積んだら邪魔になるだろ、

 こっちの足元だよ」


「分かってるよ!」


「分かってねえから言ってんだ」


「うっせえな……」


 文句を言いながらも。


 イバラは、名張の男衆に言われた場所へ、

 ずっしりと重い土を運んでいく。


「そうそう、そこだ」


「最初から言えってんだよ」


 おたがいに乱暴な口調ではあるが、

 二人は、特に気にするでもなく作業を続ける。


 少し前までなら。


 こんな言葉尻のひとつから、

 すぐに空気が張り詰めていただろう。




「つ、つかれた……」


 離れたところから、

 野盗のノギの声が聞こえてくる。


 大きな木材の端へ座り込み、

 肩で息をしていた。


「すこし、木を運んでただけだろ」


「そうは言っても、重くて……」



「だったら、次は濠を掘るか?」


「えぇ……それは無理ぃ……」


 そんな声に、周りの者たちから、

 小さな笑い声が上がる。


 ノギも、困ったように笑っていた。



「ほら持っていくぞ」


 そう言いながら、三輪の男は、

 ノギの運ぶ木材の反対側を持ち上げた。


「あ、ありがとう……」


 今度は、二人掛かりとなって、

 木を運び始めた。


 まだ、多少のぎこちなさはあるけれども、

 すこしずつ馴染みつつある。




「結局、あれから、

 誰も逃げてないんですね」


「ああ、全員いるな」


 隣で、イワホコが頷いた。



 厳しい見張りを、

 置いているわけでもない。


 それでも。


 誰一人、姿を消していなかった。



「逃げたりするもんか」


 不意に、イバラの声が飛んできた。


「聞こえてたんですか」


「そりゃ、聞こえるってんだよ」


 泥のついた鍬を肩へ担ぎ。


 掘っている環濠の中から、

 イバラは、こちらを見上げてくる。



「せっかく、ここまで掘ったんだ」


 足元へ続く濠を見て。


「途中で放り出すなんて、

 気持ち悪いだろ」


 その全身は、泥と汗にまみれていた。



「よし、その心意気だ」


 イワホコが、男衆へ声を上げる。


「それじゃ、今日は、もうひと働きだ!」


 大きな声を作業場へ響かせながら、

 イワホコは、また環濠の作業場に戻っていった。


「へいへい……」


「ぐぇ、まだ掘るのかよ……」


 他の野盗だった者たちの口からも、

 あれこれと文句が漏れる。


 それでも。


 一人。


 また、一人と立ち上がり。


 自然と鍬を持ち、籠を担ぐ。



 ざくっ。


 ざくっ――


 再び。


 土を掘る音が、

 あたりへ響き始める。



 その合間には。


 文句に混じって、

 時折、笑い声まで聞こえてきた。



 俺は。


 しばらく、その光景を眺めてから、

 また歩き始めた。




 まだ、環濠と呼ぶには浅い濠でしかない。


 柵も、竪穴もなければ、

 炊事の煙が昇ることもない。


 まだまだ何もない場所だ。


 それでも。


 ここにはもう。


 ここで暮らそうとしている、

 人たちの姿があった。


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