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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:秋十二章「名張の実り」

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第百四十七話 秋の弐:残り物には価値がある

 ぽたり。


 ぽたり。


 黄金色の蜜が、

 細い糸を引いて壺へ落ちていく。



「うむ、これは良い蜜が取れるぞ」


 タケは満足そうな表情を浮かべながら、

 壺に、蜜をこしていく。



 山から戻った俺たちは――


 名張の環濠広場で。

 蜂の巣から、蜜を採集していた。




「おっ、蜂の蜜か」


 遠くからシラガの声があがった。


 そして、珍しい甘味の収穫に、

 環濠の女衆や、子供たちが集まってくる。


 子供たちの間から、

 コイシが、壺を覗き込んでいた。


「わ、わぁ……」


 蜜が、ぽたりと、

 壺のなかに落ちるたび。


 まわりの子供たちの目も、下へ動く。



「あまり、近づきすぎるなよ」


 大きな壺の上へ、

 タケは、目の粗い籠を置き。


 その中で、採ってきた蜂の巣を崩していく。


 そのたびに、

 巣の奥に残っていた蜜が。


 とろり、と。


 少しずつ、下の壺へ溜まっていった。



「これ、ぜんぶたべるの?」


 コイシが、期待するようにタケを見上げる。


「そんなわけあるか」


 タケが即座に返す。


「蜂の蜜は、病の者に使うこともあるし、

 神へ供えるにも使うからのう」


 シラガの言葉に。


「そっかー……」


 子供たちの間に、

 残念そうな声が上がった。



「ほれ」


 タケが、作業で指に着いた蜜を、

 近くの木の棒に移した。


「いいの!?」


 コイシの顔が、ぱっと明るくなる。


「地に垂らすよりは、ましだ」


「やった! みんなっ、蜜もらった!」


 たちまち、子供たちが、

 コイシの周りへ集まっていった。



「にぃに……」


 隣では。


 イミコが何も言わないまま、

 蜜の壺と、俺の顔を交互に見ていた。


「俺に言っても駄目だよ」


「まだ、なにもいってないよ?」


「顔に書いてあるから」


「むぅ……」



「巫女様、こちらなら良いですよ」


 そこへ、アサメが、

 蜜を抜き終えた巣の欠片を持ってきた。


 まだ、巣穴の奥には蜜が残っている。


「わぁ~っ」


 イミコは、大事そうに両手で受け取ると、

 嬉しそうに蜜を舐め始めた。


「おいしい……」


 その周りでも。


 蜜の残った巣が、

 子供たちへ、分けられていく。



――――――――――


「よし、これで、

 大体の蜜は取れたな……」


 タケは、その作業の手を止めた。


 集められた蜜は、

 いくつかの小壺へ移されている。


 地面には、蜜を抜かれ、

 形の崩れた巣だけが残っていた。


「じゃあ、こいつは捨てるぞ」


 タケが、それをまとめようとする。



「あっ、待ってください」


 俺は、その背中に声をかけた。


「その巣、もらってもいいですか?」


「これをか……?」


 横で、シラガが眉を寄せる。


「もう、蜜は残ってねえぞ」


「欲しいのは蜜じゃないんです」


 俺は、巣の淡い黄色の部分を、

 ぎゅっと指先でつまんだ。


「こっちの巣です」



「そんなものを何に使うんじゃ?」


「試してみたいことがありまして」


 俺は、巣の残骸を、

 さらに細かく崩していく。


 それから。


 麻布に包むと、

 水を張った土器へ沈める。



「煮るのか?」


 広場で水を沸かすために設置された炉、

 タケは、そのひとつの準備を始める。


「沸かすほどじゃなくて、大丈夫です。

 ゆっくりと温めてください」


 火のそばへ、

 皆で、しゃがみ込む。



 しばらくすると。


「……お?」


 タケが、水面を覗きこむ。


 小さな油の粒のようなものが、

 麻布から抜け出し、水面に浮かんでくる。


 それら、少しずつ繋がり。


 淡い黄色の膜となって、

 どんどんと水面へ広がっていった。



「なんじゃ、これは……」


 シラガは眉を寄せて眺める。


「蜜蝋です、蜂の巣を作っている蝋ですよ」


「蜜蝋……と言うのか……」



「それじゃ、あとは、

 冷えるまで待つだけです」


 蝋が出なくなったところで、

 俺は、土器を火から下ろした。



「それなら、待つ間、

 こちらの蔵に来るといい」


 シラガは、そう言うと、

 名張の環濠の奥へむかった。



――――――――――


 名張の奥にある、

 小さな蔵へやってきた。


 穀を収める蔵とは違い、

 中には、小ぶりな壺が並んでいる。



「蜜や、薬など、

 特に貴重なものを置く蔵じゃ」


「ここの壺も、全部、蜂蜜ですか?」


「そうじゃ。以前に採ったものになる」


「結構、残ってるんですね……」


「病の者や、祭りの時にしか使わぬからの」



「どれくらい保存できるんですか?」


「水気に触れさせなければ、

 かなり長く持つぞ」


 シラガが壺を置くと、

 そのまま、俺たちは蔵を後にした。



――――――――――


「おう、戻ったか」


 名張の環濠広場に戻ると、

 そこでは、もう子供たちは遊びまわり。


 女衆も、それぞれの仕事へ戻っていた。



「にぃに! かたまってるよ!」


 土器の縁へ、両手を掛けたイミコが、

 目を丸くして水面を覗いていた。


 そこには。


 一枚の淡い黄色の蝋が、

 水面に浮かんでいた。



「うまくできたな」


 水面に浮かんだ蝋を、持ち上げる。


 軽い。


 さらに、指で押せば、

 わずかな柔らかさが残っている。


「これが、おぬしの言っていた蜜蝋か」


「はい」



 ただ捨てられるはずだった蜂の巣。


 それが今。


 俺の掌の上で、

 一枚の蜜蝋になっていた。


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