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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:夏十一章「蠢く国々」

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第百三十九話 道の漆:野盗の命の価値は

 手が震えていた。


 鼻の奥には、血と、

 踏み荒らされた土の匂い。



 俺は、初めて、

 戦場の最前線に立った。


 怖くないはずがない。


 それなのに。


 胸の奥の深いところが、

 妙に静かだった。



 * * *


 槍の間合いに、人の足運び。


 そんなことが、なぜか、

 自然と分かるような気がした。


 戦場に立つのは初めてなのに。


 どこか、懐かしさすら――


 * * *



「おい、イミナ、大丈夫か?」


 タケの視線は、

 俺の、握りこんだ手に向けられていた。


「はい……」


 俺は、震える指を、

 あわてて衣の中に隠した。


 タケは、それ以上、何も言わなかった。



――――――――――


 そんな、俺たちの横では。


「こいつが野盗の長で、

 名は、イバラと言うらしい」


 イワホコが、野盗を尋問していた。



「で、おまえらの寝床はどこだ?

 近くにあるんだろ?」


「…………」


 縛られた仲間たちに、

 イバラは、その視線を向ける。



 野盗の一人は、肩から血を流し。


 別の男は、倒された時に打ったのか、

 苦しそうに身体を丸めていた。



「先に、こいつらの傷を見ろ」


「あ?」


「寝床を教えてほしいんだろ……」


 イバラが、イワホコを睨み返す。


「こいつらの傷を手当てしろ、

 そうしたら寝床の場所を教えてやる」



「なっ……なにを勝手なことを……」


 横から、アラトの声が飛んできた。


「じ、自分たちがなにをしたのか、

 わかって言ってるのか」


 護衛を二人も殺され、

 妻に、娘と危険に晒された行商のアラト。


 怒るのも仕方がない。


 だが――



「嫌なら、自分たちで探せばいい、

 オレ様は何も喋らねえ」


「き、貴様っ……」



「分かりました、

 手当てをしてあげてください」


 俺は、二人の話に割ってはいる。



「本気ですかっ!?

 二人も殺されているんですよ?」


 アラトが目を見開いていた。


「だからですよ」


「こんなところで死なれて。

 償いもせず終わられては困ります」


 そもそも、最初から、

 野盗たちの手当てもするつもりだったのだ。



「…………」


 アラトは、納得できないといった表情。


 それでも口を閉じてくれた。



――――――――――


 そうして、

 野盗たちの怪我の手当ても始まり。


 野盗の長のイバラは、

 それを見届けると口を開いた。


「この大岩からくだって、すぐの沢だ」



「川で向かおうとしていた先とは、

 別のところになるんですね」


「奪った荷物の一部を手土産に、

 川のむこうの奴らと、合流する」


「……そういう手はずになっていたんだ」



「川の向こう……山の神か……」


 イバラの言葉に、タケが反応をみせた。


「なんですかそれ?」


「このあたりで、

 一番大きいと言われる野盗の群れだ」


 興味深そうに、

 タケは山の向こうに視線を向ける。


「ただ、その姿を見て、

 戻った者は誰もいないんだよな」


 イワホコは肩をすくめてみせた。



 山の神――


 本当にいるなら、

 放っておくわけにもいかない。


「寝床を調べてみましょう。

 何か手掛かりがあるかもしれません」



――――――――――


「……ここであってますか?」


 それは、木と、

 草を重ねただけの雨避け。


 擦り切れた獣皮。


 ひび割れた土器。


 土器の底には。


 食べ物を最後まで掻き取ったような、

 細かな跡が残っていた。


 そして。


 十人で分ければ、

 一食にも足りそうにない食べ物。



「……なんだ、文句あんのかよ」


 イバラが鼻を鳴らした。


 俺を見ることなく、

 隠れ家の奥へ、顔を向けたまま。


「思ったよりも、みすぼらしくて驚いたか」



 奥を調べると。


「これは……」


 その粗末な寝床には、

 不釣り合いなほど綺麗な布がある。


 他にも、いくつかの荷が積まれていた。



「盗品だろうな」


 タケが言う。

 

「物取りは、今回が、

 初めてではないようだな……」


 イワホコがため息をこぼす。



「そうですねぇ……」


 環濠の外での山の暮らしが、

 苦しいのは分かる。


 だが。


 それで、奪い、殺したとがが、

 消えるわけではない。



――――――――――


「で、俺たちは、

 どこへ売られるんだ?」


 自分の手首の縄を見ながら、

 イバラが、呟いた。



「売る?」


 俺は、おもわず聞き返してしまった。



「奴婢にするんだろ……?」


 さっきまで。


 槍を持って戦っていた時より、

 ずっと小さな声だった。



「べつに奴婢にはしませんよ」


「…………」


 周りの野盗たちも、一斉に顔を上げる。



「じゃあ、殺すのか……?」


「…………」



 俺は、少しだけ言葉を探す。



「まだ、決まっていません」


「決まってねぇだと……?」


「俺たちだけで決めて、

 良いことではありませんから」



「つまり、どうする気だ?」


 タケが、眉を寄せる。



「一旦、名張へ、連れて帰り、

 三野にも声をかけて話し合いましょう」


「そんな必要があるのか?」


 イワホコが不思議そうに首を傾げた。


「この道は、名張だけのものでは

 ありませんから……」


 奪われた荷を見る。



「被害に遭ったアラトさんも交えて、

 皆で、決めるべきだと思います」


「皆でだぁ……?」


 両手を縛られたまま、

 イバラが、顎だけを上げる。


「そんなもん、

 一番強え奴が決めりゃいいだろ」



「それで、あなたたちは、

 ここまで来てしまったんですね」


「……あ?」



「また、同じことが繰り返されないためにも、

 ここは皆で話し合いましょう」


 そうして俺がまわりを見渡すと、

 皆、しずかに頷いた。



「よし」


 イワホコが、

 その大きな石斧を担ぎなおし。


「そうと決まれば、名張へ帰るぞ」


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