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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:夏十一章「蠢く国々」

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第百三十八話 道の陸:★野盗のイバラ:ふたつの伍

◇【野盗のイバラ】視点◇



 槍の穂先が。

 前にも、後ろにも並んでいた。


 だが、数なら、ほとんど変わらねえ。



「ノギ!」


「お、おう……っ」


「三人連れて後ろを抑えてろ!

 オレ様たちは、全力で前を潰す!」


 向こうが十人、こっちは九人。

 たった一人の違いだが、こちらが不利だ。


 なら短期決戦で決めるしかない。



 飢えては、奪い――


 そんな、地獄のような世界。


 そのなかで生き延びてきた、オレ様たちが、

 環濠育ちに負ける道理があるものか。



「行くぞ!」



――――――――――


「おらああッ!」


 向こうの馬鹿でかい石斧の柄が、

 こちらの槍を弾いた。


 その直後。


 別の屈強な男が、横から滑り込み、

 仲間の足を槍の柄で払った。



「ぐあっ!」


 早え……。


 倒された仲間は槍が奪われ、

 そのまま、地面へ押さえ込まれる。



「イバラ! 後ろも来たぞ!」


「そっちは、てめぇらでなんとかしろ!」


 一度、後ろで誰かの声が上がれば。


 おもわず、

 後ろへ振り返ってしまう。


 そのたび。


 正面の槍が、

 一歩詰めてきやがる。



 挟まれている側だけが、

 前へ、後ろへと、忙しなく首を振る。


 相手は、常に前だけを見ていればいい。


 こんなんじゃ、

 まともに戦えるわけがねえ……。



「テメエら、一か所に集まり、

 背中合わせになれ!」


 オレ様の掛け声に皆が集まる。

 仲間の数は、すでに目に見えて減っていた。


「イバラ、お、俺たち……」


 ノギの手は震えていた。


 怖え時ほど、黙り込むのは昔からだ。


 だが、それでも、

 こいつは逃げやしねえ。


 それだけは知っている。



「うおおっ!」


 ノギが槍を振り、

 名張の男の槍を弾いた。


 その穂先が相手の腕を掠める。


「ぐっ!」


 傷を負った名張の男が、一歩下がる。


 よし、でかした。


 一人退かせれば、

 そこの横一列に穴ができる。



「すまん、まかせた」


 名張の男は悔しがるでもなく、

 そのまま、横一列の後ろに引き下がった。


 すると横の男が一歩ずれる。


 空いた隙間が、あっさりと塞がれた。


 誰からの指示がなくても、

 一人の抜けた穴を埋めやがった。



「ちっ、くそっ」


 オレ様も槍を振り、

 前方の伍に飛び掛かる。


 一人と何合か穂先を交わすと、

 他の奴らの槍が、横から飛んでくる。



 オレ様たちが並べる槍と。


 あいつら名張の「伍」の動きは、

 根っこから違っていた。



「ちっ、これが伍か……」


 噂には聞いていた。


 だが。


 相手にすると、

 こうも厄介なものなのか。



――――――――――


「ぐあっ!」


 また一人、仲間が倒された。


 その喉元へ、

 石槍の穂先が落ちる。



「っ――」


 その寸前で穂先が止まる。


 持っていた槍が蹴り飛ばされ、

 腕を後ろへ回されて、縄を掛けられる。



「なんだ、殺さねえのか?」


 殺す度胸もねえってのか。



「イバラ! またやられた!」


「分かってる!」


 こちらは残り四人。


 皆、すでに息が荒い。

 槍の柄が、汗で滑りやがる。


 名張のほうだって、

 汗を流し、血を滲ませている。


 なのに、槍の列が崩れねえ。



「くそっ」


 認めるしかねぇ。


 あいつらのほうが、強ぇ……。



――――――――――


「ノギっ!」


「なんだ!」


「左を抜くぞ!

 ここにいたら潰される!」


 オレ様は、石斧の男へ、

 槍を突き出した。



「ふんっ」


 石斧の届く間合いへ入れさせず、

 相手を、半歩下がらせた。



 いける――



「ぐあっ!」


 その時。


 後ろから、

 誰よりも聞き慣れた声がした。



「ノギ!」


 考えるより先に。


 身体が、後ろを向いていた。



「ばっ、馬鹿……イバラ、余所見すんな!」


 その声に、オレ様は我に返り、

 すぐに前を向いた。


 だが、もう手遅れだった。



「っ――!」


 屈強な男の槍の柄が、

 オレ様の槍を叩き落とす。


 手元から、槍が、宙に飛んだ。



 次の瞬間。


 石斧の男が懐へ入りこむ。

 その太い柄で、オレ様は腕を打たれた。



「ぐあっ!」


 おもわず膝が落ちる。



 だが――



「まだ、だ……っ!」


 それでも、片膝で踏ん張った。


 オレ様は負けない。



「イ、イバラ……もう立つな…」


 ノギの声があがる。


 その目は、オレ様を見ていた。



「黙れ!」


「オレたちの負けだ。

 もういい……これ以上、抵抗するな!」


「なにをバカな、そんな寝言を……」


 オレ様は、まわりを見渡した。



 一人。


 また一人。


 仲間たちの槍が地面へ落ちていった。


 カラン、カランと――



 気づけば、怒声も、

 槍を打ちあう音も消えていた。


 森に残るのは男たちの荒い息遣いだけ。



 もう。


 すべては終わっていた――



――――――――――


 オレ様は、

 槍を、地へ落とした。


 すぐに名張の男がやってきて、

 腕を、後ろへ回される。


 縄が、手首へ、きつく食い込んだ。



「なめやがって」


 こちら側の最初にいた十人。


 その誰も、

 死んではいなかった。


 はじめから、

 格下に見られていたってことか。



 だが――


 戦のはじまるまでは、

 その数は、ほとんど同じだったのに。


 それで、このざまだ。


「……くそっ」


 なにも言い返せねえ。



「イバラ……」


 ノギの手が縄の中で震えていた。


「俺たち、奴婢にされるのかなあ……?」


「…………」


 倒した相手を殺さずに縄を掛ける。


 なら、知らねえ土地へ連れていき、

 朝から晩まで働かせる気か。


 それとも、どこかへ売るつもりか。



 負けた奴の末路なら……、

 オレ様たちは、嫌ってほど知っている。



「……黙ってろ、ノギ」


 背中で縛られた両手を、

 オレ様は、強く握り込んだ。



 二度と、奪われる側には戻らねえ――


 そう、

 決めたはずだったのにな。


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