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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:夏十一章「蠢く国々」

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第百三十六話 道の肆:森に響きわたる声

 木々の奥からは。


 野盗の声と、

 川の流れる音が聞こえていた。


 川へ逃げ込まれる前に、

 奴らの動きを、止めなければならない。


 だが。


 援軍はまだ来ない。

 人質もいる。


 さて、どうする――



「おい、イミナ」


 タケが、低い声を漏らす。


 その目は野盗ではなく、

 その先の深い森を見ていた。


「例のあれ、やるぞ」



「例の……」


 森の中。

 姿の見えない敵。


 そして、音。


 この状況、

 まるで以前の三野との戦と似て――


「……いいですね」


 俺は、小さく頷いた。



「トネ、ハヤトは川側へまわれ」


「なるほどのう」


「シロとクロも使いますか?」


「ああ、派手にな」



「皆さん、くれぐれも、

 姿は見せないでくださいね」


「まかせてください」


 ハヤトが犬たちの縄を短く持ち。


 二人と、二匹の姿は、

 すぐに木々の隙間へ消えていった。



「お、お前ら……。

 一体、何をするつもりだ?」


「アラトさんは、我々と一緒に、

 ……くれぐれも物音を出さないように」


 それだけ言い残し。


 俺たちは、野盗の声を追いながら、

 ゆっくりと森を進んでいく。



――――――――――


「あれだな」


 タケが、小さく呟く。




 木々の隙間から、

 野盗たちの姿が見えた。


 十人ほどの男。


 その中心には、

 両手を縛られたアラトの妻。


 隣では幼い娘が、

 石につまずきそうになりながら歩いていた。


「急げ!」


「川まで、もう少しだ!」


 野盗の怒声。


 水の流れる音も、

 先ほどより大きくなっている。




 まだか――


 川側へ目を向けても。

 聞こえるのは、近づく水音だけ。


 間に合わないか。


 そう思った、次の瞬間――



「ワンッ!」



「ワンッ、ワンッ!」


 鋭い犬の声が、

 川の方角から森中へ響きわたる。



「なんだあっ!?」


 ガンッ――!


 ガンッ! ガンッ!


 すぐ後、木を強く打つ、硬い音。



「いたぞぉ!」


 森の奥から、トネの声。


「そっちへまわれ!」


 さらに川寄りから、

 ハヤトの声が返ってくる。


 その、さらに遠くからも、

 けたたましい音が森中に響いた。




「追手だ!


「川の方から、敵は何人だ!」


 野盗たちが状況を確認しようとも、

 茂った木々が、俺たちの姿を隠している。


 ただ、声だけが、幹と幹の間を跳ね返っていた。



「慌てるな!」


 声を張ったのは。


 顔へ、複雑な刺青を刻んだ、

 屈強な男だった。


 おそらく、野盗の長だろう。



「よく聞け! 声は、数人しかいねえ!」



 まずい、気づきかけている。

 こうなれば、勢いで押すしかない。



「俺たちもいきましょう」


「うむ」


 言うが否や。



 ドンッ――!


 タケは、槍の柄を木へ叩きつけた。


「いたぞおおおお!」


 タケの野太い声が、森中へ響きわたる。


 俺も、手にした棒で、

 周囲の草木を激しく叩きまわった。


 ガンッ! ガンッ!


 バサバサッ!




「ひいっ、後ろにもいるぞ!」


「川は駄目だ! 向こうへ行くぞ!」


 野盗たちが、

 山の斜面側へ進路を変えていく。



「お、おまえら、落ち着け……ちぃっ」


 野盗の長が舌打ちする。



 危ないところだった――


 あの男は、

 こちらの人数に気づきかけていた。



「ワンッ!」


「ガウッ!」


 さらに犬の声で、

 追い打ちを掛けながら。



 バシッ――バシッ――!


 トネの投げる石が、

 離れた木へ強くぶつかっていく。


 よくわかっている。


 音だけでいい。


 手数まで見せれば、

 こちらが少数だと悟られるからだ。



「おまえら、例の石に向かえ!」


 長の怒声が響きわたると、

 野盗たちは、山の奥へと姿を消していった。



――――――――――


 そして、あたりはしんと静まり返り。


 しばらくすると。



「なんとか、なったのう……」


 トネとハヤトが、

 シロとクロを連れて戻ってきた。


 ハヤトの額には大粒の汗。


 二匹の猟犬も舌を出し、

 荒い息を繰り返している。



「じゃが、もう同じ手は通じんぞ」


「次は、向こうも、

 槍を構えてくるでしょうね」


「分かっている」


 タケが短く答えた。


 それでも、野盗を川から遠ざけた。

 援軍までの時間は稼いだ。


 これであとは――



 そんな時。


 背後の森から。



「おーい!」


 聞き覚えのある、野太い声。


 木々の間から。


 一つ。


 二つ。


 石槍の穂先が現れた。



「おお、居た居た」


 イワホコが、その姿を現した。

 その手には大きな石斧を担いでいる。


 その後ろには、五人の名張の男衆。



「無茶はしないって言ってたのに……」


 肩で大きく息をする、カヤの姿もあった。



「で、野盗は、どこだ」


 イワホコは、石斧を担ぎ直しながら、

 不敵な笑みを浮かべた。


 ここに、最高の助っ人が、到着した。

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