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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:夏十一章「蠢く国々」

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第百三十三話 道の壱:道の上の道理

「う~ん、小麦の粉作りか……」


 小麦焼きを作ってから数日。


 炊事場では、ほかの仕事の合間に粉を挽いている。

 だが、できる量はわずかなままだった。


 いくら考えても、改善策は浮かばない。



「考えすぎて倒れるなよ」


 タケが、口元の端をあげた。



「こうして道の見回りなどして、

 気分転換もしてますから、大丈夫ですよ」


 名張から三野へ続く道には、

 以前より多くの行商人が歩いている。


 かつては草に埋もれた獣道だったが。


 今では、道筋そのものが、

 土地の外から来た者を導いていた。



「また、行商の人たちが増えてますね」


 俺と、タケが、

 道の様子を見回っていた時。



 道の先から、

 怒鳴り声が響いてきた――



――――――――――


「そちらが退けば済んだ話だ!」


「荷をぶつけたのは、そちらの者だろう!」


 二組の行商人が、狭い道で睨み合っていた。


 足元には、売り物らしい壺と、

 その割れた破片が散らばっている。




「何事だ」


 タケは前に出ながら声を張り。


 カツン――


 槍の柄尻を、固い道へ打ちつけた。

 ぴたりと場の声が収まった。



 タケの姿を確認すると、

 片方の行商が、こちらに歩み寄ってくる。


「俺はアラト、三野へ向かう途中の行商だ」


 その後ろには、妻と幼い娘。

 さらに、三人の護衛。


 最後尾に、重い荷を背負わされた男がいた。


「なんだ、奴婢ぬひが珍しいのか?」


 奴婢ぬひ


 言葉では知っているが、たしか――



 もう片方の行商も声をかけて来た。


「俺はムロ、こっちは連れのイサ。

 名張に壺を売りに行くところだが……」


 厳つい二人組の男たち。

 その足元には、いくつかの壺を詰めたかご


「あの奴婢ぬひの荷が、俺たちのかごへぶつかり、

 売り物の壺が四つも割れたのだ」



「おまえらのかごが道を塞いだから、

 端を通らなくてはいけなくなったんだろう」


「だからといって、その奴婢ぬひが、

 俺たちの壺を割ったことに変わりはないだろう」



 お互いの主張が、ぶつかりあう。


 アラトの護衛たちが、

 槍を握る手へ力を込める。


 ムロも、手にした槍を構えた。



 このままでは、血が流れる――



「壺が、四つも割れたのだぞ」


「なぜ、俺が、すべてを償わねばならん」


 アラトは、奴婢ぬひへ険しい目を向けた。


「足を滑らせたのは、こいつだ。

 こいつが、しっかり歩いておれば――」


 奴婢ぬひの男が、びくりと身をすくませた。



 これは良くない――



――――――――――


「お待ちください」


 俺は、ふたりの会話を遮った。


「なんだ、小僧」


「おまえは名張の……」


 名張のわらべ――


 どうやら、俺のことも、

 行商人には知られているらしい。



「この者に荷を背負わせ、

 道の端を通れと命じたのは、アラトさんですね」


「そうだが……」


「ならば、この者は主の命に従っただけです」


「従者の働きによって得たものが、

 主のものとなるなら、

 その働きから生じたとがも、

 また、主が負うのが道理でしょう」


「ぬっ」


 アラトは言い返せず、

 ただ、眉間に深いしわを寄せた。




「では、割れた壺は、

 すべてアラトが償うということだな」


 ムロが言う。


「壺のかごを、道の中央へ置いたのは、

 ムロさんたちですね」


「休むため、少し下ろしただけだ」


「そのかごが道を塞がなければ、

 アラトさんたちは、柔らかな端を通る必要がなかった」



「そして、アラトさんも……」


 俺は、奴婢ぬひの重い荷を示す。


「これほどの荷を背負わせ、

 無理に端を通らせなければ、

 この事故は起きなかったでしょう」



「ムロさんたちには、道を塞いだとががあり」


 俺は、双方の顔を見比べる。


「アラトさんには、重い荷を背負わせ、

 危険な端を通らせたとががあります」



「では、割れた四つはどうする」


「どちらのとがが重いか、

 今ここで、量ることはできませんが……」


 すべてをアラトへ負わせれば。

 アラトたちは納得せず、争いは再び燃え上がる。


 ムロたちにも、自ら招いた損として。

 いくらかを引き受けてもらう必要がある。



「アラトさんに、

 壺、二つ分を償ってもらいます」


 アラトに向けた視線を、

 そのまま、ムロに移していく。


「残る二つは、道を塞いだ自らのとがとして、

 ムロさんたちが引き受けてください」



 ムロは、イサと顔を見合わせた。


「まあ、半分でも戻るなら、それでもよいが……」



「アラトさんは?」


「すべてを償うよりはマシだ。

 ……分かった、布で二つ分を償おう」


 アラトの妻が、壺二つ分の布を取り出した。



 ムロは、布の織り目を確かめると。


「これならよい」


 と頷いた。



「今後、荷を下ろす時は。

 人が通れる場所を必ず残してください」


 これは今後、道を使う者たちの決まりとなるだろう。


「狭い場所ですれ違えないなら、

 無理に端を通らず、近くの広い場所まで戻る」



「また同じことが起きれば、

 次は、荷では済まないかもしれません」


「そうだな……」


 アラトは、妻の衣を握る娘へ、

 静かに視線を向けた。



――――――――――


 騒ぎを聞きつけた名張の者たちが、

 集まって来るころには、すべて終わっていた。


 二組の行商は、それぞれ、


 三野と、名張へ向かって歩き出していた。



「うまく治めたな」


 後ろで睨みを効かせていたタケが、

 静かに声をあげた。


「あれで良かったのか、

 正直、自信はありませんが……」


「血が流れなかったのだ、上出来だろう」


「そう、ですね……」



「ところで、ひとつ、

 聞きたいことがあるのですが……」


「なんだ」



奴婢ぬひという者たちについて――」


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