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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:夏十一章「蠢く国々」

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第百二十七話 火を預かる者

「もう、待っておれぬ」


 一人の行商人が、

 竪穴の外へ薪を積み始めた。



「何をしているのですか」


 その思いもよらぬ行動を前に、

 俺は、思わず声をあげた。



「火を焚く……女と、子を、

 いつまでも寒空へ置いておけぬ」


 男は、手際よく、乾いた草へ火を起こした。

 それを見た別の一団も、自分たちの火を焚き始めた。



「お待ちください!」


 アサメが駆け寄ってきた。

 名張の村で、巫女の火を長く扱ってきた者だ。


「ここには、むしろも、荷もあるのですよ!」



「我らに、凍えろというのかっ」


「火を使うなとは申しません、

 勝手に、火を増やさないでと言ってるのです!」


 ぱちりと爆ぜた火から、赤い火の粉が舞う。


 言ってるそばから、むしろの端へ落ち、

 ぶすぶすと細い煙が上がる。


「あっ!」


 アサメが急いで駆け寄り、足で踏み消した。



 * * *


 寝床と、火の扱いか――


 皆が、竪穴で他の者を拒む理由。

 それはもう想像が付く。


 誰が火を預かり、

 寝床と、荷の置き場を決めるのかが問題だ。


 そこへ、今度は、火の問題まで重なった。


 ならば、竪穴と火。


 その二つを、

 一人の責任へ結べばいい。


 従う相手と、その理由を、

 こちらで用意すれば良いだろう。


 * * *



「さきほどまでの割り振りは、やめましょう」


 俺の言葉に、場がざわめいた。



「どの竪穴へ入るかは、

 みなさんが、自分で選んでください」


「……我らが、好きに選ぶのか?」



「竪穴ごとに一人、管理者を名張で決めます」


「かんり、しゃ……とな……」


 聞きなれない言葉に、

 まわりは互いに顔を見渡していた。



「竪穴に入ることを希望する者は、

 そこの管理者の言葉に従ってください」


「従えぬなら……?」


「別の竪穴を選べばよいのです。

 どこも嫌なら、外で夜を越しても構いません」


「そんな乱暴な……」


「だが、筋は通っておる」


 まわりには不満げな顔は残っていた。

 だが、先ほどまでとは違う。



 勝手な組み合わせを、

 名張に押しつけられるのではない。


 誰と夜を越すのか。

 それを、自分たちで選べるのだから。




「それでは、竪穴ごとに、

 名張の火を預かる者を決めていきます」


 環濠から運ばせた「巫女の火」の熾火おきびを、

 アサメが、小さな土器へ分けていく。



「この人はという者の名があれば、

 皆さまからも、遠慮なく挙げてください」


 積極的に、皆の声を取り入れる。


 自分たちで選んだという実感。

 それが、必要なのだ。


 各交易団から、皆が顔を知る年長者や、

 発言力のある者の名が挙がる。


 そうして。


 三野のカナメ、波多のホナミを含む、

 五人の火を預かる者たちが選び出された。



――――――――――


「このひで、みんなが、

 あったかくねむれますように」


 イミコが、熾火おきびへ、小さな手をかざす。


 選ばれた五人の竪穴を預かる者たちは、

 神妙な顔で、その頭を下げた。



 名張の火の巫女から、竪穴の管理者に、

 一夜の火が与えられたのだ。




「俺たちは、カナメの竪穴へ入るぞ」


 三野からの行商人たちが、カナメのもとに集まった。



「女や子がいる者は、あたしのところへ来な。

 入りきらなければ他の竪穴へ分かれてもらおう」


 ホナミの声に、家族を連れた者たちが動き始める。



 先ほどまでとは違い、

 人々は、管理者に従って動き始めた。


 荷は、炉から離れた壁際へまとめるため、

 持ち主の手を離れ、置き場を移されていった。



――――――――――


 そうして、夜の支度が整い始めた頃――



「……まだ、入れるか」


 最後まで外に残っていた男たちが、

 肩を震わせながら、カナメの竪穴に顔を見せた。


「火の決まりに従うならな、

 だが、ここはもう人が満ちている」


 カナメは、そう告げたあと。


「隣の竪穴へ行け、話は通してやる」


「かたじけない……」


 カナメの言葉に、男たちは頭を下げた。



 * * *


 自分たちで選んだカナメの竪穴に、

 彼らは、入れなかった。


 それでも。


 自ら選んだ相手の指示には従えるのだ。


 * * *



 満月の下。


 いくつもの竪穴から細い煙が立ち上る。


 違う土地の者たちが、

 自ら選んだ、火のそばへ腰を下ろしていた。


 従わせたのではない。

 自ら選び、納得して従える形へ変えたのだ。



――――――――――


 人々が、眠り支度を始めた頃。



「おかしいな……」


 一人の行商人が、壁際の荷を退かしていた。



「どうした」


「ここへ置いたはずなんだ……」


 むしろの下を覗きこんでは。


 似た形の麻袋を、

 ひとつずつ、確かめていった。



 次第に、その顔から、血の気が引いていく。



「ない……」


 震える声が、竪穴の中へ落ちた。



「俺の、荷が、どこにもないんだ――」


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