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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:春十章「繋がる名張」

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第百二十三話 ★瀬渡:伊賀に送り込まれた火種

◇【伊賀臣瀬渡いがのおみせと】視点◇



「阿閉の者たちが参りました」


 夕暮れに染まる伊賀の環濠。


 その入り口に繋がる柵門へ、

 泥と、血にまみれた一団が姿を現した。



「六人だけとな……」


 事前の通達では、二十余りの三野兵を、

 まずは預かる手はずだったが。



――――――――――


「山で、野盗に襲われた」


 阿閉の兵隊長らしき男が、

 前に出てきて忌々しげに吐き捨てる。


「その隙に、三野之梟みののふくろうが兵を扇動し、

 十四人が山へ逃げ込んだ……」


「そうですか」


 むざむざ、逃げられたのか――



「死者はの数は」


「おらぬ……だが、奴らの後を追えば……、

 さらに損害は増えたかもしれぬ」


 死者を出さなかったのは、

 おそらく、野盗側の手際のよさだ。


 狙いの本命は荷ではなく、

 その、運んでいる人にあったはず。


 そして、実際に三野兵を傷つけることなく、

 無事に山へと逃がしたのだろう。



「わ、わしは、正しい判断をしたのだ……」


 ただの野盗働きではない。

 ならば「山神」の民の手によるものだろう。


「わしは悪くない、野盗が……フクロウの奴が……」


 兵隊長の声は震えていた。


 兵も、奴婢も。

 どの環濠にとっても貴重なものだ。


 阿閉臣饗守あとじのおみあえもりから預かった兵を。

 むざむざ野盗へ奪われたとあれば。


 阿閉あとじへ戻ったところで、ただでは済むまい。



「ともかく、その六人の三野の者たちは、

 伊賀臣瀬渡いがのおみせとが、しかと預かった……」


「う、うむ……。

 野盗どもの不意打ちであったと、

 くれぐれもアエモリ様へ申しておくように」



「兵の糧は、これだけか?」


 阿閉から届けられた荷を確かめていた、

 伊賀之火子いがのひこから声が上がった。


「た、足りぬ分は……伊賀のほうで出せ……」


 兵隊長は視線をそらした。


「荷を奪われたか」


 失態に次ぐ、失態というやつだな。


「くっ……」


 兵隊長が眉をしかめて、我に顔を向けてきた。



「ここから、さらに逃げる者が出れば、

 こたびの件、伊賀の手によるものと見るぞ」


「なんだとっ」


 兵隊長の見苦しい責任転嫁を前に、

 一瞬、伊賀之火子いがのひこの眉が吊り上がる。


「よせ」


 弟の伊賀之水瀬いがのみなせが、その肩を押さえる。



「……息子が失礼した、委細承知」


 我が、頭を下げると。


「ふんっ……」


「田舎者は礼儀も知らぬと見える、

 はよう、我らの泊る竪穴に案内せい」


 兵隊長は、威張り散らしながら、

 伊賀の環濠の奥へと、勝手に進んでいった。



――――――――――


 阿閉の一団が、

 竪穴に姿を消した後。


 伊賀の環濠、その柵門の前に、

 六人の三野兵が残された。



 我は、一歩前にでる。


「なぜ、フクロウと共に逃げなかった」



「逃げられなかったのです……」


 長い沈黙の後。

 ひとりの男が口を開いた。


「計画を聞かされていなかった者、

 傷ついた仲間を置いていけなかった者、

 事情は、それぞれですが……」


 唇を噛み締めていた。



「そうか……まあ、まず、

 伊賀の環濠のなかで水を飲むがよい」


 三野の六人を、柵の内へ促した。


「すぐに粥も用意しよう……、

 これからの話は、腹を満たしてからとしよう」


 我らは、阿閉ではない。

 だからといって三野の味方でもない。


 阿閉という共通の敵がいようとも、

 簡単に、お互いを信用できるわけではない。



――――――――――


 夜。


 阿閉の者たちを、

 柵門近くの空き竪穴へ寝かせた後。


 我らは、離れた竪穴で、

 息子たちと粥を食べていた。


 粥を啜る音と。


 薪の爆ぜる音だけが、あたりに響く。



「人手が増えるのは助かるな……」


 ヒコが、声を潜めながら言う。


「伊賀へ心を寄せれば、いずれ、

 彼らは頼りになる兵にもなりましょう」



「兄上……」


 ミナセが、低く息を吐く。


「彼らが逃げれば、我らが責に問われ、

 暴れたら三野と結んだと疑われる」



「阿閉と内通する者が混ざっていれば、

 我らを探る目にもなる……」


 我も、さらに伝える。


「むう、そうか……」


 ヒコが、口を閉じた。



「人を信じるのは美徳だが、

 信じすぎるというのは考えものだぞ」


 我は、土器を手に、水をひと口。


「それよりも問題は、

 姿を消したフクロウたちだ……」


 我ら伊賀が、阿閉へ反意を抱いていることは、

 フクロウも薄々は知っているはず。


 ならば、伊賀と手を組み、

 水面下で動く手も、あったはずだ。


 それなのに。


 フクロウは、伊賀の環濠へ来るより。

 山へ潜ることを選んだ。



「フクロウは、すぐに動くとは限らぬ……」


 我らを信用していないのか。


 それとも。


 阿閉にも、伊賀にも縛られぬ兵を。

 山の内へ隠すつもりなのか。


「各地の伊賀の筋に、

 今回の襲撃の情報を流しておけ……」


 そうすれば各自が目を凝らし、

 おのずと情報が集まってくるだろう。


「承知しました」


 散り散りの伊賀でも。


 ひとつの山を見ることならば、できる。



 今回の、伊賀に届いた六人の三野兵。

 山に姿を消した十四の三野兵。


 それらが、この伊賀の山で。


 どのような火種となるのか。



 とくと見せてもらおう――


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