第百二十一話 三輪の陸:繋がり合う国々
倭の国々から、争いをなくすためには。
道と、品によって、
ひとつの中心に国を繋げていく。
* * *
ああ、そうか。
それで――
邪馬台国が生まれるのか。
倭の、いくつもの国が。
ひとりの女王を中心に。
ひとつの結びへ、変わっていく。
* * *
俺は、隣のイミコを見た。
「……ん? にぃに?」
イミコは不思議そうに首を傾げる。
いつか、この子が。
倭の国々を結ぶ、その中心に、
立つような日が来るのだろうか。
――――――――――
「争うより、繋がるほうが利となるか……」
三輪君が、ゆっくりと言葉を繰り返した。
「そこで必要となるのが、
土地の名に、字を定める者にございます」
俺は、顔を上げる。
「名を……」
正堂に、低いざわめきが広がった。
「同じ者から字を認められた土地は、
遠く離れていても、
同じ、結びの内にあると示せます」
「ゆえに、三輪君が字を認め、
授ける側にまわるのがよいかと……」
「だが、そのような権威を作れば、
大陸のむこうの漢が黙っておらぬぞ」
阿倍臣が、険しい顔で口を挟んできた。
「まさしく、それこそが字の強さです」
俺は、正堂を見渡した。
「今、この場に、漢の兵は一人もおりません」
一度、息を置く。
「それでも皆さまは、漢の名と、
漢より授けられる印を、
重く受け止めて恐れております」
「漢は、海の向こう、遙か西。
その槍は、三輪に届かないというのに」
* * *
黄巾の乱が起きたというならば。
これより、漢は、長い内乱へ向かうだろう。
少なくとも、今、海を越えて、
三輪へ兵を差し向ける余力などないはずだ。
だが、それを知るのは俺だけ。
* * *
「我ら、三輪が、字を扱えるとなれば、
それはたしかに強いが……」
「しかし、三輪が名を授けたところで、
遠い者が従うとは限らぬ」
「はい、名を与えるだけでは誰も従いません。
だからこそ、道と、市庭による利を作るのです」
道の繋がりを壊せば、その利を失う。
「その中で、三輪君が、土地の字を認めて、
その輪を乱すものを治めるならば」
「同じ道を守る者たちとして、
ひとつになれるかと」
――――――――――
「なるほどな」
三輪君が、わずかに目を見開いた。
その太い指が、膝を、ゆっくりと叩く。
「この大和をひとつに結び、
漢さえ、我らを無視できぬ形まで、
育てるということか……」
「そのとおりにございます」
先ほどまで笑っていた者たちも、もう声を上げなかった。
「そのためには――」
「そこまでじゃ」
三輪君の低い声が、俺の言葉を断ち切った。
「さすがに、話が大きくなりすぎた」
「倭の国々を繋ぎ、漢すら無視できぬ権威を作るなど」
「今、この場で、安易に決める話ではない」
「おっしゃるとおりにございます」
俺は、深く頭を下げた。
――――――――――
「ひとまず」
三輪君の声が、再び、正堂へ響く。
「これまで名張が定めてきた字は、
三輪が認めたものとする」
「はっ」
「ただし、今後、勝手に、
新たな字を授けてはならぬ……」
「字を定める時は、
必ず、三輪へ話を持ってまいれ」
「承知いたしました」
「その先については、
追って、考えるとしよう……」
「はっ、仰せのままに」
額が床へ触れそうなほど深く、
俺は、頭を下げた。
ただの目印だった字に。
三輪の権威が宿った。
すべては。
ここから始まる――




