表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:春十章「繋がる名張」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
123/124

第百十九話 三輪の肆:倭を統べるもの

 まずい――


 正堂の空気が、あきらかに変わった。



 問題は「隠」の旗の文字か。


 三野に与えた「三」や、波多の「波」の、

 どちらかに触れてはいけない禁忌でもあったのか。



 いや、落ち着け。


 本当に致命的な失態なら、

 市庭いちばへの支援が、先に約束されるはずがない。


 まだ、大丈夫なはず――



――――――――――


「名張の扱う、字についてだが……」


 三輪君みわのきみの低い声が、正堂へ響いた。


「あれは、まことに大陸の字なのだな」


 その視線が、横に並ぶ者たちへ向けられる。



「間違いございませぬ、

 海を渡ってきた者へ確かめました」


 阿倍臣あべのおみが頭を下げた。


「形に多少の違いはあれど、

 ……それは確かに、字であるとのこと」


「さようか」



 三輪君みわのきみの視線が、俺に戻る。


「名張の童よ。その字を、どこで学んだ」


「それは……」


 汗が、頬を伝う。



 * * *


 未来の知識。


 などと言えるはずもない。


 大陸の者に教わったと偽れば、

 さらに、細かいことを問い詰められるだろう。


 この場、どう切り抜ければ――


 * * *



「天が、おしえてくれたんだよ」


 隣から、イミコの声がした。


「にぃに、そういってた」



「天、か……まあ、それでもよかろう」


 納得した顔ではない。


 こちらが言いづらいことを、

 三輪君みわのきみは、それとなく察しているのだろう。


 そのうえで話を進める。

 つまり、問題は、別のところにあると。



「問題は、三野や、波多へ、

 おぬしが勝手に字を与えたことにある」


 あ、そこか――


「環濠や、荷を見分けるための目印で、

 あれはそんな大層なものでは……」



「……安心せい。

 おぬしを、取って食おうという話ではないわ」


 三輪君みわのきみは、わずかに口元を緩める。


 すると、まわりの者たちの姿勢も緩み、

 正堂の緊張がわずかに和らいだ。



――――――――――


「問題は二つ」


 三輪君みわのきみは指先を二つ立てた。


 年輪のように皺が刻まれながらも、

 太く、力を感じさせる、そんな指だった。




「一つは、倭の内における影響じゃ……」


「あ……」


「旗へ記し、荷へ付け、道へ置けば、

 やがて、その字は土地を示すことになろう」


 確かに。


 道を迷わないよう、

 ただ、目印を与えるだけのつもりが。



「それは同時に、字を定める者に、

 人と土地の形を定める権威が生まれる……」


 三野之鳴鳥みののなとりに「波多」の字を授けたとき、

 まさに彼は、泣いて喜んでいた。


 あの時、俺は、名を授ける者となっていた。



「そこまでは、考えが及ばず……」


 頭を下げようとした時。


「よい」


「えっ」


「そこまでならば、まだ……、

 名張の奇妙な業として目もつむれよう」



「問題は、二つ目のほうにあるのだ」


 三輪君の声が低くなった。



――――――――――


「我らの扱う品に刻まれた字は、

 海の向こうの大国、漢に刻まれたものだ」


「漢……」



 殷、周、秦に続く――


 海の向こう、大陸にある大国。


 その大陸のほうでは、

 すでに字を使った文章が用いられているだろう。



 だが、少なくとも、この三輪のあたりでは。


 字を知る者は、ひどく限られており、

 一字の「印」として用いるのが精々なのだろう。




「そんな中、倭の者が勝手に字を授け始めれば、

 漢の認めぬ秩序を、倭の内に立てたと見られかねん」


 三輪君みわのきみの細い目が、俺を射抜く。


「おぬしに、そのつもりが、なくともな……」



 なるほど。


 漢が、関わってくるのか――


 ならば、三輪君みわのきみが、

 ここまで慎重になるのも頷ける。



「その顔、漢を知っておるな……」


「行商の噂で、その名を耳に、

 海のむこうにある大国だという程度には」



「ふむ……もっとも、その漢も……」


 三輪君みわのきみは、ゆっくりと頬杖を突き。


「大きな賊徒が起こり、

 近年では、国中が乱れておると聞くがのう……」


 大きなため溜息をこぼした。



 漢の、末期における大乱――



 * * *


 黄巾の乱。


 それは確か、西暦一八四年――


 ならば、今は。

 その大乱が始まった直後となるのか。


 ここにきて、ようやく、

 俺の居る時代が具体的になった。


 これは、大きい。


 * * *



「して、おぬしの「字」を、

 どのように扱うかについてじゃが……」



「このたびの不手際に関して」


 俺は、慎重に、三輪君みわのきみの言葉を遮った。


「ひとつ、確認したいことがございます」


「申してみよ」



 * * *


 時は、弥生時代末期。


 少なくとも、西暦一八四年より後。


 畿内の権力者たちが一堂に会する中、

 ひとつの違和感がある。


 それは、この倭における、

 最大権力の存在。


 * * *



「現在の、倭の……」


 一度、息を整える。



「天皇について、お伺いしたく存じます」



「てん……のう……?」


 三輪君みわのきみだけではない。


 阿倍臣あべのおみも、左右の者たちも、

 まわりの誰もが怪訝な表情を浮かべていた。



「倭にいる、すべての君や、臣の上に立ち、

 この国々を束ねる……大王のことにございます……」


 三輪君みわのきみは、阿倍臣あべのおみへ目を向けた。


 阿倍臣あべのおみも、

 静かに首を横へ振る。




「かつての倭国王と呼ばれる伝承のような、

 そういった存在の話かのう……」


 三輪君みわのきみが、ゆっくりと口をひらいた。



「今の倭に、すべてを統べる王など、おらぬ」



 天皇が、いない――


 いや。


 この倭には。


 国々を束ねる、王、そのものが、

 まだ存在していないのだ。




 弥生時代の末期。


 それは、まさに「武」の横行する群雄割拠。


 俺が想像していたよりも、

 遙かに激しい動乱の時代のようだ。


ということで、主人公のなかで年代が確定しました。


また、大陸のほうで「漢」は「黄巾の乱」の真最中。

皆大好き「三国志」の物語が、海のむこうで動いているわけですね。


さらに広がった「卑弥呼転生」の世界、引き続き、お見守りください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ