表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:春十章「繋がる名張」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
119/121

第百十五話 ★瀬渡:散り散りの伊賀

◇【伊賀臣瀬渡いがのおみせと】視点◇



「さてどうしたものか」


 ぱちり、と細い薪が爆ぜた。



 目のまえ椀には、

 底が見えるほど薄いあわの粥。


 竪穴の隅には、阿閉の環濠で泥を掻きだした籠。

 そして、獣の血に染まった石刃。



 阿閉にこくを納めたうえで、

 さらに重い仕事まで押しつけられている。


 貧しくて辛い日々。


 それが、伊賀の現状である。



――――――――――


「南の三野と手を結び、阿閉を討ちましょう」


 隣に座る長男、伊賀之火子いがのひこが迷いなく答えた。


 阿閉の環濠で泥をさらってきたばかりの、

 その太い腕には、まだ乾かぬ泥が、こびりついている。


「迂闊なことを口にするでない」


「されど、このままでは――」



「父上、兄上……」


 入口のすだれが上がり、冷たい夜気と共に、

 次男の伊賀之水瀬いがのみなせが入ってきた。


 夜露に濡れた裾を払いながら、静かに炉の前に膝をつく。


「三野の、元の臣から、使いが届きました」


「タカヒコか。で、その内容は……」



「今は阿閉の食客として身を寄せているが、

 三野の臣はいまだタカヒコ様にある。


「時が来たならば、力を貸してほしい、と……」



「また、勝手な話を……」


 三野を取り戻すか、否か。

 内輪で勝手にすればよいことだ。


 伊賀には関わりのない話。


「だが、無碍にもできぬか……」


 タカヒコには名も、兵も残っているのだ。



「それから、阿閉臣あとじのおみからの使いも届いてます」


「申せ」


「タカヒコ様が連れてきた三野の兵、

 その一部を、我ら伊賀の環濠へ回すとのことです」


「おお、人手が増えるのは助かるな」


 隣で、ヒコが表情を明るくした。



「兄上、ことは、そう単純ではありません」


 ミナセはため息交じりに説明をはじめる。


「阿閉は、タカヒコ様への信が深い者を、

 我ら伊賀へ分けるつもりでしょう」


「……なぜ、そのような真似をするのだ?」


 ヒコは、腕を組んで首を傾げた。



「タカヒコ様と兵を切り離し、兵同士も散らす。

 そのうえで食わせる負担を我らへ押しつけます」


「そして、タカヒコ本人だけを阿閉に置けば、

 客ではなく、ほとんど人質だな」


 我は、低く息を吐いた。


「皆、そこまで考えておるのか」


 ヒコが、感心するように目を見開いていた。



「相変わらずの阿閉だな、

 実に気に食わぬが、見事なものだ……」


 その辛酸、伊賀も舐めさせられてきた。



 * * *


 城之越の伊賀、依那古の伊賀――

 そして、青山の伊賀、柏尾の伊賀――


 それぞれが伊賀を名乗りながら、

 今では環濠も、長も、その見てる方向も別々だ。


 アエモリよりも、さらに何代も前。

 古くの阿閉がやってきたのは。


 一方の伊賀へ穀を与え、別の伊賀には道を許し、

 それらを争わせては片方を助ける。


 そうして、ひとつの環濠は生かしては、

 別の環濠を奪い取っていく。


 そうやって、伊賀は、

 阿閉の手に散り散りにされてきたのだ。


 * * *



 それだというのに。


 それぞれの伊賀は、己が利を求めて、

 決してまとまることがない。


「我らが伊賀は、弱いままでいるよう、

 長い時をかけて阿閉に作られてきたのだ……」


 炉の火が揺れ、三人の影が土壁に歪む。



「ならばこそ、なおさら」


 ヒコが身を乗り出した。


「南の三野と手を結び、

 いまこそ阿閉を討つべきであろう」



「そのためには伊賀をまとめ、

 兵を整え、糧を蓄えねばならぬのです」


 ミナセが静かに答える。


「そうか、よし、ではやろう」


「誰にもできぬと申しておるのです」



「くっくっ、ミナセも大変よのう……」


「父上、笑い事ではありませぬ」


「だが、その無謀を誰も口にしなくなった、

 その時が伊賀の終わりになるだろう」


 そういう意味では、ヒコの無謀さが、

 今の伊賀には一番大事なのかもしれない。



 無謀といえば――


「南に、妙な噂があったな」



「名張の火の巫女と、

 それを影で動かす奇怪な童ですね」


 ミナセは、疑わしげに眉を寄せる。


「一介の童が村を束ねるなど、

 誇張された噂でしょう」


「で、あろうな……」


 そう答えながら、

 我は、囲炉裏の火に視線をむける。



 もし。


 その童が、やってのけたように。


 散り散りになった者たちを繋ぐ、

 そんな術が、あるならば。




「……父上?」


「いや、なんでもない」


 噂に、伊賀の未来を預けるほど、

 我も老いてはおらぬ。



「タカヒコと、アエモリには、

 今は、適当に話を合わせておけ」



「また、阿閉の言うままにするのですか」


 ヒコが眉を寄せてきた。


「無謀に逆らって滅びることと、

 従うふりをして機を待つことは違う」


 今の伊賀には、道を選べるほどの力がない。


 ならば、選べる時が来るまで、

 生き残らねばならぬ。



――――――――――


「ヒコは、送られてくる兵たちを見張るのだ。

 その者たちの懐に入り、信を見極めよ」


「はっ」


 実直で、ひたむきな伊賀之火子いがのひこには、

 人と真っ直ぐに向き合わせるのが良いだろう。



「ミナセは、各地の伊賀へ人を出せ。

 我に従えとも、兵を集めよとも言わず、

 ただ、情勢から目を離すなとだけ伝えるのだ」


「承知いたしました」


 思慮深いミナセには、

 裏でのやり取りが良かろう。


 なんだかんだで相性の良い兄弟である。

 それだけが、貧しい伊賀に残された希望だ。




「阿閉が、伊賀を散らすのならば……」


 散った者、そのすべてを、

 伊賀の目と耳に変えてやろうではないか。


 伊賀の未来――


 このまま、途絶えさせてなるものか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ