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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:春十章「名張の開拓」

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第百八話 榛原の肆:丹の価値

 加茂の環濠を見てまわった、

 その日の夜。


 俺達は、加茂の竪穴に案内された。


 屋内はきれいに掃かれ、

 囲炉裏には、小さな火が入っていた。



 俺の手の中には、

 ひとつの大きな赤い石。


 ――


 加茂の者たちには当たり前の、赤い土。


 これが、ただの土ではないことを、

 俺は知っている。



――――――――――


「話は、夕餉を頂きながらということで」


 加茂臣古道かものおみこどうが、声をあげた。

 

 俺たち、名張の者たちのほかに、

 この竪穴には、マヒトも膳を共にしている。


 食事を一緒にしながら話をしようと、

 俺が提案したのだ。



「これは美味しそうですね」


 俺は声をあげた。


 目のまえに並んだ夕餉は、

 ふやかした稗に、黄色い粟を載せた粥。


 ほくほくとした湯気に食欲がそそられる。


 そして、山菜に、木の実。

 その横には干し肉が置かれていた。


 それに――



「ほう、塩か……なんと大層な……」


 となりでタケが驚きの声をあげる。

 この時代、塩は貴重品である。


 一般的には病の時や、

 祝い事などに出されるだけ。


 それ以外の塩分は、食べ物や、

 水に含まれるものから摂っていた。



「塩は、三輪からの頂きものですがな」


 コドウが、苦笑するように言った。


「……三輪から、ですか」


「マヒトの働きへの褒美として、

 折に触れて、糧をいただいております」


「父上……」


 マヒトが、居心地悪そうに声を漏らす。


「よいよい……」


「おぬしが外で働いてくれているから、

 加茂は助かっておるのだ」


 その言葉に、マヒトは黙った。


 褒められているのに、

 どこか、痛そうな顔をしている。



 この食事は加茂の豊かさではない。


 マヒトが外で認められ、

 その褒美が巡ってきたものだ。


 誇りでもあり、同時に、

 加茂の細さをそのまま示していた。



――――――――――


「して、なにか……、

 目ぼしいものはありましたかな」


 コドウが声をあげる。


 その声は穏やかだった。

 けれど、目だけはまっすぐだ。


 期待していないようでいて、

 答えを待っている。


 マヒトも、息を詰めるように俺を見た。



「加茂の山は険しく、高いので、

 地の獣よりも、空の鳥が目立ちますね」


「鳥など、どこにでもおるであろう」


「鳥の種類が豊かなことは、価値になります」


「ふむ……」


「肉質も脂も違い、干せば運びやすい。

 羽は飾りに、骨や爪は小道具に使えます」


「これまで環濠の中で食べていたものを、

 市庭へ出せば、加茂の名品となるでしょう」


「ふむ……」


 コドウはゆっくりと頷いた。


 だが、その表情は硬い。


「しかし、それは他の山でも言えることだ、

 それだけでは足りぬのではないか?」


 コドウは、小さく呟いた。

 それは実に的を射た言葉である。


 さて、ここからが本題だ。



――――――――――


「なにより目立つのが、赤い土ですね」


、ですな……」


 コドウが、すぐに言った。



「皆さまの言葉で言うですね」


 俺は、小さく頷いてみせる。


「昼間に拝見しましたが、

 あの量と質は、外では珍しい」


「……ほんに、あのような土に価値などが?」


「あります」


 俺は言い切った。



 だが、の本当の価値、

 その全てを言うつもりはない。


 価値を上げるにも順番があるからだ。


 そして、扱い方を誤れば、

 災いにも転じるのがだから。



「今は、顔の装飾や壁土に混ぜる、

 そのくらいに使っていると聞きましたが」


「そうですな」


「祭器や、祭具に丹の朱を塗れば、

 丹の赤に意味が生まれてきましょう」


「意味が、生まれる?」


 マヒトが素直に聞き返した。


「価値とは物に宿るわけではありません。

 誰が、どのように使うか、

 それによって作られるものなのです」


「なんと……」


 マヒトが驚いたように目を見開く。



「名張が三野との戦において、

 隠の文字と、の赤を用いました」


「それにより、本来、

 何の意味も持たない文字に、

 三野を惑わす意味が生まれました」


「ただの赤にも、

 三野を震わせる不安が宿りました」


「それが、つまり価値です」




「その朱を、今度は、

 祭りに使う器や、神に捧げる道具に塗るのです」


「さすれば、は、ただの土ではなく、

 神に祈りを捧げるための色となっていくでしょう」


「価値を生む、か……」


 コドウは黙って聞いていた。

 その表情は読みにくい。


 ただ、何かに悩んでいるのは確かだった。


「名張の市庭に一定の数を下ろせば、

 を欲する環濠は増えていくでしょう」



を欲する、のう……」


「煮え切らない顔ですな、父上」


 マヒトが、静かに言った。

 コドウは明らかに眉を寄せている。


 これだけ利のある話が揃いながら、

 首を縦に振らない。


 ただ慎重なだけではない。


 何か、引っかかる事があるのだろうか。



――――――――――


「イミナ殿、実は、

 この加茂の地は災いを呼ぶのです」


 コドウの目は、

 まっすぐ、こちらを向いていた。


 その声は、とても重い。



「この地の自然に手を出し、

 山の神の怒りに触れる者には、

 大いなる災いが降りかかるのだ……」


 コドウは、とても真剣な表情を浮かべていた。


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