表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:春十章「名張の開拓」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
110/114

第百六話 榛原の弐:カラスの祭壇

「よう戻ったな、マヒト」


 榛原はりはらの地を治める加茂臣古道かものおみこどう


 顔に刻まれた皺と、白髪まじりの髪。


 年齢を感じさせる風貌ではあるが、

 杖を地面に差して直立する姿。


 不思議な風格があった。



「父上、このたびは、こちらの皆さまに、

 加茂の環濠を見てもらいたく思い」


「ふむ……」


 コドウは、実の息子のマヒトから、

 その隣の俺達に視線を移した。


「名張からのイミナ殿に、火の巫女様、

 そのお供の皆さまにございます」


 マヒトが、俺達を紹介した。



「名張のイミナと申します。

 突然の訪問、お許しください」


「……その歳で、実に礼儀正しいものだな」


 コドウは、じっと俺の顔を見た。


「だが、おぬし……」


 コドウが一歩前に踏み出すと、

 その身を屈ませて、俺の目を覗きこんだ。


「その瞳の奥に、なにやら、

 不思議な獣を飼っておるのう……」


「えっ……」


 思わず、俺はたじろいだ。


 俺の中に眠るイミナの気配が、

 見えるとでも、言うのだろうか。



「ち、父上……」


 実の父親の唐突な振舞いに、

 マヒトは、慌てたように口を挟む。


「ふむ、まあよい……」


 コドウは気にする様子もなく、静かに頷いた。


「加茂を、案内いたしましょう」


 コドウは振り向くと環濠の橋を渡りはじめた。


 俺達は、その後に続く。



――――――――――


 コドウは足が不自由なのか。


 コツコツと杖をつきながらも、

 でこぼこの地を、器用に歩いてみせた。


 マヒトは、その後ろを歩く。


 普段とは違う、

 父の背を見る子の顔をしていた。



「イミナ殿……マヒトは、

 務めを果たせておりますかのう……」


「はい、それはとても立派に」


 三輪での働きぶりは知らないが、

 俺の見ている範囲では十分に果たしている。


 俺は、そう思った。


「……それは喜ばしいことだ」


 それは、親が子を心配する声だった。



「マヒトは、この小さな環濠には勿体ないほど、

 実に恵まれた才覚を持って生まれてのう」


「父上、私のことはいいですから」


 横から、マヒトの恥ずかしそうな声が上がった。


「それよりも、ほら、皆さん、

 もっと加茂の環濠を見てください」


 誤魔化すように手を掲げたマヒト、

 その先には、加茂の環濠が広がっていた。




 環濠の内側は、たしかに貧しかった。

 木柵は古く、土塁は低い。


 名張に比べても竪穴はまばらである。

 村人の数は、名張よりも少ないのだろう。


 人々の衣も粗く、子供たちの頬も少し痩せている。



 だが、病に侵されていた頃の名張とは違い。

 加茂の環濠は、荒れてはいなかった。


 壊れた柵は繕われ、竪穴の周りには落ち葉が払われ、

 火床のまわりも整えられている。


 貧しいが、投げ出しているわけではない。


 この細い生活、日常が、

 これまで通りの普通のことなのだろう。



――――――――――


 加茂の環濠の中を進み、

 小さな広場を抜けた先に。



「加茂の環濠で、案内できるといえば、

 ここぐらいのものですが……」


 案内された先には、小さな祭場があった。



「これは……」


 その祭場は、決して大きなものではない。


 石をいくつか並べ、草を払った、

 ただそれだけの場所だ。


 それでも、足を踏み入れた瞬間、

 あきらかに周囲の空気が変わるのを感じた。



榛原はりはらの加茂では、カラスを、

 道を示し、神意を告げるものとして見ております」


 コドウは祭場の前に立ち、説明をはじめた。


「山に入れば、人はすぐに迷い、

 谷を間違えれば戻れぬこともある……」


「ゆえに、我らは、

 道を誤らぬよう祈るのです」


 この小さな祭場と、

 後の世に語られる伝承。


 それらが、どのように繋がっていくのか、

 今の俺には知る術がないが。


 この土地の者たちが、道に、

 特別な意味を見出しているのは確かなようだ。



「……ここ、しずか……でも、こえがする……」


 イミコが、小さく呟く。


 その声を聞いて、

 コドウは、その目を細めた。


「ほう……声が、聞こえますか……」


「うん……とりさんのこえ、きこえる……」


 そう答えるイミコ。


 不思議なことに、俺には、

 風の音しか聞こえてこなかった。



「聞こえますか……?」


 後ろのタケに視線を向ける。


「今鳴いてる鳥はいねぇな」


 山の狩りを生業にするタケにも、

 なにも聞こえてはいないようだった。



「名張の、火の巫女様……でしたな……。

 よい耳をお持ちのようで」


 そういうと、コドウは片膝立ちになり、

 イミコに深々と頭を下げた。


 その光景には、

 どこか、神々しさすら感じられる。



 それはまるで。


 後に神武天皇と呼ばれる存在を、

 大和へ導いた八咫烏の――



 ああ、そうか。


 目の前の光景と、この場所に、

 ひとつの名前が結びつく。


 それは、後に「八咫烏神社やたがらすじんじゃ」と呼ばれる場所。


 その原点となる祭場が、

 今、目の前にあるのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ