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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:春十章「名張の開拓」

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第百三話 それぞれの環濠の名産物

 俺は、市庭いちばの中央に並ぶ品々を、

 あらためて見渡した。


 品は並んでいる。

 だが、並べただけでは市庭いちばとは言えない。


 実際に、物が動くところを見せなければならない。



――――――――――


 三野の台に立つと、

 カナメが、太い腕を組んでこちらを見た。


 台の上には、石斧・木鍬きぐわ木鋤きすきのほか。

 骨や角を削った小道具が並んでいる。


 その中に、細く尖ったものがあった。


「お、これはすごい」


 きりのように使えそうだ。

 木や、皮に小さな穴を空けることもできるだろう。


 同じような物は、名張の環濠にもあるが、

 その削りかたが実に見事であった。



「これをください」


「ほう、それを選ぶとは見る目があるな」


 表情は硬く無愛想なままだが、

 その声は、あきらかに弾んでいた。


「ここの品は、カナメさんが作ったんですか?」


「ああ、このほとんどが俺の作ったものだ」


 そう言いながら胸を張ってみせる。

 三野でも、かなりの腕利きなのかもしれない。



「これで足りますか」


 俺は、腰の小さな包みを開いて、

 名張の燻製肉を取り出した。


 カナメは、肉を受け取り、鼻を近づける。


「……うむ、日持ちするなら悪くないな」


 ちいさく頷くと、骨角こっかくの小道具を手渡された。



「ありがとう」


 俺が、それを受け取った時、

 周囲で、小さなどよめきが起きる。


 市庭いちばで、初めて品が動いた瞬間だった。



――――――――――


「やはり、食べ物は強いの」


 後ろで見守っていたシラガが声をあげる。


 食べ物は、誰にとっても、

 その価値がわかりやすいだろう。


「いつかは、誰もが、同じ物差しで測れる、

 そういう仕組みも欲しいですね」


 通貨制度を考えてみたい所だが、

 それは、まだ、当分先の話になるだろう。



「イミナよ、その燻製肉、

 名張の倉から出してもよいのだぞ」


「いえ、まずは私個人の取引を見せたいので」


 俺は、市庭いちばに集まった者たちへ向き直る。



「物々交換には、大きく分けて二つあります」


 一部の者たちに説明は終えている。


 だが、これらは、まわりの全ての者たちに、

 理解してもらう必要があるからだ。



「自分の持ち物との交換と、

 環濠の倉からの交換の二通りです」


 俺は、皆に見えるように二本指を示す。


「倉から品を出す時は、長か、

 それを許された者の見届けをしてください」



「環濠の物を勝手にされては、

 あとで泣くのは村の者たちじゃからのう……」


 名張の倉の判断は、当然、シラガにある。



――――――――――


「では、次に環濠同士で取引するとしよう」


 三野のカナメが、一歩前へ出た。


三野臣みののおみより、これらは、

 用いてよいと預かっているものだ」


 カナメは、幾つかの布を広げる。

 粗いが丈夫な布だ。


「この質の布であれば、波多からのひえあわを、

 これほどを出しましょう」


 波多のホナミが、籠二つを前にだした。


「よい」

「波多も、それで」


「この取引、名張臣なばりのおみが見届けた」


 その二人のやり取りを見届けたシラガ。

 最後に、ひとつの手を打った。


 その一言で、周囲の空気が引き締まる。



 市庭いちばとは、ただ物を交換するだけの場ではない。


 誰が、何を、どれだけ出し、何と替えたのか。

 それを見届けて管理する者がいる。



 品を並べるだけの場ではない。


 そういうことが、まわりに伝わればよい。


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