第百三話 それぞれの環濠の名産物
俺は、市庭の中央に並ぶ品々を、
あらためて見渡した。
品は並んでいる。
だが、並べただけでは市庭とは言えない。
実際に、物が動くところを見せなければならない。
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三野の台に立つと、
カナメが、太い腕を組んでこちらを見た。
台の上には、石斧・木鍬・木鋤のほか。
骨や角を削った小道具が並んでいる。
その中に、細く尖ったものがあった。
「お、これはすごい」
錐のように使えそうだ。
木や、皮に小さな穴を空けることもできるだろう。
同じような物は、名張の環濠にもあるが、
その削りかたが実に見事であった。
「これをください」
「ほう、それを選ぶとは見る目があるな」
表情は硬く無愛想なままだが、
その声は、あきらかに弾んでいた。
「ここの品は、カナメさんが作ったんですか?」
「ああ、このほとんどが俺の作ったものだ」
そう言いながら胸を張ってみせる。
三野でも、かなりの腕利きなのかもしれない。
「これで足りますか」
俺は、腰の小さな包みを開いて、
名張の燻製肉を取り出した。
カナメは、肉を受け取り、鼻を近づける。
「……うむ、日持ちするなら悪くないな」
ちいさく頷くと、骨角の小道具を手渡された。
「ありがとう」
俺が、それを受け取った時、
周囲で、小さなどよめきが起きる。
市庭で、初めて品が動いた瞬間だった。
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「やはり、食べ物は強いの」
後ろで見守っていたシラガが声をあげる。
食べ物は、誰にとっても、
その価値がわかりやすいだろう。
「いつかは、誰もが、同じ物差しで測れる、
そういう仕組みも欲しいですね」
通貨制度を考えてみたい所だが、
それは、まだ、当分先の話になるだろう。
「イミナよ、その燻製肉、
名張の倉から出してもよいのだぞ」
「いえ、まずは私個人の取引を見せたいので」
俺は、市庭に集まった者たちへ向き直る。
「物々交換には、大きく分けて二つあります」
一部の者たちに説明は終えている。
だが、これらは、まわりの全ての者たちに、
理解してもらう必要があるからだ。
「自分の持ち物との交換と、
環濠の倉からの交換の二通りです」
俺は、皆に見えるように二本指を示す。
「倉から品を出す時は、長か、
それを許された者の見届けをしてください」
「環濠の物を勝手にされては、
あとで泣くのは村の者たちじゃからのう……」
名張の倉の判断は、当然、シラガにある。
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「では、次に環濠同士で取引するとしよう」
三野のカナメが、一歩前へ出た。
「三野臣より、これらは、
用いてよいと預かっているものだ」
カナメは、幾つかの布を広げる。
粗いが丈夫な布だ。
「この質の布であれば、波多からの稗と粟を、
これほどを出しましょう」
波多のホナミが、籠二つを前にだした。
「よい」
「波多も、それで」
「この取引、名張臣が見届けた」
その二人のやり取りを見届けたシラガ。
最後に、ひとつの手を打った。
その一言で、周囲の空気が引き締まる。
市庭とは、ただ物を交換するだけの場ではない。
誰が、何を、どれだけ出し、何と替えたのか。
それを見届けて管理する者がいる。
品を並べるだけの場ではない。
そういうことが、まわりに伝わればよい。




