七拾九【鉄砲の形代】
いつもお読みいただきありがとうございます!
このページでゆっくりしていってください~♪
「おい女…」
人相書きそのままの顔を晒した岩走申太が話しかけてくる。
「なんですか?」
「いきなり来た俺らを、番頭も入らぬ土蔵を見せるのはなぜだ?」
「そんなん決まってるやないですか…ささこっちですよ」
店から土蔵までは、畳に上がらずに土間続きに裏の土蔵に行ける。
「瑠璃さん鍵」
台所の手前で喜助に黒い鍵を渡される。
「気を付けて」コソッ
「へえ、おおきに番頭はん」
「女、説明に答えよ」
「命が惜しいからですよ」
「なにっ」
「そんな恐ろしいお顔で刀にずっと手をかけておられたら、いつ抜かれるか…恐ろしぃ」
両手で腕を抱えるようにして震えてみる。
「は?」
「これは、いやつい癖でな」
「この店そんなに借金ありますの?」
「ま…まあな。
額は言えぬが、そうだな土蔵の物を見繕って、いずれ返せそうとわかったら今日は引き上げるとしよう」
「それは助かります」
「うむ」
「ささ、こちらですよ」
土間台所を出ると裏庭に出る。すると奥に土蔵とその重厚な扉が見える。
「それにしても、えびす屋は呉服屋だと聞いていたのだが」
「小間物屋とは聞いておらぬかった」
「業種替えしたらしいですよ。隣が呉服屋ですやろ?」
「うむ」
「それに旦那さんは呉服と関係のないものばかり仕入れて来るって女将さんが嘆いてはったとか」
「呉服じゃないもの?」
「玩具の鉄砲とか、弓とか…お飾りの鎧とか。そんなん呉服屋では置けないからと」
「しかし、そのようなもの店先にはなかったぞ?」
「玩具でも鉄砲はだめだと言われたらしいです」
「誰に?」
「ここらを回ってる同心はんに」
「じゃあこの土蔵には鉄砲が?」
「玩具ですよ…ここに片付けたかはわかりませんけど」
ガチャリ ギィイイ
入ると、大量の行李と茶箱が以前と同じように並んでいた。
ご丁寧に埃も少し重なっている。
「見てもいいのか?」
「へえ」
「二階もあるのか?」
「たしか立派なお飾りがあるいうてました」
「二階に行くぞ」
「ああ」
ギシギシギシ
「…これは節句の飾りと思ってるのか?」
「へえ」
「そ…そうか」
そこには、あの日と変わらず鎧兜が揃えられていた。
「これは兼近殿の」
「うむ、低い家の家紋でござるな」
「どうされました?」
「い…いや」
「うちはもう外に行ってますよって」
「うむ」
「下もみるぞ」
「ここには鎧兜しかござらぬな。槍などもそろえていると聞いていたが…」
「あのあたりの棒ではないか?」
「布が被さっていてわからぬが…」
「今はそれよりあれの方だ」
「そうだな下だろうか」
再び梯子のような階段を軋ませて降りてきた二人は、茶箱などを開けていく。
「何だこれは?反物?」
「ああ、呉服屋だったからな」
「これなどは奥州の絹織物だ」
「そうか。拙者は布なぞわからぬ…おいこれは」
「薄暗くてわからぬが確かに銃のようだな」
「うむこんなにも綺麗に揃って」
「これなら呼ぶか」
「ああそうだな」
二人が手ぶらで出てきた。
「そう言えばお二方の名前を聞いておいてよろしいですか?」
「何故だ?」
「旦那様に伝えないと。
借金を返すようにお二人が来たことを」
「うむそうだな、拙者は岩走と申す」
「拙者は葛山だ」
「お二人はお侍さんですか?初め見た時はどこかの破落戸かと思いましたが」
「しがない牢人さ」
「お役目が無いとこうなるのだ」
「大変ですなぁ」
「…ではまた来る」
「へえ」
来なくていいですよ。
そうやって土間を歩いていく二人を見ながら、瑠璃はひっそりと瑠璃を見守ってくれている手代の黒兵衛に話しかける。
きっと、喜助に言われて立ってくれていたのだろう。
「二人を追いかけるから、ほんのちょっと呼び止めてから帰らせて…これを落としたとかなんとか言って」
と、懐から出した畳まれた手拭いを渡す。
そこには〈だて屋〉の屋号が藍で染められていた。
「わかりました…気を付けて。
お客様~」
そのすきに、台所から奥の座敷に上がり、置いてあった黒っぽい着物を肩からはおり、さらに今度は藍染の手拭いを出して姉さんに被って、座敷を通って先回りして店を出る。
店先で女の客の相手をしているのは女中のおふで。しかし瑠璃が店から出たのには気付かず、土間の破落戸風の男を気にいているようだ。
客に絡まれないように、そちら側に立っていた。
歩き出した二人の十間ほど後ろを付いていく。
番屋で曲がったところで、立っていた七兵衛に目配せをした。
◆◇◇◆
えびす屋に入るときに、百沙衛門や東次郎と一緒に土蔵の確認をした。
「あれ?全部引き上げたんちゃいました?東次郎はん」
「危ないものはここにはもう無いよ」
「せやけどこの鉄砲…そう言えばまえは短筒やったのに長い火縄に?」
以前と同じ大きな茶箱にずらりと並んだ鉄砲。
「まあ、振り回せば長いものだから危ないものだけどな。箒みたいなものさ。
ちょっと瑠璃ちゃんひとつ持ってご覧」
東次郎に促されて一本持ち上げてみる…
「なんやこれ、木刀?
鉄砲やないんどすな」
「これはうち藤岡の数代前が戦の時に足軽の鉄砲隊の稽古のために作ったものらしいんだ」
「そんなのあったんどすね」
「俺も初めて見た」
「百沙衛門はんも?」
「親父が大阪に来た時に大坂城に持ち込んでたらしいわ。
江戸の屋敷にあっても邪魔だからと。
もともとはこれで鎧を着て、鉄砲を抱えて走る練習とか、信長が長篠でやったような三段射ちの段取りを確認したり練習するように、木刀を拵える職人に作ってもらったらしい」
「今は鉄砲を使うような戦は無いから確かに邪魔だな」
「ほんまやな…えっと」
瑠璃は手に持った鉄砲の形代を持ち上げて構えてみる。
「こういう感じですか?…しっくりいかんなぁ」
「ここを銃床というのだけど、これを肩のここにつけるんだよ」
「こうどすか?」
「流石だね、さまになってるよ」
「ほんまですか?」
「しかしこれは、こう構えて重心を木刀がわりに振り回した方が実用的だよね」
と、足の付け根あたりに下げるように構えてみせる東次郎。
「へえ、そうする斜に構えた状態が普通なんどすな」
「…今はそんなことはどうでもよい」
弟と親しげに会話する瑠璃の間を遮る。
「せやけど、こんなもんで騙されるやろか」
「瑠璃ちゃんも今一瞬間違えたじゃない」
「せやった。
背の所に黒い色がついているさかい、鉄に見えるというか。暗い蔵の中じゃ直ぐには見わからへんかったわ」
「その色は、僕と嫁で塗ったんや。父上に言われてね」
「そうなん?」
手に持った鉄砲の形代を茶箱に戻していかにも丁寧に縮緬で多い蓋をする。
「さっき二階も見たけど鎧も戻したんやな」
「鎧は危なくないからな」
「せやけど、槍の変わりの箒の柄を並べるのはさすがにばれるんちゃいます?」
「そこで、この垂れ幕を被せておくのだ」
「なるほどなぁ」
そうして、検めで見たときの土蔵の内部に変わっていった。
危ないものは、ただ長い木の棒だけになっていたが。
◆◇◇◆
あの二人、鉄砲だと信じて疑わへんかったな。よかった。
前を行く二人組の破落戸を追いかけながら蔵での話を思い出す。
二人は、魚河岸の人足が集まってるあたりに立ち止まった。
それを見届けようと近づく瑠璃。
ドン
横から誰かに推されて倒れてしまう瑠璃。
「わるい」
ぶつかってきたい男が手を出してくる。
「立てるか?」
「うちも前を見てへんかったさかい、おおきに」
手につかまって立つ。
「ここは柄の悪い連中ばっかりや、怪我してへんねやったら、女子はさっさと帰りな」
「おおきに」
と離れていく。
手には男に渡された紙を広げる。
〈五日後の昆布船〉
「こぶ…?」
勘三叔父はん?…どういう事やろ。
再び紙を畳んで筥迫に仕舞って、店の近くの番屋へ向かう。
明日から始まる新作のため、五日ほどお休みいたします。
ご了承くださいませ
ブックマークして頂くと励みになります!
それからそれから、感想とかって もらえると嬉しいです。




