七拾七【小間物屋】
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「こんにちわぁ」
簡単な島田を結い、町娘の装いで呉服屋のよしの屋を訪ねる。
簪は桔梗のつまみ細工。
「まあ、瑠璃さん、結婚したとか聞いたのだけど?」
お多福って感じの笑顔で店の女将のお福が迎えてくれる。
「婚約しただけやで」
「そうなん?お相手は誰やの?」
「そのうち言うわね」
「まあ、あのお人やとは思うけど」
「瑠璃さんお久しぶりです」
「ちょっと江戸に行って来て、卯乃吉ちゃん、はいお土産」
と、丁稚の末っ子に醤油のせんべいを渡す。
「まあ草加せんべいやないの」
「ありがとうございます!」
卯乃吉が鮮やかに笑う。
「瑠璃さん、江戸に行ってたんやって?そんならお帰りなさいやな」
よしの屋の主人も声をかけてきた。
「ただいまです」
「いまから隣に行くんかい?」
瑠璃の仕事を何となく察してくれている亭主と女将。
「せやねん」
「お隣での話が落ち着いたらもう一度こっちに戻って来てくれへんか」
「へえ、かましませんよ」
そして、よしの屋のとなりの〈えびす屋〉に入る。
「ごめん下さい」
「はい、あ、瑠璃姐さん」
「姐さんはよしてや黒兵衛はん。
あんたはこっちに戻ってきてるんや」
「はい、こちらの人手が必要やということで」
喜助さん瑠璃姐さんですよ!」
隣のよしの屋に一時入ってた丁稚の黒兵衛がえびす屋にいた。
元服も済ませたのか、前髪が無くなっていた。
「黒兵衛はん、手代にならはったんやなおめでとうございます」
「ありがとうございます」
手代になりたいと言ってたから本当によかった。
「これはこれは瑠璃様、ようおこし」
検めの時に荒れ果てていた店はすっかり綺麗に片付いて、一人の女中が客の相手をしていた。
「様はよしてや喜助はん」
帳場には手代だった喜助がすっかり元気になった様子で、上品な羽織を着て座っていた。
そこから立ち上がり、土間の方に出てくる。
「せやかて、瑠璃様は同し…」
「しっ、それはくれぐれも内緒にしてや」
すると神妙な顔つきで頷く。
「喜助はんは番頭さんにならはったんやね」
「はい、他におらへんからってことで」
「おめでとうさんです」
「せやけど、呉服屋と違って品目が多いさかい覚えるのが大変で」
「女が身に着けるもんやし、呉服と似通ったところあるとは思うけど」
と店の中を改めて見回す。
小間物屋に業種替えしたえびす屋は、店先に大きな台を並べて細々したものが置いてあった。
その一角を示しながら
「ここに、瑠璃さんの簪を置きたいんやけど…無理でっしゃろか」
「…この奥で作らせてもらえたら…前の長屋を引き払ったよって、いまは居候の身なんや。そんなところで道具やら端切れやら広げられへんしね」
「もちろんですここで作ってください!部屋は余ってるし」
「瑠璃姐さん、お茶入りましたよ」
「おおきに黒兵衛はん」
「ああ、黒兵衛、お茶は奥に出して」
「分かりました。瑠璃姐さんこっちに」
「へえ」
盆を持った黒兵衛が店の奥に案内する。
「綺麗になったなあ」
「はい、おいらがお隣の吉野屋さんに行くようになってそんなに経ってなかったのに、盗人に荒らされたかのようにぐちゃぐちゃだったでしょ。
喜助兄さんもかなり参ってまして…。
でも、店の再開を提案されて、頑張って片付けました。
畳も入れ替えたんですよ」
「そうなんや」
「ではおいらはこれで」
すると入れ替わりに喜助がやってきた、先ほどの女中を伴って。
「瑠璃さん、お一人紹介させてください。
こちらはおふでさん、御用商人〈和泉屋〉さんの所のお孫さんで、若旦那さんの娘さん」
「おふで、言います。よろしゅうお願いします」
「瑠璃です。
ということは、お篠さんの」
お奉行様の女中は和泉屋の娘だ。
「姪になります」
「なるほど、
うちは今お篠さんのお世話になってるんよ」
「まあ」
「それで、瑠璃さん、後で隣のよしの屋さんからも言われると思うんやけど、瑠璃さん、花嫁行列せえへんか?」
「へ?」
「結婚されるんでしょ?」
「まだ、婚約したばかりはけど、なんも決まってへんで」
「結婚の準備は大変やけど楽しいもんやって、娘さんは言わはりますよ」
「おふでさんもそうだったんですか?」
「いややわ、うちはまだお相手を探しとって」
「かんにんやで。
見たところ別嬪さんやし、ええとこの人から、とっくにと思ったんやけど」
聞けば瑠璃よりは五つ以上年上で、所作も落ち着いて見えている。
「祖父が出す条件が細かくて、なかなか決まらへんのです」
「そりゃ大店だとそうなるわな」
「お篠おばさんの時に大変やったからって」
「大変な旦那さんやったって聞きましたね」
「はい、うちは幼かったさかいあんまり知らんのですけどね」
女二人の会話に喜助が割って入る。
「まあ、おふでのことは置いといて、瑠璃さんのことや」
「そうですよー」
「…うちのお相手誰か知ってるのか?」
「百沙衛門様でしょ?」
「まあ、そうなんやけど。お篠さんから聞いたん?」
「私は七兵衛さんにね」
「ああ…」
「瑠璃ちゃんを想ってたのは分かってたけどえらい落胆してたから、聞いたらそう言ってて…。
百様ならしょうがないけど…って言ってはったで」
「普段は長見と名乗って同心のふりして、別のお屋敷に住んではるけど、本当はお奉行様のご長男さんなんですよね」
「なら、ちゃんとしたものをそろえなあかんねぇ」
「喜助はん、おふではん」
「うちの実家の和泉屋なら、家具から道具からお布団まで何でもそろうし、隣のよしの屋さんも婚礼衣装とかを是非させてほしい言うてはったけど…」
「後で寄ってほしいって言ってはったのはもしかして…」
「きっとそれですよ!」
「輿入れの日も決まってへんのに…
それに、実家にも聞かなあかんと思うし」
「確かにそうですね、武家へのお嫁入となればお嫁さんのご実家が準備されると思いますし」
「せやけど、うちの実家は武家への嫁入りに何が要るんか知らんとおもうから、和泉屋さんとかよしの屋さんに教えてもらうのは良いとは思うし…」
「いきなり下世話な話やけど…ご実家は幾らぐらい出せそうなんやろ」
「うーん、実家はなんでも使いまわす生活やったさかい、姉の婚礼衣装も母のお古やって行ってたわ」
「なるほど…ほんなら…」
「それに旗本にお嫁入となると何もかも用意する必要があると思うねん」
「…考えたら瑠璃さんはそこにお嫁入できるお家のお嬢さんという事なんやね」
「ま、まあそうやな。
お金は、家にないことはないやろうけど、うちが出してもよいし…」
「流石やな」
「とりあえず、おも…いや父に文を出すよって、返事を待ってな。
それにうちはまだお役目があるさかい」
「勿論ですよ」
「ほなその件は、父からの返事を待ってもらうということで…ええね。
それよりちょっと喜助さんに内緒の話があって、おふではん外してくれまへんやろか?」
「へえ、ではごゆっくり」
とはいえ店の奥なだけで、襖で仕切られているわけではないので、二人が会話していることは、客からも見えている状態である。
「まだ、一人追いかけてる下手人がおって」コソッ
と、下げていた巾着から岩走申太の人相書きを出して広げる。
「これは?」
「お江戸のえびす屋に潜んでた牢人上がりの男で、江戸の北町奉行はんが言うにはこっちのえびす屋の人たちが捕まったって知らんかもしれへんと。
で、捕り物で捕まえた男の中にこの人だけおらんかったらしくて」
「なんと」
「でも、この店で見つかった血判書にあった名前の一人で」
「そりゃあ、まだなんかたくらむかもしれまへんなぁ」
「そんで、百様とうちが馬を飛ばして四日でこっちに帰ってきたさかい、今日で五日目やけどな。
たぶん追い抜かせたと思うねん」
「四日ぁ?たったの?
って事はこの人は」
「多分、ここに来ると思う。まだあの武器が隠されてるかもと思って」
「……なるほど」
喜助が片方の二の腕をさする。
あの武器の風景を思い出しただけで鳥肌が出る気持ちは分かる瑠璃だった。
「勿論各街道にはこれを探すための隠密やらをおいてるけどな、捕まったとはまだお奉行様のところには連絡がきてへんらしいねん」
「わかりました」
「これが片付かないとうちの仕事がひと段落せえへんし、嫁入りも先や」
「…そんな、瑠璃様はます様を拾ってくれただけでも、このえびす屋には有り難い方なのに」
「いやいや…」
「せやから、暫くうちも店番させてもらえへんかな?」
「それはもちろん心強いし有り難いですけど」
「ほな決まりやな!
あれ?」
店先に歩いて行こうとすると、そこには打ちひしがれたような顔で隣のよしの屋の主人が立っていた。
「瑠璃さん、この店に出るん?」
「のっぴきならない事情があってね」
「よしの屋でも良いのと違うの?」
「おおきに、旦那さん、これもうちの仕事やさかい」
「そうか」
「それと、喜助はんに聞いたんやけど、うちの嫁入りの件は、お父ちゃんに聞いてからやないと、用意するお金とか…」
「お父ちゃんって、瑠璃さんとこの親御さんって…」
「詮索は無しやで」
「分かりました」
「ほなうち、細工の道具をそこに預けてるから取ってくるわな喜助はん」
「はい。待ってます」
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