第10節「今度はアタシの番だな」
※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.
※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。
※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。
推論――警察のガサ入れ――アーガスの差し金。アーガスはクランに死んで欲しくない――本心。ならば回収してくれるという言葉も信じていいだろう。今は信じるしかない。
こんなところでくたばるわけには行かない。煽流を壊すまでは。
階段は一本道だった。挟み撃ちにされたら逃げ場がない。斜め上にどこまでも伸びている。踊り場らしきものはなかった。
レーダーに反応。前後から。後ろの相手――グレネードランチャーを叩き込んだ。前の相手――サブマシンガンでなぎ払った。弾丸をかいくぐって近づいてきた相手は、かんざしと爪先のブレードで片付けた。
扉が見えてきた。開けた。広場のような空間。辺り一面の芝――手入れが行き届いている。恐らく公園。辺りを見渡した。クラン以外の人影はなかった。後ろにはイワサキアーコロジー、前には海。海へと歩いた。岸壁。ボートが何隻か繋がれている――どれも無人。その中の一つに乗り込んだ。手が血まみれだった――体を変化させることができない。ハンドルのそばのパネルをこじ開けた。中の電気配線を無理矢理繋いで、モーターを起動させた。舳先を対岸のN◎VAへ向けた。出力を最大限に上げた。モーターがうなりを上げた。ボートが後ろに傾いて、波を蹴立てた。
上からローター音。振り返った――ヘリコプター。2機。キャビンから銃身が突き出ていた。撃ってきた。面舵を切って避けた。ボートを追って小さな水柱が立った。一度急旋回した船の軌道――すぐには元に戻らない。対戦車ライフルを構えた。空中に照準。撃った。ヘリコプターが火を噴いた――弾が切れた。もう一機――グレネードを叩き込んだ。命中。ヘリコプターが空中で火の玉と化した。
小さな弾体がクランのボート目がけて飛んできた――ロケット弾。撃墜される直前に発射された。海へ飛び込んだ。後ろでボートが大爆発した。背中が爆風と熱風に煽られた。いくつもの破片が背中にぶつかるのを感じた。
倉庫街。体を引きずるように歩いた。体――傷だらけ。髪――ほどけて乱れている。衣装――あちこちが破れて血まみれ。壁に体が当たった。体に最後に残っていた力が抜けた。壁に体を預けるように膝から崩れ落ちた。
声が頭の中に響く――「代えの利かないものなど存在しない」。
「くそったれ!」
叫んだ。そこにいないはずの煽流に向かって。
死んでたまるか、アイツを壊すまでは。
レーダーに反応――クランを囲むように増えていた。イワサキの追撃部隊。屋根の上からクランを見下ろしている影が見える。その影を睨み付けた。反撃するための弾丸も体力もない――気力だけは残っている。
殺せるものなら殺してみろよ――唇の端を吊り上げて見せた。
人影が消えた。レーダーの反応が遠ざかっていった。包囲の輪が解かれている。何があった?
倉庫の向こう側から車のヘッドライト。ワゴンのような車両。誰が呼んだ?
拳銃――弾丸がろくに残っていない。それでも震える手で車に向けた。後部ドアが開いた――アーガスが降りてきた。
「そう警戒するな。回収に来た」
「遅えよ」
「俺のクライアントを通じて交渉してたんだが、まとまったのが今の今だった」
クライアント――クランの読み通り。
「まずに傷を治さないとな。死なれちゃ困る」
アーガスが傍らにしゃがみ込んだ。肩に腕を回した。肩を貸されて、痛みをこらえながらワゴンに乗り込んだ。後部座席に体を横たえた。
「あの女医のところに行くのか?」
「いや、今回は別のところだ」
「それもアンタのクライアントの差し金か?」
「傷が治ったら、話す。その代わり聞かせてくれ。オユンと話したことを」
「会話は録音しといた。データがあるから持って行け」
アーガスがアクセルを踏み込んだ。クランの視界――いつしか暗闇に覆われていた。
クラン――偽造IDを使って大病院に入院していた。偽造ID――アーガスにもらった。念入りな治療を施された。個室をあてがわれていた。ポケットロンにメッセージ――アーガスから。迎えの車を寄越すから乗れ。今日が退院の日だった。受付で退院の手続きをとろうと立ち寄った。
「治療費は全てあらかじめいただいております。お大事に」
看護師が告げた。領収書がポケットロンに送られてきた。ロビーから外に出た。建物を見上げた。白亜の建物。壁面に書かれた「新星帝都大学病院」の文字。医療は最高水準。セキュリティは完璧。個室に入院するには金がかかる。
ロビーから正門の方角に目をやった。黒塗りの車が近づいてきた――アーガスの指定した車。後部ドアが開いた。アーガスが乗っていた。
「乗ってくれ」
アーガスに促されて、乗り込んだ。
車は住宅街を抜けて、大通りを走っていた。
「今度はアタシの番だな」
「傷が治ったらいろいろ聞かせてもらうと言ってたな」
アーガス――いつもと違う。あっさり認めた。




