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赫らの紅  作者: 紀伊・千尋(きいの・ちひろ)
第5章 戦いと探求の果てに
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最終節「壊してやるから待ってろ」

※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.

※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。

※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。


「ずっと考えてたんだよ。アンタのクライアントが誰なのかを」

 アーガス――無言でクランの次の言葉を待っている。

「まず、千早という線は消した。アタシが煽流とやり合った時点でいったん除外、破壊工作を命じられた時点で完全になし。次に、テラウェア。バイオで後ろ暗い研究もいろいろやってるという噂だし、イワサキと千早にまとめてダメージを与えられれば利益も大きい。でも、あそこは秘密主義で自前の工作員を持ってる」

「N◎VA軍と稲垣機関は?」

「イワサキはこの二つと仲良くやってる。なしだ」

「河渡やカーライルは?」

「ヤクザの敵はヤクザ、マフィアの敵はマフィアだ。企業に喧嘩をふっかけるいわれがない。それに、アタシは連中にも恨みを買ってるだろうからな」

「真教浄化派」

「自分達とそのシンパ以外全部敵と見なしてる」

「海外の犯罪組織やメガ・コーポは?」

「N◎VAに足がかりを作りたいだろうが、N◎VAには海外から来た住民も多い。そいつらを頼った方が早い」

「なるほどな」

「そうなると、N◎VAに足がかりがない、組織もない、しかし金だけは持ってる、アンタのスポンサーになるとしたらそういう奴だろう」

「その全てを満たすのは?」

「軌道」

 アーガスの目を見据えて告げた。

「アタシが入院したのは大病院の個室。迎えは高級車。だがそのくらいのことなら小金持ちにもできる。決め手は情報提供者だ。どこにでもいるんだろ? 雇うには金がかかる。武器も頼んだらすぐに出てきたしな」

「見事だな。ほぼ間違いはない」

「だが、一つだけアンタの口から聞かないとわからないことがある」

「何だ?」

「アタシに何をさせたかったんだ?」

「それは人工生物の研究データを盗み出して――」

 首を振った。

「それならアタシの身柄はいらないはずだ。アタシを切って、リサやジローに乗り換えても良かった。違法研究の証拠としてブラックハウンドに引き渡すなら、アタシは今頃逃げ回ってる。それに、いくらあの研究が違法でもイワサキが潰れるほどのダメージにはならないだろ?」

 アーガスは無言――暗黙の肯定。

「アーガス、アンタの狙いは何だ? アタシに何をさせたいんだ?」

 アーガスは口を固く結んだ。数秒の沈黙の後、口を開いた――重く、低い声。

「これから話すことを必ず胸にしまっておくと誓えるか?」

 誓い――アーガスの口から意外な言葉が飛び出した。

「アタシに向かってずいぶん重い言葉をぶつけるんだな」

「誓えないならこの先はなしだ」

 一度唾を飲み込んでから、答えた。

「誓う。約束する」

 アーガスがうなずいた。

「その言葉を待っていたんだ」

 アーガスはそう言って、運転手に行き先を変えるよう告げた。


 窓の向こうに、豪華な洋館が見えてきた。

「行き先ってのは――」

「あそこだ」

 クランの疑問にアーガスが即座に答えた。車は門をくぐり、エントランスで止まった。

「いらっしゃいませ、嵯峨様」

 黒いスーツの男が恭しく一礼した。

「嵯峨?」

「俺の本名だ。嵯峨・誠次郎だ」

 嵯峨・誠次郎――僅かに聞き覚えがあった。かつてブラックハウンドの敏腕刑事として鳴らした男。

「後ろの方は――」

「問題ない、俺の知り合いだ。例の場所へ案内してやってくれ」

「かしこまりました」

 アーガスが告げると、男は警戒を解いたようだった。男がアーガスを案内した。クランも後をついて行った。廊下――赤い絨毯が敷かれている。壁――調度品の数々。窓――枠に施された彫刻。クランには由来はよくわからなかったが、金と手間をかけていることはわかった。

「ずいぶんあっさり入れてくれるんだな」

「いろいろあって家族同然の付き合いをしていてな」

 途中で何人かのメイドとすれ違った。数分歩いた。廊下の突き当たりに着いた。エレベーターへの入り口があった。古めかしく、年季の入った見た目。

「では、行ってらっしゃいませ」

 男がコンソールを操作すると、エレベーターのドアが開いた。中には蛇腹。アーガスが蛇腹を開けた。

「乗ってくれ」

 促されて乗り込んだ。アーガスが乗り込んできて、蛇腹を閉めた。少し振動がした――エレベーターが下降を始めた。扉の上に設置された針が左から右へ動いている。

「ずいぶんと年代物みたいだな。“災厄”前の物か?」

「そうじゃない。そっくりに作ったレプリカだ」

 下手な新型より高くついただろう――そのことよりもこれを作る人間に興味を惹かれた。

 エレベーターが止まった。針が右端を指していた。乗り込んだときと同じ順番で降りた。


 長い廊下の先に、扉があった。オユンの研究施設の地下にあったような扉――秘密の物を保管するための場所。アーガスがパネルにタッチした――扉が開いた。部屋の中――暗い。並んだ計器類とディスプレイ、部屋の真ん中に置かれた人間大のカプセルだけが淡い光を発している。

 不信感が膨れ上がる。

「どういうことだ?」

「これを見てくれ」

 アーガスがカプセルの傍らに立った――そばに寄って、中を覗き込んだ。透明のカバーの向こう――若い女性。目を閉じ、手を祈りのように胸の前で握って眠っているように見える。髪――茶色のストレートヘア。顔立ち――柔らかいライン。身長――クランと同じくらい。年の頃――クランより僅かに下。カプセルの計器――生命反応なし。

「あの絵本を描いた奴と関係があるのか?」 

「描いたのはこの女じゃない。だが関係があるのは確かだ」

「アンタの娘か?」

 アーガスが首を振った。

「とはいえ、少しそれに近いかも知れん」

 答えを聞いた――その瞬間、思考が溢れ出した。感情が爆発した。

「このためか!?」アーガスの胸ぐらに掴みかかった。「この女のクローンを作るために、あのデータが必要だったのか!? だからアタシを利用したのか!?」

「体はお前さんのおかげで目処がついた。あとは記憶を読み出すことができれば生前とそう変わらない」

「そんなことを聞いてるんじゃねえ!」

「落ち着け。怒るだろうとは思ったが」

「アンタにとってこの女は代えの利くものだったのか!?」

 あの言葉が頭の中で反響する――「代えの利かないものなど存在しない」。

 詰め寄った――アーガスが重い声で告げた。

「代えが利くならこんなことはしない」

「なんだと!?」

「この子の姉のたっての頼みでな。不慮の事故で妹が死んでしまった、だがこんな結末は認められない。なんとかならないか、とな」

「今、この子と言ったな!? だったらなおさら作り直せばいいってわけじゃないだろう!?」

「だが、代えの利かないものだからこそなのも確かだ」

「ふざけるな!」

「他に誰でも良かったわけじゃない。お前さんだから目をつけたんだ」

 驚きが、クランの体を迸った。

「認めさせたいんだろう? 代えの利かないものはあるんだと」

 掴んでいた手を放した。アーガスが笑みを浮かべた。

「クラン、あの男に思い知らせたくないか。俺達に協力してくれれば、俺達も協力する」

 声が聞こえる――「代えの利かないものなど存在しない」。振り返った――大上・煽流が立っている。嫌な笑みを浮かべて立っている。代えの利かないものなどないのだと笑っている。

 拳を突き出した――煽流の姿がかき消えた。

「壊してやるから待ってろ」

 アーガスに向き直った。

「いいぜ」

 近いうちに、大上・煽流を壊すために。

『赫らの紅』、これにて完結です。お読みいただき、ありがとうございました。

 最後に、こぼれ話を少ししておきましょう。


 まず、クラン・カーラは筆者のキャストではありません。テーブルトークRPG(TRPG)「トーキョーN◎VA」を遊ぶために筆者が作ったあるシナリオ(TRPGを遊ぶための物語・舞台設定・NPCのセット)で登場させたNPCです。

 そして大上・煽流は筆者のTRPG仲間のキャラクターです。筆者がRL(ルーラー。トーキョーN◎VAにおけるゲームマスターのこと)となって「トーキョーN◎VA」をプレイし、上記のシナリオを遊んだとき、そのTRPG仲間が作ったのが煽流。「アンチクラン・カーラとしてデザインした」という言葉のとおり、クランと対極にあるキャラクターとしてデザインされていました。外見、戦闘スタイル、そして決め台詞。これらは実際のプレイで見聞きしたものです。

 私は事前の限られた情報からそこまでのことをしてくれたプレイヤーに驚き、感謝し――そして欲求が芽生えてきました。ならば、クランの物語を書きたいと。煽流というキャラクターのおかげで、私もクランのことをもっと掘り下げたい、わかりたいと思ったのです。 

 なおアーガスこと嵯峨・誠次郎は同じシナリオに登場したNPC、権藤・リサとジロー・ジュノーはこの小説のために作ったキャラクターです。


 元になった小説は2019年2月から書き始め、TRPG仲間にだけ見せていました。その後3年3ヶ月かかって完成。加筆修正を行い、今回お目にかける運びとなりました。

 小説は多少趣味で書いていた時期もありましたが、文庫本一冊分にもなる長い作品を書いたのは初めてです。書いてみないとわからない苦労や収穫がたくさんありました。全体の構成などもっとこうしておけばよかったということもあります。もし新しい作品を書くことがあったら生かしたいと思います。


 最後に、読者の方々に深く御礼申し上げます。この作品が皆様にとって価値ある時間と、心や記憶に残るなにがしかのものを与えられていますように。


 おまけとして、「トーキョーN◎VA」を遊んでいる方向けにクラン達のスタイルを紹介します。読者の中には彼女達のスタイルをいろいろ想像したり予想したりしている方もあろうかと思いますが、想像や予想は当たっていたでしょうか。

 

 クラン:カブトワリ◎●、ヒルコ、カゲ

 リサ:マネキン◎●、フェイト、ニューロ

 ジロー:カブト◎、タタラ●、カゼ

 煽流:クグツ◎●、タタラ、カゲ

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