第7節「どうしてこんな真似をしやがった!!」
※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.
※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。
※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。
ゴンドラが減速を始めた。サブマシンガンを取りだして、構えた。扉の影に隠れた。ゴンドラが完全に静止した。視線を外へやった。右へ、左へ。交互に視線と銃口を向けた。動く者の姿はなかった。センサーを全開にした。反応はなかった。
細く長いトンネルが延びていた。一本道。遮るものはない。周囲を警戒しながら奥へと歩いた。奥に重々しい鉄の扉が見えてきた。表面に突起物や錠前などはない――恐らくは防水扉。内側から閉めている。
対戦車ライフルを再び組み立てた。伏せた。弾を込めた。扉の真ん中に照準を定めた――締め付けハンドルがあると思われる場所。撃った。轟音がトンネルを満たした。強烈な反動がクランを襲った。一瞬遅れて扉に穴が穿たれた。僅かに扉が緩んだのが見えた。
扉に近づいた。手のひらを当てて僅かに押した――動かない。両手をついて、両足を踏ん張った。力を込めた――動かない。押し込んだ。奥歯を噛みしめた。前へ進むようにして両足に力を込めた。両腕を押し出した――動いた。ゴムパッキンがずれる音がして、扉が少しずつ奥へと動いていった。クラン一人が通り抜けられるだけの隙間ができた。その隙間から中に入った。
隙間を抜けた瞬間、不意に視界が広がった。思わず上を見上げた。最大級のコンサートホールくらいありそうな大きさの空間。壁一面に敷き詰められたケーブルや配管。キャットウォークに並んだ人間大のカプセル。コンピュータらしき物体――見当たらない。いや、この空洞全体がコンピュータなのか?
リサも、ジローも、クランも、ここで作られたのか?
周囲を見渡した。クラン以外の人影――ない。作業用と思われるドローンが動き回っているだけだった。警備用のドローン――なし。
床の中央――パネルのようなものが光っている。近づいた。
パネル――アプリケーションやフォルダのアイコンが表示されている。中身は不明――検索機能を使った。「形代計画」のキーワードを入力――空中にホログラフが投影された。いくつものファイル。年月日らしき数字が振られている。名簿らしきファイルがあった。タッチした。いくつもの名前が浮かんだ。
名簿を上から順番に確認した。アルファ、ブラボー、チャーリー――フォネティックコード。その横に名前が並んでいる。日本風、アジア風、欧米風――頭文字はフォネティックコードに対応している。名前の一つに見覚えがあった――クランがトンネルで倒した男の名前。名前をクリックした。表示されたのは名前、顔写真、性別、身長、体重などの基礎データ。そして、生死状態。その男の生死状態――死亡。ファイル――ここで作られた者達の名前。
鼓動が勝手に早くなっていた。呼吸が荒くなっていた。
名簿をスクロールした。J――ジロー。L――リサ。K――クラン。
名前を順番にクリックした。ファイルが表示された。名前、顔写真、性別――クラン達のデータ。
推測が裏付けられた。疑念が確信に変わった。体が熱を帯びた。血が逆流した。
煽流の言葉がフラッシュバックする――「代えの利かないものなど存在しない」。
「オユン――」
奥歯が砕けそうなくらいに噛みしめた。奥から言葉を絞り出した。
「どうしてこんな真似をしやがった!!」
「君か」
クランの言葉に応えるように奥から現れた人影。怒りが膨れ上がる。なんとかそれを抑え込んだ。まだオユンには問い質さなければならないことがある。思考トリガーでポケットロンのボイスレコーダーアプリを起動した。右手に拳銃を握って突きつけた。
「どうしてアタシを、アタシ達をこんな風に作った?」
オユン――余裕のある態度は揺るがない。
「それは目的を尋ねているのかね? それとも手段か?」
「アタシ達は人工生物を使って人間そっくりに作った、人間ではない何か。そうだろ?」
「その様子だと大まかなことはわかっているようだね。そこまでわかっていて、私に何を尋ねようというのかね?」
「多すぎるんだよ、つじつまの合わないことが」
「なるほど、やはり自力でたどりついたか」
「やはり?」
「私は予見していたのだよ。君達は遅かれ早かれ自らの生まれに疑問を抱き、真実を探ろうとするだろうとね」
「そこまでわかっていたなら、なぜアタシ達を自由にさせた? リサとジローは逃げ出そうとしたし、アタシはこうしてテメエに銃を向けてる。その前にもいたんだろ、逃げ出した連中が。こんなこと、あらかじめ防ごうと思えばいくらでもできた。あらかじめ脳にすり込んでおくなり、体に爆弾を埋め込んでおくなりしてな。違うか?」
オユンはゆっくりとうなずいた。
「実験のためだよ」
「実験?」
「人間はなにゆえ人間であるか、人間を大人の姿で作ることはできるか、という実験だよ」
「聞かせろ」
先を促した。
「君は何をもって人間だと思う?」
オユンの問い。思い出した――前にDAKで見た学者達の会話。
「はっきりした定義はないんだろ?」
「そのとおりだ。生物学上は『ヒト』と言えば終了だがね、恐らくそれでは誰も納得しないだろう」
「人間と認められるためには、周りから人間と思ってもらえなければ意味がないってのか?」
オユンは満足そうな微笑みを浮かべた。
「そのとおりだ。脳から五感に至るまで、人間と同じように作る。これが最低条件だ。極端な話、昆虫よろしく目だけを複眼にしたのでは、見える世界が違ってしまうからね」
「だけど体だけ人間そっくりに作って終わりじゃないんだろ?」
「そうだ。自我を持ち、価値観を持ち、好悪の感情を発する。知識を蓄え、技能を習得する。言語を使い、他者と交流し、人間関係を築く。一定の常識を共有し、文化や歴史といった価値観を共有する。人間観は時代によって変化することもあるがね、現代ならば少なくともそこまでやって初めて人間と認められる可能性が出てくる」
「その割には、アタシもリサもジローも、模範的とは言えない奴らじゃねえか」
「それもまた人間だからだよ。人間そっくりに作るということは、人間のいい面だけではなく悪い面も再現するということだ。人間関係は愛情や友情だけではない、敵意や悪感情もまた然りなのだよ」
オユン――全ては奴の思惑どおりだったのか。拳銃を握る手に力がこもった。




