第4節「興味があるか?」
※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.
※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。
※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。
リサのデバイスを差し出した。
「これは?」
アーガスの視線が吸い寄せられた。
「千早から引き出したデータだ。元はイワサキのデータだけどな」
「これを俺にくれるのか?」
「もちろんただじゃない。アンタへの借りは、これを売るってことでチャラだ。どうだ?」
しばらく間があった。
「いいだろう」
アーガスが手を差し出してきた。
「もう一つ条件がある」
「言ってみろ」
「オユンの居場所を突き止めたい」
「突き止めてどうする」
「直接奴の口から本当のところを聞き出す」
「なんだってそんなことを? 死ぬつもりか」
「このままじゃ気が収まらねえんだよ」
オユン。クラン達を作り出した。過酷な状況に放り込んで、高みの見物を決め込んでいる――我慢できなかった。
「アイツは用心深い。アタシには肝心なことを何一つ言わなかった」
恐らくはリサとジローにも。
「そうだろうな。俺の情報網にもさっぱり引っかかってこない。ということは、表舞台には滅多に顔を出さないということだ。無理もないだろう。もしアンタを一から作ったんだとしたら、ノーベル賞ものの発明だ」
「本気で言ってるのか?」
「皮肉に決まってるだろう。それだけの大がかりな研究を行えて、なおかつ人目につかない場所は限られる」
「セルゲイと河本を襲ったときは、スーパーコンピュータを施設に運び込んでた」
「もっと大がかりだろう。ということは電力と水が豊富に使える場所ということだ」
「水?」
「コンピュータを冷やすための水だよ」
思い出した――リサの言葉。大型コンピュータを設置できる部屋に必要な条件。頑丈な床。冷却水。電力。
「工場や倉庫に偽装してるってのか? それともタンカーやコンテナを丸ごと改造したのか?」
アーガスが首を振った。
「外に熱が出る。オユンなら絶対に隠したいはずだ。それに、イワサキは研究施設にうってつけの場所を持ってるのさ」
「どこだ?」
「地下だよ」
「廃棄されたリニアのトンネルとか言うんじゃないだろうな?」
「そんなもんじゃない。地底の空洞さ」
「なんだって!?」
地底の空洞――かつてN◎VAの地下深くにあった。“災厄”後、度重なる開発で生じた空間。度々地盤沈下の原因になった。テロリストに利用されそうになり、埋められたはずだった。
「イワサキは埋め立てた振りをして、アーコロジーの真下の空洞をそのままにしたんだよ。補強して研究所に使えるようにした。地下水は使い放題、電力も小型の反応炉を置ける。隠し切れなくなったら空洞ごと埋めてしまえばいい」
「なるほどな。オユンが人目につかないようにしていたとなると、大半をそこで過ごしていたんだろう」
「だからアーコロジーの内部に出入り口が隠されているだろう」
アーガスの情報収集力――想像を絶している。イワサキの誰かが情報提供者なのだ。今のところ、アーガスに明らかに偽の情報を掴まされたことはない。半分しか明かさないことはあったとしても。
まずはイワサキのアーコロジーに入るしかなさそうだ。
「わかった」
「まあ、待て。敵の本拠地に乗り込むんだ、これを持って行け」
アーガスが筒状の何かを差し出した。
「これは?」
「大方こういう用件じゃないかという気がしていたからな、用意しておいたんだ。開けてみてくれ」
開けてみた――中に数本の筒。分解式ライフル銃――大きさが段違いだ。
「対物ライフルか?」
「“災厄”前の対戦車ライフルを少し改造して、分解して持ち運べるようにしてある。射程は少し短くなるが、アーコロジーの扉をぶち抜くには十分だろう」
筒の反対側に触れた。手のひらで覆って、ねじった――底が回って、取れた。中から鈍く金色に光る弾丸が覗いていた。
「ああ、十分すぎるくらいだ」
胸の奥がざわつくのを感じた。
「試し撃ちはいいのか?」
「そんな暇あるか」
筒に蓋をして、対戦車ライフルをしまい込んだ。忍び込んだ後、どこかで組み立てればいい。
対岸に視線をやった。イワサキアーコロジーがぎらつくような光を放っていた。
筒は長さが1メートル、直径が30センチはありそうだった。背負うにしてもグレネードランチャーより太いし、長い。
羽織状の上衣の下に隠すのは諦めた方が良さそうだった。付属のベルトを使って体に掛けた。振っても音がしない。
「で、どうやって忍び込む? リサもジローもいない、器用な手は使えないだろう」
「イワサキの連中に連れて行ってもらう」
「というと?」
「工作員がアタシを血眼になって探してると言ったな? まずそいつを叩きのめす」
「殺すのか?」
「いや、あえて生かしておく。そうしたら退却していくか、回収に来るはずだ。機密を漏らしたくはないだろうし、一般の病院には入院しないはずだからな。そいつらの乗ってきた車に忍び込むか、奪うかすれば潜入まではできるだろう。それから連中の遺伝子情報をコピーして、パス代わりにする。オユンの部屋まで行ければ、地下へ行く隠し扉があるはずだ。アイツのラボ以外の場所でオユンを見かけたことがないから、地下の研究所とラボは直につながってるはずだ」
「その推論と手口はいい線を行っているだろう。脱出はどうする?」
「非常扉や隠し通路があるだろう。研究所でオユンに全てを吐かせたら、そこから逃げるさ」
「そうか。それなら俺からも頼みがある。アンタが研究所で見聞きしたことやオユンと話したことを、できるだけ詳しく教えてくれ。できれば記録して」
アーガスがクランに依頼する――こんなことは初めてだった。違和感を覚えた――飲み込んだ。
「わかった」
「それから、脱出したら木更津湖のほとりにでも逃げてきてくれ」
「回収でもしてくれるってのか?」
「できるだけ努力するよ」
「後で追加料金を請求とか抜かすんじゃねえぞ」
「アンタにはまだやってもらいたいことがあるだけだ」
今はアーガスを問い質している暇はない。聞いてもはぐらかされるだけ。口を割らせる材料もない。
「それじゃ、うまくやってくれ。俺はこれで失礼――」
アーガスが踵を返そうとした時、ジャケットのポケットから何かが落ちた。
「おっと」
拾い上げようとした――クランの手の方が早かった。
地面に落ちた物――本。ニューロエイジでは珍しい紙の本。表紙は何も書かれていない――真っ白。
拾ってアーガスに差し出した。
「すまないな。危なかった」
「こんなものを後生大事に持ち歩く奴だったなんてな」
アーガス――今まで自分のことを何一つ話していない。本――アーガスを知る手がかりかも知れない。
「大切な物か」
「興味があるか?」
めくってみろ――アーガスに促されてページをめくった。本の中身――絵本。聞いたことも見たこともない話。鳥が歌い、花が笑う幻想的な世界――クランの記憶や住む世界とはあまりにも違う世界。
最後までページをめくった――途中から白紙になった。
「まさかアンタが描いたのか?」
アーガスは首を振った――否定の合図。
「これは貰いもんだ。まだ仮作品でな。結末も決まってないし、タイトルもなかった」
「誰が描いたんだ?」
アーガスは一呼吸置き、噛みしめるように言葉を吐き出した。
「俺の古い知り合いだ」
アーガスの目――何かを懐かしみ、悲しむ感情が覗いたような気がした。すぐに消えて、仕事の目に戻った。
「さ、昔話はもういいだろう」
「ああ。じゃあな」
アーガスに本を返した。背を向けて、駐車場を離れた。




