第3節「アタシに死なれたら困るんだろ?」
※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.
※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。
※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。
物陰に隠れて、アーガスに電話を入れた。
「はい?」
「ユウタはどうしてる?」
「何があった?」
「すぐ調べろ!」
「落ち着けよ。今の様子を確かめればいいんだな」
電話が切れた。
緊張が途切れた――体が重くなった。両腕、両足、背中。全身の筋肉と痛覚が痛みを発していた。数日緊張の連続で、満足に睡眠も食事も取っていない。緊張が途切れる瞬間、疲れと痛みが襲ってくる。
それでも、立ち止まるわけには行かなかった。非常線や検問が張られる前に一帯を離れなければならない。一般人を装ったイワサキや千早の工作員もいるだろう。駐車場からキャンピングトレーラーが出てきたのが見えた。バンパーに掴まった。
検問に引っかかることはなかった。工作員にも見つからなかった。町外れまで来たところで、降りた。
リサの権限を使って、デバイスの情報を呼び出した。データ――千早で読んだものと同じ。
ポケットロンに着信――アーガス。ハンズフリー機能を使って応答した。
「ユウタなら家に帰って、いつもどおり働いているぞ」
アーガスに気づかれないように安堵のため息を漏らした。
「このくらいはしてもらわないとな」
「いきなりなんだ?」
「アタシをリサとジローに売っただろう?」
「なんのことかわからんな」
「アイツら、待ち伏せてた。アタシが追ってくることを予測して、手を打っていた。危なかった」
「お前を裏切ったからには追ってくることくらい織り込み済みだろう」
「それがアタシ“だけ”に狙いを絞った待ち伏せでもか?」
「どういうことだ?」
「どう考えても時間が足りなさすぎるんだよ。アタシがリサとジローの居場所を知らないかと尋ねたら、すぐに返事が来た。アイツらから教わっていたからじゃないのか?」
「そんなことをしなくても情報が手に入るってのは、アンタも知ってるだろう」
「ユウタを連れて行ったとき、リサとジローもいた。リサのことだ、どうやったかは知らないが、保険をかけるためにアンタの連絡先を手に入れて交渉を持ちかけたんだろう、クランは間違いなく追ってくる、なんとかならないか、金は払うってな。アンタはセーフハウスで待ってりゃ必ずアタシが来ると話した。すぐに殺すな、利用価値があるはずだって教えてやってな。一方でアイツらの居場所をアタシに流した。違うか?」
「それが事実だとして、どうする? 俺を殺したところで、お前を助けられる人間がいなくなるだけだぞ」
「会えないか? 見てもらいたいものがある」
「いいだろう」
電話が切れた。待ち合わせ場所と時間が送られてきた。
アーガスから言葉を引き出した――クランのささやかな勝利。
待ち合わせ場所――LU$Tの対岸。橋のふもとの駐車場。昼間は公園や浜辺に遊びに来た車でいっぱいになる。時間の指定――深夜12時。先に来て、待ち伏せがないかを探った――それらしき人影や装置は、なかった。監視カメラの死角になる場所で待機した。
デバイスの中のデータに改めて目を通した。中身――人工生物のデータ。オユンのレポート。半蔵の指示――データの破壊。それなのに、リサはデータを保存していた――明白な裏切り。
推論――リサはデータを売ろうとしていた。その金を元手にやり直そうとした。
アーガス――データを欲しがるだろうか? 興味を示すだろうか? あれだけの人脈――売り先には事欠かないだろう。
データを見ながら情報を整理した。今まで見聞きしたことを反芻した――女医の言葉、リサの言葉。クランが倒した裏切り者達。セルゲイ達が作ったクランの偽物。
事実――クランはあらかじめ大人の姿で生まれて来た。恐らくは、リサとジローも。
疑問――十数年分の記憶をどうやって作ったのか? それをどうやって脳に書き込んだのか? クラン達を作って、オユンは、イワサキは何をするつもりだったのか?
聴覚センサーが足音を捉えた。視線を音の方向に向けて、視覚センサーをズームイン――アーガス。物陰に隠れた。アーガスが現れた。他の人影――なし。確かめて、物陰から出た。
「これはまた、相当苦戦したようだな」
アーガスが声をかけてきた。クランの状態に感づいている――満身創痍。だが、足元を見られるわけには行かない。
「何かと敵が多くてな。アンタだって、アタシに死なれたら困るんだろ?」
かまをかけてみた。アーガス――クランに何かをさせたがっている。間違いなく。




