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赫らの紅  作者: 紀伊・千尋(きいの・ちひろ)
第4章 死地での再戦
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第14節「ひどいことになってるみたいだな」

※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.

※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。

※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。


 ジロー――なぜ裏切った? リサ――何を考えている?

 立ち止まっている猶予はない。信号のハッキング、速度違反。すぐにパトカーが迫ってくる。非常線が張られる。身を隠さなければならない。スラム――隅田川の向こう側まで逃げられれば、少なくともイヌは追ってこない。

 問題――N◎VA軍の検問をどうやり過ごすか。

 熱光学迷彩――衣装の所々が破れていた。不完全な機能しか発揮できない――N◎VA軍に発見されるリスクが上がる。

 偽造ID――生きているが危ない。千早からN◎VA軍に通報が行っている可能性も考えなければならない。リサがいればその場で書き換えて連中の目をごまかせるが、今は言っても詮無いことだ。

 強行突破――困難。弾薬は残り少ない。装備も練度も、先ほどの追撃部隊を遙かに超える。敵の中に煽流が何人もいると考えなければならない。

 どうする?

 考えがまとまらないうちに、ポケットロンに着信――アーガス。ハンズフリー通話システムをオンにした。

「ひどいことになってるみたいだな」

「何でもお見通しってわけだ」

「アンタが街中で車から放り出されるのを見た奴がいるんだよ」

「高みの見物を決め込んでないで、川の向こうに渡る方法を教えろ」

「リニアに入れ。すぐそこが終点になってるだろう」

「墨田川から先へは通れないんじゃないのか?」

 N◎VA軍進駐と同時に墨田川以南のスラムは封鎖、リニアも墨田川以南の路線は運行が休止された。

「いや、小さな抜け穴があるんだよ。リニアが運行を休止している時間帯だけ、行き来に使われる」

 Xランク市民や脛に傷を持つ者達が使う秘密のルート。

「アーガスの紹介だと言えば通れるようにしておいてやる」

「もう一つ頼みがある。リサとジローの足取りを追えるか」

「やってみよう。逆にこちらからも用件がある、そろそろあの女医のところへ行ったらどうだ?」

 リサとジローを追うにも、怪我を治しておいた方がいいだろう。

「そうする」

 電話を切った。


 リニアの駅――高度なセキュリティだが、一般人の範囲内。損傷した熱光学迷彩でもやり過ごすことができた。ホームドアを乗り越えて線路に降りた。保線用のドロイドをやり過ごしながら、トンネルの奥へ向かった――行き止まり。レイヤーに時刻を表示した――待ち合わせの時間だった。ある時間だけスラムの住人が隠し通路を開く。時間は暗号に従って毎日ランダムに変わる。通りたい人間はその時間を目指してやってくる。

 ブロックを動かす音。奥から女が現れた。

「アーガスに通っていいと言われた」

 告げた――値踏みする視線が返ってきた。

「いくら出す?」

 懐からキャッシュを取り出した。

「足りないね」

「ふざけるなよ」

「こっちだって危ない橋を渡ってるんだ。それなりの通行料をもらわないとね」

「金がない。後で払う」

「私は後払いにする奴が一番嫌いなんだ」

 女の思惑――アーガスには内緒で懐に金を入れる。こんなところで押し問答をしている時間はない。有り金をさらうか、武器を渡すか――別の声が聞こえてきた。

「やめて。通してあげて」

 少女の声。聞き覚えがあった――工場で働かされていた子供達の一人。

「この人は私達を助けてくれたんだよ」

「なんだ、お前の恩人か。それじゃ仕方ないね」

 女が顎をしゃくった――通れという合図。言葉は交わさず、一瞥をくれて通り過ぎた。

「私が案内してあげる。どこへ行きたいの?」

 少女がクランの前に回り込んできた。

「案内してやんな」

 女が少女に告げた。


 建設途上で放棄されたリニアのトンネルを歩いた。後ろから足音は聞こえない。センサーへの反応もない。

「ここで働いてるのか?」

「他に行くところもなくてさ。市民ランクもないんじゃまともな仕事につけないし、施設も空きがないし、かと言って男の相手させられるのはまっぴらだし」

 ユウタの話と同じだ。細部が異なるだけ。

「それであの女を頼ったと?」

「ああ見えてあの人、結構面倒見いいところあるんだよ。他にも私みたいな子供を引き取って、面倒見てる」

「お前は人を見る目はあるみたいだな」

 思い起こしていた――セルゲイの金に釣られた少年のこと。

「他の連中はどうした」

「今でも連絡取り合ってるよ。どこ行ったかわかんなくなっちゃった子もいるけど。何か知らない?」

 首を振った。

「そっか」

 歩いているうちに出口が近づいてきた。

「医院はここから出たらすぐそこだよ」

 手を振って別れようとした――呼び止められた。

「ねえ、お姉ちゃん?」

「まだ何かあるのか」

「さっき負けてくれた分でどうかな?」

 苦笑してキャッシュを何枚か渡した。

「抜け目がないな」

「いつもくれる報酬だけじゃ足りなくって。あの人には感謝してるけど、この暮らしからは抜け出したい」

「へそくりがばれないように気をつけろ」

「ありがとう」

 少女がキャッシュを握りしめて元の道を帰っていった。


 体のあちこちが痛み始めた。緊張が途切れて、痛みを感じ始めたのかも知れない。

 壁に焼け焦げた跡――見覚えがあった。あの男――煽流と初めて戦った場所。

「代えの利かないものなど存在しない」

 煽流の言葉が脳裏で繰り返す――歯を噛み鳴らして残響を振り払った。壊す――いつか、必ず!

 煽流と戦った場所まで来た――医院はこの真上。上へと続く階段を歩いた。地上に出た――東の空が白くなり始めていた。 

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