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赫らの紅  作者: 紀伊・千尋(きいの・ちひろ)
第4章 死地での再戦
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第13節「逃げる方法なら、ある」

※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.

※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。

※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。


 一刻も早くこの場を離れなければならない。間違いなく追っ手が来る。ひたすら走り続けた――ダストシュートへ。ゲートやセンサー――リサが抑えている。マシンガンを取り出し、弾倉を入れ替えた。

「そんなものをぶっ放す気か!? 一般社員が巻き添えになるぞ」

「連中にとっ捕まりたいのか!」

 ジローを怒鳴りつけた。余計なことを考えている暇はない。ダストシュートの前まで来た。幸い、千早の人間には鉢合わせしないで済んだ。扉が開いている。リサが下を覗き込んだ。

「こんなところ飛び降りるっていうの?」

「他に場所がない。前に言っただろ」

 リサが言葉を漏らした。それをよそに、ジローに向かってうなずいた。

「改めて見るとおっかないね」

 ジローがクランとリサを抱きかかえた。飛び降りた。落ちていく。速度が上がる。下から吹き付ける空気が体に、頬に強く当たる。体への当たりがさらに強くなった――リサがハッキングで降下制御装置の出力を上げた。急に体が上に引っ張られるような感覚があった――ジローの背中のパラシュートが開いた。負傷しない程度に降下のスピードが落ちる。

 地下の処理室が近づく――突然、足元に光が灯った――扉が開いた。

「クラン、下だ! 下で誰かが待ち構えてる!」

 ジローが叫んだ。クランのセンサーも、下の人間を捉えている。リサが首を振った。ハッキングは無理。マシンガンを放った。腕のミサイルを発射した。下の人間の動きが一瞬止まった。その間に、扉の向こうに弾体が吸い込まれた。一瞬遅れて爆発が起きた。熱と爆風が下から噴き上がってくる。熱風に煽られながら着地した。

 処理室――ミサイルの爆発で部屋中が燃えていた。鳴り響くサイレン――火災警報。天井から噴き出す水――スプリンクラー。警報音とシャワーの中を突っ切った。ゴミ収集車がガレージに止まっているのが見えた。慌てふためいているドライバー達を尻目に、無理矢理乗り込んだ。リサがハッキングでモーターを起動させた。ジローがアクセルを踏み込んだ。タイヤが金切り声を上げて、車が飛び出した。


 走り続けた。制限速度――無視した。速度違反取り締まり装置――リサがハッキングでごまかした。信号――リサがハッキングで操作した。他の車や歩行者に邪魔されずに走り続けることができた。

「そう長くは持たないよ。警察がおかしいと思って追ってくるかも知れない」

「それにこの車は目立つ。どこかで路地に入って追っ手を撒こう」

 リサとジローの言葉を背中で聞きながら、後方に目を凝らした――いくつものヘッドライト。徐々に大きくなってくる。モーターのうなりが聞こえる――千早の追撃部隊。

 窓からグレネードランチャーを突き出した。クラン達の車との間に別の車はない――追っ手もリサと同じ使い手がいる。リサの表情から余裕が失われていた。照準を向けた。撃った。着弾。爆発音。一台の車が炎上してガードレールに突っ込んだ。残りの車――追ってくる。グレネードの残弾を確かめた。追撃隊を相手するくらいは残っている――。

 突然、視界の隅から別の車が飛び出してきた。交差点が死角になっていた――信号を無視して曲がってきた。グレネードを向けた――間に合わなかった。クラン達の車にぶつかってきた――衝撃。揺さぶられた。クランはシートの上に叩き付けられた――後ろ向きに撃つために、シートベルトをすることができなかった。また大きな衝撃。ひしゃげて曲がったドアを蹴飛ばした。硬い金属がアスファルトにぶつかる音がした。強い風が流れ込んできた。

 身を起こしてグレネードランチャーを相手の車に向けた。もう一度ぶつかられる前に撃つ。相対速度と振動を射撃管制システムで補正――ロックオン。引き金を引いた。弾体が窓ガラスを突き破って、相手の車の中に吸い込まれていった。爆発。炎と黒い煙が吹き出して相手の車が止まった。

 いつの間にか追っ手の車が増えていた――後ろから、右から、左から。

「無理だよ、逃げ切れない」

 リサの声が聞こえた。今にも泣きそうな声だった。

「死にたいのか!?」

 怒鳴りつけた。

「嫌だ、死にたくない!」

「だったら手を動かせ、泣き言を言うな!」

「いや」

 ジローの声がクランとリサの押し問答を遮った。妙に落ち着き払った声だった。

「逃げる方法なら、ある」

 思わずジローを見た。顔が青ざめていた。追われる恐怖のせいだけではなさそうだった。

「お前、何を……」

「こういうことさ」

 突然、車が左に傾いた。急ブレーキと急ハンドル。クランの体が空中に投げ出された。次の瞬間、道路に叩き付けられた。体が何回転か地面を転がって止まった。視界の向こう、テールランプが急速に遠ざかっていった。

 リサとジロー――逃げた。クランを裏切って。クランを捨て石にして。

 信頼、友情、仲間、絆――もともとそんなつながりじゃない。互いに利用するだけ。恐怖と力で押さえ付けていただけ。ため込んだ不安、不満、恐怖――ふとしたきっかけで爆発する。わかっていたはずだった。それなのに、いつからか警戒のレベルを下げていた。背中から撃つような真似だけはしないと錯覚していた。その結果がこれだ。

 そこまで理解して、血が逆流を始めた。視界が赤く染まった。体の奥から燃えるような熱さを感じた。奥歯が軋むほど噛みしめた。心の中で何度もリサとジローを罵った。

「くそったれ!!」

 胸の奥から叫びが迸った。

 右肩と左足に痛みを感じた。衣装も所々が破れて、擦り傷ができていた。とっさに受け身をとったものの、ダメージをゼロにすることはできなかった。痛む体にむち打って、立ち上がった。

 追撃隊の車が止まった。扉が開いて、黒服達が次々と現れた。人数――およそ20人。煽流の姿はなかった。反対側に走った――囲まれる前に距離を取る。

「動くな、投降しろ」

 リーダーらしき男の叫び声が聞こえる。

「煽流はどこだ!」

 建物に隠れ、撃ちながら叫び返した。

「お前の知ったことではない。おとなしく投降しろ」

 推論――クランを生け捕りにするよう命じられている。素人臭い動き――煽流はおろか、かつて遭遇した黒服達にも及ばない。恐らくは急ごしらえの寄せ集め。

「テメエらがこのアタシを、どうにかできると思ってんのか」

 黒服達――車を盾にして銃撃を浴びせてきている。グレネードを放った。車ごと黒服達が吹き飛んだ。そのまま走り込んだ。黒服達――動けない。虚を突いた。同士討ちを恐れている。走り回りながら銃弾をたたき込んだ。拳銃、マシンガン、ショットガン。体の痛みに構わず撃ち続けた。黒服達を一掃するまで、30秒もかからなかった。

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