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赫らの紅  作者: 紀伊・千尋(きいの・ちひろ)
第4章 死地での再戦
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第12節「ぶっ壊してやる」

※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.

※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。

※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。


 全身の血が熱を帯びる。腹の奥に熱い塊があるのを感じる。煽流の方向に向き直り、足を踏み出す。

「独りか?」

「余計な人間の動きはかえって足手まといですからねえ」

「余裕たっぷりじゃねえか」

「貴方も別に三人がかりで来ようとしたのではないんでしょう?」

「当然だ」

 言葉を交わしながら、歩みを進める。今にも張り裂けそうな空気がクランと煽流の間に満ちているのを感じる。

 首を動かさずに、リサとジローを横目で一瞥した――お前達はデータを壊すことに専念しろ、コイツはアタシが壊す!

「ぶっ壊してやる」

 低い声で告げた。

 煽流――相変わらず薄い笑みを浮かべて立っている。腕を振った――拳銃が手の中に握られた。撃った。発砲音――静かだった。銃本体ではなく弾薬自体に消音機能を持たせている。煽流――上に飛んでかわした。弾丸が壁や廊下、コンピュータのメインフレームに跳ね返って、火花が散った。

「クラン、ここの機器はみんな銃弾に弱い!」

 ジローが叫ぶ。

「私だって銃弾に弱いよ!」

 リサの悲鳴が響く。

「しっかりガードしてろ!」

 怒鳴り返しながら煽流を追いかけた。まだ得物の単分子ワイヤを出す気配はない。煽流に攻撃させること――そこにチャンスがある。煽流――メインフレームの上の空間を歩いていた。クランも筐体に飛び乗った。別の筐体に飛び移って煽流を追おうとした――待て、なぜ空中を歩いている?

 空気の流れが変わっている――強引にブレーキをかけて、足を止めた。頬に微かな痛みが走った。生温かいものが頬を伝うのを感じた。

「思っているよりかは察しがいいですね。まあ、一発不合格は免れたといったところですかね」

 煽流が空中に立っていた。いや――見えない足場の上に立っていた。

 弾倉が空になった拳銃を放り投げた――二つに切れて地面に落ちた。

 煽流――単分子ワイヤを蜘蛛の巣状に張り巡らせている。

 推論――飛び回っている間に単分子ワイヤを張り巡らせて、クランを囲んでいる。うかつに動けば見えない糸で切られる。想定より切り札を早く切らなければならなくなった。

 視覚レイヤーのモードを赤外線にスイッチ。目の中に、蜘蛛の巣が広がった。全ての物体はそれ自身の温度によった遠赤外線を出している――単分子も例外ではない。高速で動くワイヤーを捕らえるのは限界があっても、停止している状態なら捕らえられる。

 煽流の勝ち筋――見えないブレードと、相手を挑発して冷静さを失わせること。そのいずれにも対処できる。

「口三味線はそれくらいにしておけ」

 吐き捨てた。かつて煽流は言った――サブマシンガンで上下左右全てをカバーすることはできない。ならば――膝からミサイルが飛び出した。煽流が弾頭をがワイヤーで切り落とした――爆発して無数のパチンコ玉が飛び出した。指向性対人地雷の仕組みを応用した多弾頭ミサイル。とっさに背広を脱いで盾にした。頭部や腹部への直撃を防いでいる。貫通することは最初から期待していない。それでも必要な時間は稼いだ。動きを止めた。目を塞いだ。 

 思考トリガーでレーザー発射機を起動。小さく鋭い機械音がして、腹部のプロテクターが三つに割れた――レンズのようなものが姿を現した。視覚レイヤーが照準モードに切り替わった。目の中のガンサイトに煽流を捕らえる。同時に、発振機がチャージを開始した。靴底の金属端子とタイツを通じて、アーコロジーから電気が吸い上げられる。視覚の隅のメーターが充電完了を知らせる。

 発射! レーザーが煽流の背広に吸い込まれる。そこから、地面や空中をなぎ払うようにしてレーザーを動かした。空中に張り巡らされたワイヤーを切るように。レーザーが空を切る度、ワイヤーが切れて床に落ちた。クランの周りに張り巡らされたワイヤーを全て切り落とした――アラート。オーバーヒート。 

 もうレーザー発射機は使えない――まだ勝ち筋が残っている。レーザー発射機を脱ぎ捨てた。もはやデッドウェイトでしかない。2枚のパーツが音を立てて床に落ちた。

 煽流めがけて床を蹴った。煽流が腕を振った――ワイヤーを指先から伸ばして、斬りかかってくる。ワイヤーが空気を切り裂く微温、空気の流れの変化――センサーが検知した。足元を狙っている――足を踏みきった。靴の下数ミリをワイヤーが通過していった。

 単分子ワイヤー――振る動きはあっても突く動きはない。ワイヤーを伸ばせば伸ばすほど、空振りするとすぐには二の太刀を放てない。煽流が後ろに飛んだ。ワイヤーを巻き取りながら、斜め上からクランを切りつける――身体をわずかに傾けてかわした。かわしながら、右手の感触を確かめた。煽流が手首を返した。ワイヤーが下からクランを切り上げる――右の袖からタングステンの棒を出した。手の中に握った。受け止めた。ワイヤーが棒に巻き付いた。

 腕に力を込めて、煽流を引き寄せた。煽流の身体がクランに向かって流れた。急に右腕から重みが消えた――煽流がワイヤーを切断した。しかし身体の制御は戻っていない。コンマ何秒かの時間を稼いだ。左腕をかんざしに伸ばした。拳銃――弾詰まりの危険がある。仕組みや可動部がなければその危険はない。親指と人差し指と中指でかんざしを挟んだ。引き抜いた。腕を振って投げる。かんざしを煽流の眉間に突き立てる――。

 突然、目の前が真っ暗になった。全てのセンサーがダウンした。かんざしを投げた――タイミングが一瞬遅れた。光が戻った。センサーが復帰した。煽流――ミラーシェードのフレームに傷がついていた。投擲のタイミングが一瞬遅れた――避ける猶予が生まれた。

 視界が奪われた――ナノレイヤーのダウン。センサーのダウン――恐らく原因は同じ。

「EMP……!」

 歯を噛み鳴らした。

「できれば使いたくなかったのですがね。ここのコンピュータまでダメになりかねませんので。かつての剣豪は目をつぶっていても相手を斬り伏せることができたといいますが、それに比べると、まだまだですねえ」

 煽流の手首から、デバイスが覗いていた――接近戦用のEMP発生装置。クランの装備にもある程度のEMP防御措置は施されているが、一瞬ダウンするのは避けられなかった。それほどの威力。千早重工後方処理課の特別製。

「テメエ……ぶっ壊す!」

 拳銃を引き抜いて撃った。捉えることはできなかった。まだ火器管制システムが完全に復帰していない。目視での照準しかない。ジローがなにかを叫んでいる――耳に入らない。煽流が天井に向かって跳躍した。クランの背中に回り込んで、ワイヤーで斬りつけようとしている。左腕のミサイルを煽流に向けた。今ならワイヤーを使った回避運動は取れない。確実に命中させられる――。

 横から強烈な衝撃に襲われた。背中から地面に叩き付けられた。ジローがクランにタックルをかけた。

「ジロー、邪魔するな!!」

「もういいだろう!? データは取れた、逃げる!」

 クランをかばいながらジローが地面を転がった。真横の床が切れた。

「アイツをほったらかしにして逃げろってのか!?」

「敵は彼だけじゃない! 僕らだけで千早の追撃を振り切れるかわからない!」

「痴話喧嘩ならよそでやっていただけませんか……ね!」

 煽流が腕を振った。ワイヤーが空気を切り裂く音が聞こえる。何かが振動する音――モーターの振動音。ポケットロンのバイブレーション。煽流の意識が一瞬、それた。その隙に離脱した。ジローと反対方向に。視線の先、リサが手のひらを煽流に向けていた――ポケットロンを一瞬ハッキングした。

「逃げよう、早く! 中央制御室はそんなにごまかせない!」

 リサが叫ぶ。ジローが出口に向かってダッシュした。クランも続いた。扉の前で一瞬足を止め、振り返った。煽流――動かずに立っている。視線――ミラーシェードに隠されてわからない。しかし、興味や嘲り以外の感情が覗いている気がした。

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