第10節「まさかとは思うけど、君は情報を漏らしていないかい?」
※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.
※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。
※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。
深夜2時。千早アーコロジー・荷捌所。地下に設置された、エントランスとは隔離された場所。資材の搬入・搬出を行う車両は全てここを通過する決まりになっている。日中に比べれば少ないものの、車の出入りは続いていた。
徐行運転で荷捌所に入った。交通誘導員が誘導灯を地面に対して水平にした。それを合図に、ジローがトラックを止めた。氏名と業者名――全て偽名――を告げると、物流管理センターの受付に案内された。クラン、リサ、ジロー――偽のIDを持っている。汚いやり方で手に入れた。顔も変装して別人に変えてある。
係員が手元のデータとクラン達のIDを照合する。顔写真を見比べる――変化はない。
「先日登録された方ですね。お待たせしました。それにしても、こんな夜遅くにご苦労様です」
「夜明け前から食材の仕込みに入るもので」
ジローがよどみなく答えた。
「次は荷物ですね。そこの検査機をお通しください。皆さんも」
検査機――金属だけでなく薬物・爆発物反応も検出できる多用途タイプ。バンの荷台を開けた。コンテナがベルトコンベアに乗った。コンテナの中には食材と一緒に、仕事の道具――武器や衣装が隠してある。検査機を通過する――チャイムの音がして、緑のランプが灯る。クラン達も検査機をくぐった――オール・グリーン。
これでアーコロジーに入れる。エレベータに向けて歩き始めた――声がかかった。
「あ、ちょっと待ってください。念のため、もう一つ検査を」
奥から別の係員が現れた。傍らに黒い生き物――犬?
「あら、かわいい。ワンちゃんがいるなんて意外」
リサが軽口を叩いた――緊張を悟られないためのはったり。係員が連れてきた犬――恐らくはドーベルマン。ニューロエイジでは生き物を飼うのもべらぼうな金がかかる。愛玩目的なら普通はペットロイドを飼う。にもかかわらず本物の動物がいる――それだけ厳重な警備を敷いている。
「この間、ルテチアアーコロジーで爆発物騒ぎがあったもので。期間限定で警備を強化しているんですよ」
(しくじった。あまりにマイナーだからノーマークだった)
ジローからメッセージが飛んできた――神経が細すぎる。
(ばれたら逃げるしかない。度胸を据えろ)
返信した。犬がクラン達に鼻を近づけてきた――身じろぎせず待った。クラン達には反応を示さなかった。次に、コンテナ。周りを歩き、鼻をひくつかせる。三人の視線が犬に注がれる――。
「お待たせしました。お通りください」
係員が帽子を取ってお辞儀した。
「ご苦労様」
リサも笑いかけて会釈した。犬にも手を振っていった。リサの笑顔があれば、大抵の男は魅了されずに済まない。クランやジローのことなど頭の中から消える。
エレベーターから降りて、割り当てられた控え室に入った。コンテナを開けた。クランの衣装、リサのデバイス、ジローの強化外骨格。銃器や弾薬――食用油を満たしたドラム缶の中に、密封して入れてある。
「油と密封容器のおかげで火薬の臭いが通らなかったみたいだ。犬の嗅覚は鋭いから、見つからないかどうか不安だったよ」
ジローが安堵のため息をついた。そしてクランに向き直った。
「クラン――まさかとは思うけど、君は情報を漏らしていないかい?」
「何が言いたい?」
「このご時世、ご丁寧に犬を使って警備するところなんてない。タイミングが良すぎる」
ジロー――不安と恐怖が表情に満ちている。そして、クランへの憎悪に満ちている。
「落ち着いて考えろよ。そんなことをして、アタシに何の得があるんだ?」
諭すように言ってやった。
「君はあの男さえ壊せればいい。僕達を利用するだけ利用して、千早に捕らえさせて、後はフリーハンドに――」
「馬鹿言うなよ。お前らを千早に売っても、何も買えやしねえよ」
リサに目配せした――アタシだけでは説得できない、加勢しろ。
「アンタって普段抜けてるくせに、こんな時だけは疑り深いんだよね」
リサの言葉は容赦なく弾丸となって、ジローの胸を貫いた。クランをにらみつけていたジローの視線が力を失った。
「すまない、許してくれ、リサ、クラン。ちゃんと仕事をする。どうかしていた、僕は臆病だからね」
「わかってくれりゃいいんだ。さっさと仕事しておさらばしようじゃないか」
空中分解の危機――乗り切った。しかし安心はできない。リサ――まだ計算尽くで動いている。ジロー――恐怖に負けて疑心暗鬼にとらわれる危険がある。急がなければならない――リサを利用してジローを制御できているうちに。
装備を整えた。動作を確認した。深夜2時になった。リサとジローを見た――準備を終えていた。呼びかけた。
「行くぞ」
控え室から廊下に出た。暗い――足元の非常灯がついているだけ。建物のほとんどが消灯されている。肌に塗ったレイヤーと衣装の熱光学迷彩を起動した。眼部のナノレイヤーを赤外線暗視モードに切り替えた。頭部のセンサーをパッシブソナーモードにした――逆探知で位置を暴露するのを避けるためだ。エレベータールームまでの道のり――無人。足音を立てないよう、慎重に進んだ。姿勢を低くし、小幅で歩く。リサとジローもついてくる。同じように熱光学迷彩を起動している。
設置されているはずのセンサーや警備システム――沈黙している。リサが電子迷彩でごまかしている。エレベーターホールにたどり着いた。ボタンを押して、エレベーターを呼び出した。到着を示すランプが点滅して、扉が開いた。中には誰もいない。乗り込んだ。扉を閉じた。
コンソールに触れる前に、手の形を変化させた――リサが情報を引き出した千早の重役。リサの持ち帰った髪の毛から、遺伝子情報をコピーした。コンソールに触れた。エレベーターが上昇を始めた。身体に重力を感じた――急加速。フロアを示すインジケータの数字が急速に増えていく。重力が消えた――急減速。インジケータの数字の増加が緩やかになった――空白になって止まった。扉が開いた。
エレベーターを降りた。目の前に扉。もう一度、コンソールに手を触れた。扉が開いた。目の前に二枚目の扉。今度は網膜――手の形を元に戻して、網膜をコピーした情報どおりに変化させた。エアロックが外れる音がした。目の前に、無数の柱が立ち並ぶ空間が現れた――柱の一つ一つがコンピュータ。
室内の照明――非常灯がついているだけ。作業している人間――いない。
「まとめて壊すのかい?」
ジローの問いかけ――首を振った。弾薬――足りない。殴って回る――時間がかかりすぎる。
「やっぱり、データをピンポイントで壊すしかないみたいね」
リサの言葉にうなずいた。柱の中、腰辺りの高さまであるコンソールが見える。まずはリサをあそこまで送り届けなければならない。




