第9節「もし……もしだよ?」
※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.
※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。
※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。
ビジネスホテルの一室。準備を整えた。銃の作動。ジャミングを起こさないよう、入念に手入れした。予備の弾丸。持てるだけの弾丸を持っていく。左腕と右足に仕込んだミサイル。背中のグレネードランチャー。レーザー発射機――全て照準と動作を確認した。ブーツに仕込んだナイフ――瞬時に飛び出した。ヘッドセットのセンサー――レーダー、アクティブソナー、パッシブソナー、全て正常。
ポケットロンに着信――ジロー。思考トリガーで着信を受けた。ヘッドセットから声が聞こえてくる。
「何かまずいことでもあったか?」
「いや、準備は順調だよ。それより、相談したいことがあってね」
「何だ?」
「リサの仕事がこれでだめにならないかなって」
こんな時に何を考えているのか――言葉を飲み込んで、返した。
「この仕事が終わればそれなりの報酬が出る。その金を元手にして一緒に暮らせるさ」
電話の向こう、ジローが息を呑むのが伝わってきた。ジローはリサのことを何もわかっていない。あの女が、田舎で慎ましく暮らす道を選ぶわけがない。しかし、それをジローに告げる気はなかった――今はいい気にさせておいて利用する。
「時間になったら迎えに行く。例の場所で待っててくれ」
電話が切れた。数分もしないうちに別の着信――リサ。
「何かまずいことでもあったか?」
「そうじゃないけどさ」
棘のある口調だった。
「アンタの無理難題のおかげで、ウェットシティの仕事にずいぶん穴開けちゃったんだよね」
「馬鹿言うなよ。命じたのはアタシじゃない、イワサキだろ?」
「実際に作戦考えて仕事振ったのはアンタ。つまりプロジェクトリーダー。経費上乗せして欲しいんですけど?」
予算と報酬を決めるのもお前だろう。言うこと聞かないならこの件から降りる――リサの言葉の意味。お笑い草だった。イワサキ本社にねじこむ根性がないから、籠絡できるコネもないから、クランを脅しつけているのだろう。クランもリサを利用する必要がある。今は。
「ごたごたの後始末は本社がやってくれるとしても、しばらくは隠れてなきゃいけないだろうし」
「そうは言っても、千早のコネを全部なくす心配はないんだろ?」
「でしょうね。アイツが会社に泣きついたら、それこそハニートラップに引っかかったと白状するようなものだもの」
「わかった。それは休業補償ってことで持ってやる。用事はそれだけか?」
「もう一つあるの」
リサの声が真剣な響きを帯びた。
「いくらなんでも、おかしいと思ったんだ。千早の本社に、私達だけを突っ込ませるなんて」
「アタシらが捨て駒だからだろ?」
かまをかけた。
「お見通しってわけね」
「千早に追及されても何のことだととぼけられる。一切関わっていないと押し通せば済む。違うか?」
「それはその通り。でも、それだけじゃ弱い」
「弱い? 何が?」
「こう言っちゃ何だけど、アンタも私もジローもそれなりに強い。こういう人間を育てたり、探してきたりするのにどれだけ手間がかかると思う? それを使い捨てにできる?」
「メガコーポってのはそういうところじゃないのか?」
煽流の言葉が脳裏に浮かぶ――“代えの利かないものなど存在しない”。
「間違ってないけど、半分しか正しくない。まともなエグゼクなら、人材の補充がそう簡単にできないこともわかってる」
リサの言葉――何かをクランに悟らせたいようだった。頭に浮かびかけた――一つの可能性。本能が拒絶する。それでも、先を聞かずにいられなかった。
「何が言いたい?」
「もし……もしだよ? 初めからそういう人間を作れるんだとしたら?」
リサの声が心なしか震えている気がした。クランの鼓動が早くなっていた。呼吸を整えて、答えた。
「推理はいいが、決定的な証拠はないんだろう?」
「わかってる」
「だったら目の前の仕事に集中しろ。いい暮らしをしたいんだろう?」
「そのためにも、アンタにはきっちり仕事してもらうからね」
「お互い様だ」
通信が切れた。考えた。リサの推理――恐らくは真相に近づいている。鍵――例のデータ。証拠を揃えてオユンを問いただせば、口を割る。
煽流の言葉が脳裏で繰り返す――血が逆流した。ベッドに右の拳を叩き付けた。
「アタシは、必ず、アイツを――壊す!」
気づかぬうちに、クランの口から独り言が漏れ出していた。




