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赫らの紅  作者: 紀伊・千尋(きいの・ちひろ)
第4章 死地での再戦
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第9節「もし……もしだよ?」

※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.

※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。

※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。


 ビジネスホテルの一室。準備を整えた。銃の作動。ジャミングを起こさないよう、入念に手入れした。予備の弾丸。持てるだけの弾丸を持っていく。左腕と右足に仕込んだミサイル。背中のグレネードランチャー。レーザー発射機――全て照準と動作を確認した。ブーツに仕込んだナイフ――瞬時に飛び出した。ヘッドセットのセンサー――レーダー、アクティブソナー、パッシブソナー、全て正常。

 ポケットロンに着信――ジロー。思考トリガーで着信を受けた。ヘッドセットから声が聞こえてくる。

「何かまずいことでもあったか?」

「いや、準備は順調だよ。それより、相談したいことがあってね」

「何だ?」

「リサの仕事がこれでだめにならないかなって」

 こんな時に何を考えているのか――言葉を飲み込んで、返した。

「この仕事が終わればそれなりの報酬が出る。その金を元手にして一緒に暮らせるさ」

 電話の向こう、ジローが息を呑むのが伝わってきた。ジローはリサのことを何もわかっていない。あの女が、田舎で慎ましく暮らす道を選ぶわけがない。しかし、それをジローに告げる気はなかった――今はいい気にさせておいて利用する。

「時間になったら迎えに行く。例の場所で待っててくれ」

 電話が切れた。数分もしないうちに別の着信――リサ。

「何かまずいことでもあったか?」

「そうじゃないけどさ」

 棘のある口調だった。

「アンタの無理難題のおかげで、ウェットシティの仕事にずいぶん穴開けちゃったんだよね」

「馬鹿言うなよ。命じたのはアタシじゃない、イワサキだろ?」

「実際に作戦考えて仕事振ったのはアンタ。つまりプロジェクトリーダー。経費上乗せして欲しいんですけど?」

 予算と報酬を決めるのもお前だろう。言うこと聞かないならこの件から降りる――リサの言葉の意味。お笑い草だった。イワサキ本社にねじこむ根性がないから、籠絡できるコネもないから、クランを脅しつけているのだろう。クランもリサを利用する必要がある。今は。

「ごたごたの後始末は本社がやってくれるとしても、しばらくは隠れてなきゃいけないだろうし」

「そうは言っても、千早のコネを全部なくす心配はないんだろ?」

「でしょうね。アイツが会社に泣きついたら、それこそハニートラップに引っかかったと白状するようなものだもの」

「わかった。それは休業補償ってことで持ってやる。用事はそれだけか?」

「もう一つあるの」

 リサの声が真剣な響きを帯びた。

「いくらなんでも、おかしいと思ったんだ。千早の本社に、私達だけを突っ込ませるなんて」

「アタシらが捨て駒だからだろ?」

 かまをかけた。

「お見通しってわけね」

「千早に追及されても何のことだととぼけられる。一切関わっていないと押し通せば済む。違うか?」

「それはその通り。でも、それだけじゃ弱い」

「弱い? 何が?」

「こう言っちゃ何だけど、アンタも私もジローもそれなりに強い。こういう人間を育てたり、探してきたりするのにどれだけ手間がかかると思う? それを使い捨てにできる?」

「メガコーポってのはそういうところじゃないのか?」

 煽流の言葉が脳裏に浮かぶ――“代えの利かないものなど存在しない”。

「間違ってないけど、半分しか正しくない。まともなエグゼクなら、人材の補充がそう簡単にできないこともわかってる」

 リサの言葉――何かをクランに悟らせたいようだった。頭に浮かびかけた――一つの可能性。本能が拒絶する。それでも、先を聞かずにいられなかった。

「何が言いたい?」

「もし……もしだよ? 初めからそういう人間を作れるんだとしたら?」

 リサの声が心なしか震えている気がした。クランの鼓動が早くなっていた。呼吸を整えて、答えた。

「推理はいいが、決定的な証拠はないんだろう?」

「わかってる」

「だったら目の前の仕事に集中しろ。いい暮らしをしたいんだろう?」

「そのためにも、アンタにはきっちり仕事してもらうからね」

「お互い様だ」

 通信が切れた。考えた。リサの推理――恐らくは真相に近づいている。鍵――例のデータ。証拠を揃えてオユンを問いただせば、口を割る。

 煽流の言葉が脳裏で繰り返す――血が逆流した。ベッドに右の拳を叩き付けた。

「アタシは、必ず、アイツを――壊す!」

 気づかぬうちに、クランの口から独り言が漏れ出していた。

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