第6節「できるかできないか、どっちだ?」
※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.
※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。
※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。
一度ジローやリサと別れた。ホテルは次の朝まで取ってある。
ベッドの縁に腰掛けながら、思い出した――煽流。これまで戦ってきた時のこと。
奴の言葉が甦る――代えの利かないものなど存在しない。血が煮えたぎり、視界の隅に赤いものが現れる――頭を振って振り払った。分析が先だ。
煽流の武器――単分子ワイヤ。鋭利な切れ味。非常に細く視認が困難。壁に引っかけたり巻き取ったりして、空中を滑るように移動した――強度にも優れる。
煽流の長所はそれだけではない――機敏な動き。クランの攻撃は全て回避された。動きに翻弄され、懐に入られた。
勝機――左腕を拘束された時。クランの動きを封じるのと引き換えに、単分子ワイヤが使えなくなっていた。
課題――単分子ワイヤの攻撃を封じる。
方法――破壊するか、使用不能にする。破壊――恐らく不可能。ワイヤーを構成する単分子――最も硬い物質。使用不能――現実味がある。ワイヤーを何らかの方法で拘束すること。
課題――煽流に攻撃を命中させる。
方法――煽流が移動するより高速で攻撃を当てる――銃弾では不十分。点ではなく面で攻撃する――散弾では不十分。回避不能な距離まで接近する――困難だが必須条件。
今度の戦場――アーコロジー内部。データセンター。密閉された空間。恐らくは障害物も多い――ワイヤーを引っかけるところが豊富にある。視界は利かない、センサーも役に立たない――煽流に有利な条件。
もう一つの課題――煽流に有利な条件を与えない。
疑問――単分子がそれほど優れているなら、なぜ他の武器や防具に使われない? なぜワイヤーの使い手が少ない?
推論――加工が困難。現在の技術では糸状にするしか方法がない。コストが高い。莫大な費用がかかる。操作が困難、危険が大きい。高度な技術がなければ自分を傷つける。
クランの考えは仮説に過ぎない――正しさを確かめたい。わかりそうな相手――アーガスなら心当たりがあるだろう。しかしあえてジローに尋ねることにした。物の加工に長けたジローなら、何かを知っているかも知れない。ジローの電話番号を押した。
「はい?」
「アタシだ」
「何の用だい?」
「単分子ワイヤーについて聞きたいことがある」
話した――情報と推論、仮説。
「だいたい正しいと思う」
一通り話したところで、返事があった。ジローはさらに付け加えた。
「下手に使えば自分を傷つけてしまう。それに、単分子より硬い物質は今のところ見つかっていない。だから、単分子ワイヤーを防げる防具は、実用的なレベルでは存在しない」
「じゃあ、単分子ワイヤーは絶対切れないのか?」
「そんなことはない」
頭の中で明かりが灯る感覚があった。黙って先を促した。
「分子間結合を切られれば、どんな物質も切れる。単分子ワイヤーも単分子を加工して糸状に仕上げてる。加工ができるなら、切断することも可能だ」
「どうやって加工してるんだ?」
「高い衝撃を加えて、高速で剪断する。またはレーザーを使う。ただし、どれも大型の機械を使わないと無理だろう」
頭の中の光が像を結び始めた。
「小さくできるか?」
「趣味で工作に使う程度でいいなら……」
「そんなことを聞いてるんじゃねえ。持ち運べるかどうかだ」
「……僕に何をさせたいんだ」
「わかってるなら話が早いじゃねえか」
「僕だけじゃ無理だ。リサにもいろいろ計算してもらわないと」
「アイツを放っておいて、お前達だけ無事に帰れる保証はないよな?」
「……わかったよ」
「リサにはよく言っておいてくれ」
電話を切った。
時間を空けて、ジローの部屋に集まった。リサ――先に来ていた。クランが座ると同時に、口を開いた。
「無理」
「僕からだいたいのことは説明した」
ジローが言葉を補った。
「理由を聞かせろ」
「ワイヤーを切ろうと思ったら、数秒はレーザーを当て続けないと行けない。次に、レーザーは大気中ではすぐに威力が衰える。大気中でワイヤーを切ろうと思ったら大出力と大電力が必要」
空中にホログラムが投影された。数式と数字。ゼロがいくつも並んでいる――必要電力とレーザー出力。
「そんな機械や蓄電池、どこを探してもないでしょ」
「誰が買うって言った?」
リサとジロー――驚きと非難の入り交じった視線がクランに注がれた。
「作るんだよ」
「な……!?」
ジローの顔が驚愕に彩られた。
「機械いじりは得意じゃなかったのか?」
「大きさはどのくらいだい? そんなに大きな機械は持ち込めないだろう」
具体的な質問――不可能ではないという合図。
「このくらいだ」
両方の手のひらで、自分の顔より一回り小さいくらいの円を作った。それを自分の腹部に当てた。
「両手は空けておきたい」
「そんなに小さくしたら機械が保たないよ」
「一、二発撃てればいい」
「電力はどうするんだい」
「アーコロジーからもらう」
「非接触式充電か」
ジローの言葉にうなずいた。
「できるかできないか、どっちだ?」
ジロー――膝の上で拳を握り、しばらく考えていた。やがて噛みしめるように、言った。
「……できる」
「どんな風に作る?」
「少し待ってくれ。設計図を書くよ」
ジローがジャケットのポケットからタブレットとペン型の入力装置を取り出した――使い込まれているのがわかる。
「僕は臆病だからね。せっかく思いついたアイデアを忘れたくないんだ」
数十分で、ジローがスケッチを描き上げた。
「大まかな概念図だけど、少なくとも今から言うものがいる。照射用のレンズ。レーザーを発生させる装置。励起用の気体を充填する容器と、点火器のセットだ。電源として、磁界を発生させる回路。それに、出力を無理矢理増強するわけだから、電力を一時的に貯めるコンデンサが必要だ。かなりの輻射熱が出るから、遮断するためのコーティング。それらをまとめて納めるケーシング」
やはり、ジローは天才的なタタラだ。
「それを設計図にできるか」
「急いでやるよ。資材の手配もあるし、もう一つの仕事もあるしね」
「設計図ができたら送ってくれ。資材はこっちで揃える」
「アンタが? あの情報屋に頼むの?」
「ジローにはいろいろやってもらわなきゃいけないことがある」
もう一つの理由は、資材を調達するときに細工をされないため――口には出さなかった。
「リサは、ジローを潜り込ませる算段が付いたら知らせろ。明日の朝、チェックアウトしたら一度解散だ」
「アンタはどうするの?」
「アタシも準備するさ」
煽流を壊すためには、まだ考えなければならないことがある。




