第5節「それだけあれば十分だ」
※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.
※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。
※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。
「下見をするとしても、大きな問題が一つある」
「アタシらは顔を知られてる、だろ?」
ジローにそう答えた。
「化けりゃいいじゃねえか、顔を知られていない人間に」
変装――その言葉を口にしたとき、ジローの表情に変化が生じた――困惑。拒絶。理屈ではない。恐らくは本能的なレベル――なぜそこまで嫌がる?
思い出した。クランが身体を変化させること、身体の一部を機械に置き換えること――それらへの拒絶反応。似ている。
疑問――なぜクランは、ジローは、自分が自分であることにそこまで固執するのか?
推論――それを解く鍵も、クランがこれから探す情報の中にある。
「今から千早の社員になるのかい?」
「いや、仕入れ業者か雇われシェフにでも化けろ。リサ、お前の客に千早の役員はいるか?」
「いるけど、それが?」
「ジローを化けさせて、うまいケータリング業者かシェフがあると言って紹介しろ。取引ができるようになればIDがもらえるだろ」
「君はどうするんだ」
ジローが問いかけてきた。
「アタシは熱光学迷彩やレイヤーを使って隠れる。中まで入れればなんとかなる。それに、変装したら武器を持ち込めないだろ?」
「アンタまさか、アーコロジーの中でドンパチやるつもり!?」
リサが思わず身を乗り出した。
「豆鉄砲だけでどうにかできるほど、連中は甘くない」
裏路地の時は発砲が制限されていたから格闘だけで対処できた。今度はそうは行かない。完全武装で待ち構えていると考えなければならない。
「ぎりぎりまでぶっ放すのは避けるけどな。聞かれたくない、見られたくない物を入れてるんだから防音も完璧だろ?」
「わかったよ」
リサがため息をついて呟いた。ジローも観念したように首を振った。
リサとジロー――命を投げ出してでも事に当たろうという気はない。愛情だとか友情だとか、三人を結びつけるつながりもない。それが、三人の限界だ。だが仕事はそんな人間とでも組んでやらなければならない。
「決まったな。細かい段取りは任せる。そのくらい自分で考えられるだろ」
二人を見張っている余裕はない。クランにも考え、準備しなければいけないことがある。それは相手も同じで、クランを見張っている余裕はないはずだ。
「で、アンタはどうするの?」
リサの視線が飛んできた。言われなくてもわかった――煽流をどうやって倒す?
「アイツはアンタがどうにかしてくれるんだよね?」
「当たり前だ」
鮫のように笑った。
「最後の問題だ、脱出の方法はどうする?」
ジローが議題を切り替えた。考えた――脱出は困難。
エレベーター――恐らく止められる。地下駐車場、ヘリポート――警戒されている。正面エントランス――目立ちすぎる。
クラン一人なら、熱光学迷彩やジャミングを使い、脱出できる。しかし、ジローとリサが一緒だ。機動性は落ちる。発見されるリスクも上がる。代案――ジローとリサがいなければできないことを考える。
リサに疑問をぶつけた。見聞きしたことを話した。
「アーコロジーのゴミ処理はどうなってる?」
「たぶんダストシュートだと思う」
リサが腕時計に呼びかけた――検索結果がホログラムに投影された。ゴミの分別と搬送を一度に行える機械。ダストシュートに投入されたゴミは垂直のチューブを落ちていき、地下に設置されたコンベアを伝って、処理室に搬送される。処理室で自動的に仕分けられ、貯留され、処理機にかけられ、ゴミ収集車に載せられる。チューブには絶えず下から空気が送り込まれ、ゴミが軟着陸するようになっている。
「チューブが詰まったときはどうなる?」
「上からバラストを落として無理矢理取り除くようにしてるみたいね。チューブの中はつるつるだから、人が入って作業するようにはできてない」
「チューブの直径は?」
「そんなに大きくないけど、このサイズの建物なら人一人がぎりぎり通れるくらいはあるんじゃないかな。チューブが細いと詰まりやすいし、太い方が効率よくゴミを捨てられるからね」
ゴミ処理の工程は完全に自動化されているだろう。
「リサ、機械をジャミングやハッキングでごまかせるか」
「やってやれないことはないけど、ずっとは無理だよ」
「どのくらいならできる?」
「10分ってとこかな」
「それだけあれば十分だ」
脱出の算段が付いた。




