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赫らの紅  作者: 紀伊・千尋(きいの・ちひろ)
第4章 死地での再戦
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第4節「アタシらはそれに賭けるしかない」

※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.

※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。

※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。


 カフェに集まる時刻だった。ここまでリサとジローからの連絡はなかった――異常なし。決めた時間以外の連絡はまずいことがあったという印。カフェに向かうと、リサがタブレットを広げていた。コーヒーを注文して、受け取ってリサの隣に座った。

「どうだ?」

「さすがに堅いね」

 それだけで意味はわかった。

 遅れてジローも現れた。

「僕もいろいろ見つけたよ。クランは?」

 これ以上は機密性の高い話になる。密閉された場所が必要だ。

「場所を移そう」

「まだコーヒーが残ってるんだけど」

「好きにしろ」

 不服そうにしているリサを適当にあしらって、残りのコーヒーを飲み干した。

「車を出してくれ。リサはアーコロジーの前から乗る。アタシはそこら辺を歩くから、拾ってくれ」

「場所は?」

「後で知らせる」

 カップを返却口に返してカフェを出た。


 アーコロジーを出てしばらく歩いた。リニアの出入り口に差し掛かったところで、ポケットロンから地図アプリを呼び出した。現在地をポイント、ジローへのメッセージに添付した。ジローから返事。

「そこで待っていてくれ。すぐ行く」

 3分もしないうちに、大通りの向こうからジローの車が近づいてきた。歩道に寄せてきたところで、後部ドアを開けて乗り込んだ。

「ジローは何を見つけた?」

「地下駐車場に入った。そうしたら、荷物を一ヶ所にまとめているところがあったんだ。外から来たトラックや荷物をいったんまとめて、入り口で仕分けして各フロアに届けているみたいだった」

 極力社外の人間を中に入れたくないのだろう。

「だとすると、奥の方に荷物専用エレベーターがあるな」

「だろうね。荷物の流れと人の流れは分けた方が混乱が少ないだろう」

 荷物専用エレベーターをうまく使えたら、千早の人間と鉢合わせせずに忍び込めるかもしれない。

「リサは?」

「さすがは千早の本社だね、セキュリティめちゃくちゃ堅いよ。見つからないようにソフト走らせるのも大変だった」

 リサの腕時計から、空中にホログラムが投影された。社内ネットワークのつながりを示した図面。

「苦労したんだよ。中央制御室の場所がどこかを突き止めるのは特にね」

「中央制御室?」

「アーコロジーの心臓だよ。電気や空調が動いてるか、火事や水漏れが起きてないか、怪しい奴がいないか、全部見張ってる」

 荷物専用エレベーターも見張られていると考えなければならない。

 図面を眺めた。オフィス、会議室、社長室――奇妙な暗闇があるのに気付いた。

「これは?」

「そこはネット越しに見られなかった」

 ネットとつながっていない――セルゲイの時と同じ。見られたくないものを入れておく場所。

「クランはどうだったの?」

 もったいぶってないで話せ――リサが視線でそう言っていた。

「別にもったいぶるつもりはねえよ」

 自分が見聞きしたことを話した。リサ――顎に拳を当てて考え込んでいた。クランの話を聞き終えて、口を開いた。

「なるほどね。ネットから隔離された空間がある。普段使わないフロアがある。ネットから隔離された空間は、普段使わないフロアの中にある。普段使わない場所なら、人目につく恐れもない」

「セルゲイの時と同じだね」

「“災厄”の前からスーパーコンピュータはネットにつながないことになってる。今もそう。下手につないで覗かれたり乗っ取られたりしたら困るから。だけど、社内のネットワークにもつないでないなんて、よっぽど見られたくないってことでしょ」

「そうなると、違法な研究ってことか」

 ジローの言葉にうなずいた。セルゲイと河本の研究――ユウタを拉致した。クランのクローンを作っていた。まともな研究ではなさそうだ。

「それなら、千早の一般社員が近くにいる可能性は低いだろう」

「その代わり、後方処理課の人間が大勢お待ちかねだろうけど」

 その中にいる――大上・煽流も。

 次の戦場――密閉されたアーコロジーのフロア。

 課題――煽流を壊す方法。

「だけど、まだ問題がある」

 ジローの言わんとしていることはわかった。目標の見当はついた。しかしデータがそこにあるという確証はない。

「千早重工ほどの会社ならデータセンターも複数作っているだろう。アーコロジーに置いてあったら人目に付くリスクも上がる」

「どうかな? それって?」

 ジローに異議を唱えたのはリサだ。

「データセンターなら関係者以外立ち入り禁止だから、アーコロジーの中だろうと外だろうと無関係の人間に見られることは少ないんじゃないの? それに、違法なデータなら手元に置いておきたいだろうし。まずいことになったらすぐに消せるから」

「そういう意味でもアーコロジーに置くのは一理ある、か」

 ジローが相づちを打った。

 リサの推理にも一理ある。仮定を重ねた強引な理屈かも知れない。しかしとりあえず線がつながった。リサにうなずいた――肯定の合図。

「千早のデータセンターをしらみつぶしにするのは無理だ。アタシらはそれに賭けるしかない」

 セルゲイの時にやったことを何度も繰り返さなければならない。その間に気づかれる。

「次の問題は、アーコロジーにどうやって入るかだ」

 クランが問題を提起した。

「データセンターならセキュリティは厳重。生体認証、ID認証。迷路のような構造。そして、人の目による警備。私もデータセンターには入ったことないから、一般論なんだけどね」

 リサが答えた。千早のアーコロジーなら、最低でもデータセンターの標準的な警備システムは備えている。これらを全部突破して、データのありかにたどり着き、破壊して、煽流を壊して、脱出する。

 問題――それを可能にする方法。

「何か騒ぎを起こすのはどうかな? 混乱に乗じてクランが潜入すれば――」

 ジローの言葉に首を振った。「その手は通じねえよ」

「どうしてだい?」

「連中は心の準備ができてる」

 思い返した。路地でクランを追ってきた千早の工作員達。何人倒されても、動揺を見せず突っ込んできた。倒れるときも、声一つあげなかった。訓練されている――何かあっても混乱は起こさないし、警戒を緩めることもない。

「それならちょっとの騒ぎじゃ無理か……」

 ジローは諦めたように呟いた。高みの見物をしようとしてもそうは行かない。

「それに、場所の見当はついても道順がわかってるわけじゃない。壁の内側は無理でも、門の前までの道順は知っとかないと、話にならねえよ」

 リサとジローがうなずいた。

 必要なもの――より詳細な内部の情報。

 課題――内部の情報の入手。

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