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赫らの紅  作者: 紀伊・千尋(きいの・ちひろ)
第4章 死地での再戦
34/57

第3節「わからん。だが、どこかに必ず隠れているよ」

※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.

※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。

※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。


 役割分担を決めた。

 リサ――アーコロジー内部のカフェからシステムに侵入、ニューロの警備体制を調べ、ハッキングの隙を窺う。

 ジロー――地下駐車場に車を乗り入れて、トラックなどの出入りの様子を探る。

 クラン――アーコロジーを自分の目で見て回る。

 三人別々にアーコロジーに入ると決めて、リサとジローを自分の部屋に帰した。ポケットロンを取り出した。数回呼び出し音が鳴って、アーガスの声が聞こえてきた。

「俺だ」

「アタシだ」

「ずいぶんご無沙汰だったじゃないか」

「何かと縛られ通しでな」

「あの二人か」

 アーガスの言葉に納得した。クランを監視するために送り込まれたかどうかに関係なく、ともに行動するだけで、クランの時間は大きく拘束される。

「仕事がどんどん大きくなってきてな。嫌々、持ちつ持たれつでやってるってわけだ」

「お前さんの口からそんな言葉が出るとは意外だな」

 他に言葉が思いつかなかった。

「千早はセルゲイから何かを受け取ったらしい。それを破壊しろと言われた」

「そいつは無理難題だな」

「もしあの二人がもし裏切るような真似をしたら、殺し屋を差し向けてくれ」

 アーガスほどの情報屋なら、金で殺しを請け負う人間の一人や二人は知っているだろう。

「用件はそれだけか?」

 この件で、アーガスに保険をかける以上の頼み事をするつもりはなかった。腹の底では何を考えているかわからない――全面的に信用するのは危険すぎる。それに、今までに貸しを作りすぎている。しかし――。

「煽流について何か知らないか?」

「わからん。だが、どこかに必ず隠れているよ。見つからないことが仕事だからな」

「アタシが姿を現せば、食いついてくると思うか?」

「それはなんとも言えないな。あいつがお前さんにどれだけ興味を持っているかだろう」

 それで十分だった。

「わかった。じゃあな」

 電話を切った。


 朝になった。曜日は月曜日。シャワーを浴び、着替えてビュッフェに向かった。パンとサラダ、コーヒーを適当に取った。後ろから足音。振り返った。

「もう来てたの? 早いね」

 声の主――リサ。隣にジロー。

「接触はなるべく避けろと言っただろう」

「偶然、偶然」

 リサの声は心なしかうわずっていた。持っているトレー――様々な料理が盛り付けられていた。クランのものより多い。

「……こういうところで食事するのが、憧れだったのか?」

「まあね」

 予想どおりの答え。服の趣味から垣間見えていた。このホテル――部屋も食事もそれなりの値段。寝泊まりするには金がかかる。リサ――華やかな暮らしに憧れている。金を何より必要としている。

 ジローに目をやって表情を見た――平静。だが少しだけ、表情が曇った気がした。

「仕事を忘れるなよ」

 それだけ言って、二人と別の席で食事を取った。二人が見渡せるテーブルに座った。時々目をやって様子を確かめた。相変わらず益体もないことを話していた。他の誰かと連絡を取っている様子はなかった。クランがリサとジローに拘束されているのと同じように、二人もクランに拘束されている。そうそう好き勝手はできないはずだ。

 トレイと食器を片付けて、ロビーに降りた。タクシーを捕まえて、千早アーコロジーに向かった。一つ手前の交差点でタクシーを降りた。歩きながらアーコロジーの正面入り口を見張った。別のタクシーがやってきて、リサが降りてくるのが見えた。建物に入っていった。それを確かめて、クランもアーコロジーに入った。ジロー――手はずどおりなら、地下の駐車場に入ったはずだ。 

 煽流がいないか、周囲を見回した――姿はなかった。


 アーコロジーのエントランス――通勤のピークを過ぎていたが、人通りは多かった。スーツ姿――商談やセミナーで訪れた外部の者達。または、千早の社員。受付やコーヒーショップ、セキュリティーゲートが見える。美術館や展望台へ行くためのエレベーターがある。それ以外のエレベーター――セキュリティゲートの向こうにある。スーツ姿の男や女がゲートを通っていくのが見える。

 外来客用のエレベーターに乗った。途中までは吹き抜けになっている。フロアの様子が見渡せる。レストランなどの飲食店が入っているのが見える。展望台のフロアまで一度上がって、美術館や展望台を見て回った。今度は下へ向かうエレベーターに乗った――外来客用のルートは社員用のルートと完全に切り離されているようだった。

 3階でエレベーターを降りた。レストランの入っているフロアを見て回る――店から袋を手に提げた二人連れの男が出てきた。サイズはコーヒーや紅茶が入るくらい。何かを話していた。

「アプリでドローンを呼べば机まで届けてくれるのに、お前も物好きだな」

「ずっと机に座ってるばかりじゃ気晴らしにならなくて。それより、俺、気になってるんですよ」

「何が?」

「エレベーターに乗ってると、ある階と階の間だけ、間隔が長いんですよ」

「錯覚じゃないのか?」 

「俺も間違いだと思ったんです。でもどうしても気になって、タイマーで時間計ったんですよ。そしたら本当に長かったんです」

「秘密の研究所とか言いたいのか? 残念だけど、それはないよ」

「なんでですか?」

「アーコロジーみたいな高層ビルには、普段使わないフロアをあえて作ってるんだよ。地震や火事のときに避難したり、延焼を防いだりできるようにな。避難訓練やる時にでも説明があるんじゃないか?」

「うーん、そうかなあ? 俺もそういうフロアがあるってのは知ってますけど、それでもそこだけ長いって言うか……」

「お偉いさんなりの考えがあるんだろ。さ、仕事に戻ろうぜ」 

 何気ない会話――しかし、多くの情報が含まれている。

 見回せば、別の女性が空になったカップをゴミ箱に捨てている。ゴミ箱の下の扉が開いて、中からドローンが現れた。しばらくドローンの後をつけた。行く先にシャッターが見えてきた。ドローンが近づくとシャッターが開き、壁の向こうに消えると当時にシャッターが閉じた。

 推論――壁の向こうにゴミを集める場所がある。疑問――ゴミはどう処理している?

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