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赫らの紅  作者: 紀伊・千尋(きいの・ちひろ)
第4章 死地での再戦
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第2節「お前の泣き言を聞いている時間はない」

※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.

※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。

※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。


「千早がその情報をどうやって、どこに隠しているかがわからないってこと」

 建物の図面は手に入っても、どこに情報を隠しているかはわからない。セルゲイの時はコンピュータルームが一つだけだったので、まだ当たりをつけることができた。しかし千早アーコロジーならば似たような部屋がいくつもあるだろう。

「部屋を一つ一つノックして、聞いて回るわけにも行かないしね」

 ジローが軽口を叩いた――重圧から逃れようとするかのように。

「手がかりはある」クランが口を開いた。「後方処理課が出てきたってことは、それだけ重要なものだと思ってるってことだ。それに、表沙汰にできない、したくないってことでもある」

「そうなると、外の人間や一般の社員がアクセスできるとこには置いてないってこと、か」

 リサも同意見のようだった。

「それに、情報を壊した後、どうやって脱出するかも問題だ。脱出経路も考えないといけない」

 ジローが新たな問題点を提示した。

「荒事に強い人間も大勢いるだろうし。もっとも、そっちはクランとジローの仕事だけど」

「つまり、アタシらが考えなきゃいけないのは、アーコロジーに入って、情報の場所を探り当て、壊して、千早の連中を蹴散らして、脱出する。その方法だ」

 リサが頭を抱えて首を振った。

「考えれば考えるほど無理って気がするな」

「下を向くな。お前の泣き言を聞いている時間はない」

 叱りつけた。リサが不貞腐れたような顔をした――無視した。

「まあ、危険には背を向けるより向かい合った方が対処できるって言うしね」

 ジローの口から意外な言葉が出たような気がした。クランの考えを察したのか、ジローが言葉を継いだ。

「僕は臆病だからね。危険から逃げるだけでは生き残れないことも知ってるんだ」

 うなずいた。

「一度見に行こう」

「どこに?」

 なおも不服そうなリサに、言ってやった。

「アーコロジーだよ。他にどこがある?」

 実際にこの目で見なければわからないこともある。

「いつ行く?」

 ジローの問いかけ。

「平日の昼間」

「意外だな。夜にこっそり侵入するかと思ったんだけど」

 首を振った。

「夜は昼間に比べて警戒が厳重になる」

 下見の段階でリスクを冒したくなかった。それに、日中の警備体制も見ておきたいし、昼間であれば多くの場所に公然と入れる。

「だったら、服もそれらしくしないとね」

 リサの言葉にうなずいた。千早アーコロジーはオフィス街の真ん中にある。中の人間はクグツやエグゼクが主。行き交う人間もそれに近い。見て回るには、それらしい格好をして怪しまれないようにする必要があるだろう。あの辺りに行ったことはない。それらしい服装――リサなら知っている。

「それらしい服を売っている店の当てはあるな?」

 リサが当然だというように、手元のデバイスで情報を呼び出した――ブランドの名前、店の候補。日頃からこういう店を使っているのだろう。

「ヨコハマにも何件かあるよ。後で買い出しに行ってきたら?」

「わかった。できるだけ早く出発したいが、時間帯を分けて何回か偵察したい。かといっていちいちヨコハマに戻るのは面倒だ」

「それならホテルを取ろう。千早アーコロジーからは少し離れた場所がいいね」

 リサがいくつかの候補を提示した。

「駐車場があるホテルがいいな。僕の車で行こう」

 地下に駐車場があるホテルを選んだ。

「部屋とフロアは別々にするんだ。チェックインするときも時間を分ける。固まって動くのは偵察の時だけだ。予約も偽名を使え」

「後でやっとく」

 大体の話はまとまった。時計を見た。まだ正午になっていなかった。

「アタシは買い出しに行く。午後3時に駐車場に集合だ」

 言い残して、部屋に戻った。ラフな格好に着替えて、バッグやトランクに仕事用の道具を詰め込んだ。ホワイトエリアのホテル――何重にも検査される。銃器――赤外線やX線を吸い取る布にくるんだ。銃の形にくりぬいたウレタンシートにしまって、上から蓋をした。こうすると、傍目にはウレタンの一枚板に見える。それを二重底になっているバッグやトランクの底に隠した。偵察で使うことはないだろうが、保険だ。

 ヨコハマの街に繰り出して、ハンバーガーショップで軽い食事を取った。アパレルショップを回って、衣服を買い求めた。リサの提示したリストに従って回った。白のフラワースリーブTブラウス、黒のフレアースカートと黒のパンプス。ハンドバッグ。アクセサリー。同じ店で二つ以上の買い物をしなかった。かなりの金額になった。リサの趣味が垣間見えた。 

 アーコロジーに戻った。品物をバッグやトランクに詰めて、駐車場に向かった。リサとジローがやってきた。トランクルームに荷物を入れて、後部座席に座った。

「あら、アンタがそんな服着るなんて意外」

 乗り込むなり、助手席のリサが声をかけてきた。

「体の線が出る服は苦手なんだよ」

 リサ――サーキュラースカートとニットのトップス。ジロー――スーツ。これなら、ビジネス街を歩くクグツに見える。車の中で、レイヤーを髪に塗って黒く見えるようにした。目のレイヤーも黒くした。

 高速でN◎VA市街に向かい、高速を降りてから環状線を反時計回りに回ってホテルへ向かった。ホテルから少し離れたところで、車を降りた。日差しがいつもより少しだけきつかった。高層ビルの立ち並ぶ大通りを歩いてホテルに向かった。途中、それとなく辺りを見回した。煽流らしき人影は見えなかった。

 ホテルに着くと、フロントが声をかけてきた。偽名と偽造IDでチェックイン――怪しまれなかった。ホテルマンが荷物を持つと申し出てきた。預けた。そのまま部屋まで先導された。部屋にはダブルベッドと小さなテーブルやソファが置かれていて、灯りは間接照明だった。そして、広い。クランが普段寝泊まりしている部屋の二倍はありそうだった。

 時計を見た。そろそろリサとジローもチェックインしているはずだった――ポケットロンが鳴った。リサからの着信――チェックイン。部屋まで来るように言った。数分遅れてジローからの着信。同じ報告。同じ返事をした。

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