表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赫らの紅  作者: 紀伊・千尋(きいの・ちひろ)
第3章 孤独な共生
31/57

第15節「多すぎるんだよ。つじつまが合わないことが」

※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.

※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。

※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。


 診療所――クランが玄関に近づくと、扉からモーター音がした。ドアノブを手で押した――扉が開いた。中の様子――左腕を失って、転がり込んだときと変わらないように見えた。決して広くはない部屋の中に、分厚い扉で区切られた小部屋や、カーテンで仕切られた部屋が見える。小部屋の扉の向こうには、ガラス越しに大がかりな装置。カーテンで仕切られた部屋もベッドが3、4床は入りそうな広さがある。クランの手術もできた――診療所とはいえ、小さい病院並みの設備を備えている。

 視界の片隅にバイタルメーターがポップアップした――脈拍が上がっていた。

 病室のカーテンを、音がしないように慎重に、片目で覗ける分の隙間だけ空けた――奥のベッドの上に、ユウタが横たわっていた。寝息を立てていて、クランには気づかない様子だった。ユウタが寝返りを打った――カーテンを閉めた。脈拍がペースダウンし、気分が落ち着くのを感じた。

 診察室と書かれた部屋のドアをノックした。「アタシだ」と声をかけた。中から「入ってちょうだい」との声がして、ロックが外れる音がした。扉を押し開けて、入った。女医がスツールを差し出してきた。促されて、座った。

「これを見てくれる?」

 女医は手元のディスプレイに数枚の写真を写しだした。白黒の写真。不揃いな大きさの球体が画面中にちりばめられている。

「貴方の血液の写真。傷口から感染症にかからなかったか調べるために、ちょっと血を採らせてもらったわ」

「そこにウィルスや細菌が映ってるのか?」

 女医が首を振った。

「ここに映ってるのはほとんどが赤血球や白血球よ。感染症の形跡は認められなかったわ」

「ほとんど?」

 ポインターがある点を指し示した。微少な球体。その形は、他のどの球体とも違っていた。

「なんだよ、それ」

「微生物の老廃物。死んだ細胞や、排泄物よ」

「どういうことだ?」 

「まだこれだけじゃ結論は出せないわ。もっと念入りに検査する必要がある」

「もったいぶるなよ。アタシの体にはヒルコの細胞が仕込まれてるってことか?」

 自分の中を通り過ぎていった言葉や光景が高速で脳裏をよぎっていく。オユンの言葉、工場で見た生物、体が崩れるような感覚、クランのクローン――思考が追いつかない。像を結びそうで結ばない。手のひらが濡れるのを感じる。

「アタシの体には、他人の遺伝子情報をコピーして、自らの体の一部分を変える能力がある。それじゃないのか?」

 言った瞬間、しまったと思った。焦り――気づかぬうちにクランの中で膨れ上がっている。奥歯を噛みしめて押さえ付けた。

「可能性を絞るには観察しなければいけない。情報がないまま推論を重ねても結論は出ない。それより――」

 女医はクランに向き直り、声を少し落として問いかけた。

「貴方、さっきから様子がおかしいわね。精神に強いショックを受けているように見えるわ」

 膝の上で拳を握りしめた。言葉を絞り出した。

「多すぎるんだよ。つじつまが合わないことが」

「どういうこと?」

「アタシには記憶がない。どこで生まれて、どこでどんな風に暮らしていたのか。何を聞き、何を見て、何をしたのか。家族の顔も知らないし、いるのかどうかもわからない。アタシに付いてるドクターみたいな奴は、記憶喪失だと言った。アタシはストリートで暮らしていたと言ったよ。だけど、アタシのことをN◎VAで見た奴は未だに見つからない。それに、夢を見るんだ。どこかで、誰かと撃ち合ってる夢を。なんでこんな夢を見るんだ? 武器の使い方も、敵の壊し方も知ってる。アタシはなんでこんなことを知ってる? どこで覚えた? それに、戦いの時はほとんどいつも壊したくてしょうがなくなる。特に――あの男のことは。なんでだ?」

「……残念だけど、貴方の問いかけの答えも、それに答えられるだけの材料も持っていないわ。ごめんなさいね」

 女医はゆっくりと首を振った。少し興奮しすぎた。確かに、女医を問い詰めても仕方ない。

 頭の中で思考を整理した。

 事実――河本とセルゲイは人工生物のデータを集めていた。

 事実――河本とセルゲイはクランの情報を集めていた。

 事実――河本とセルゲイはクランのクローンを作っていた。

 推論――クランのクローンは人工生物から作られた。

 未解決の課題――コンピュータと人間の脳の差異。クローンと人間の差異。

 事実――煽流は河本とセルゲイから情報を受け取ろうとしていた。 

 推論――情報の中身はクランの情報とクローンに関する情報。

 推論――千早は人工生物を使ったクローンの製造方法を研究している。

 推論――クランの出自について手がかりが得られるのではないか。

 立ち上がった。ニュースで見聞きした人工生物の話をした。質問を投げかけた。知っているかと。

「知っているわ。だけど、貴方の体がそれでできていると断定はできない。もっと念入りな検査が必要だわ」

 うなずいた。

「また来る」踵を返し、部屋を出ようとした――声をかけた。「アタシが来たこと、ユウタには黙っておいてくれ」


 待ち伏せがないことを確かめて、車に乗り込んだ。来たときとルートを変えて、イワサキに戻った。部屋に戻って休んだ。

 

 DAK――半蔵からの呼び出し。パネルにタッチすると、半蔵の声が聞こえてきた。

「10分後に集合だ」

「わかった」

 

 呼ばれるままに司令室へ赴いた。リサとジローも後からやってきた。

「またアンタと組まされるの?」

「なんとなくそんな感じはしていたけどね」

「無駄口を叩くな」

 クランがたしなめたところで半蔵が現れた。

「お前達の報告を分析した結果、我が社の重役が千早に機密を漏洩した可能性があるとの結論に達した」

 無言で次の言葉を待った。

「よって、お前達に当該機密情報の破壊を命じる」

 リサとジローの顔に、隠そうとしても隠しきれない、驚愕と絶望の色が浮かんだ。

 クラン――脳裏に煽流の顔が浮かんだ。鮫のように笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ