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赫らの紅  作者: 紀伊・千尋(きいの・ちひろ)
第3章 孤独な共生
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第14節「余計なことを言うな」

※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.

※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。

※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。


 待ち合わせで指定された場所――ガレージ。クランの到着を待っていたかのように、シャッターが開き始めた。中には大きめのミニバンが待機していた。傍らにはアーガス。

「誰を運べばいいんだ?」

 無言で扉を開けて、アーガスに中を見せた。

「数時間前からこの調子だ。目を覚ます気配がない」

「だとすると、相当強い薬を打たれているな」

「治療できる心当たりはあるか?」

「その前に、警察にその子の捜索願が出ているらしい。普通の病院に連れて行ったら大騒ぎだぜ」

「堅気の子供が巻き込まれたとなれば警察も動かざるを得ないね」

 ジローが口を挟んだ。

「本社に事情を説明すればもみ消してくれそうな気もするけど?」

 リサの言葉に首を振った。

「お前達二人はともかく、アタシは服部半蔵ににらまれてる。だとすると、あそこしかないな」

「例の診療所だな。話はしておいた」

「それなら話が早い。それとアンタ、警察にコネがあるんだろ?」

「アンタらが関与していないってことで警察が治まらないか、か?」

「セルゲイと河本が何らかの理由でユウタを誘拐した。仲間割れを起こして共倒れになった」

「その線で担当者が上を説得できればいいがな」

「やってみてくれ」

「わかったよ」

 話はまとまったというように、アーガスが視線をミニバンに走らせた。ジローがユウタをミニバンに運び込んだ。その間、アーガスが運転手に行き先を告げる。

「ユウタになにか伝言はないのか?」

 アーガスの質問に首を振った。クランが関わった痕跡は一切残したくない。アーガスがうなずいた。

 ミニバンは扉を閉め、ガレージを出て行った。

「アンタは行かないのか?」

 アーガスに問いかけた。

「行く必要があるか?」

「ないな」

「だいぶ金を使っただろう」

「今回はいい。その代わり、情報と交換だ」

「何の情報だ?」

「とぼけるなよ。今度の件でアンタが何を見聞きしたのか、教えてくれ」

 リサとジローに視線をやった。余計なことはするなという制止の合図。アーガスに向き直って、話した。ユウタのこと、クランの偽物のこと、コンピュータの中のデータのこと、煽流のこと。

「これで十分か?」

「ああ、十分だ」

 アーガスの返事を聞き、クランは踵を返してクルマに乗り込もうとした――後ろから声がかかった。

「ところで、例の診療所には行かなくていいのか?」

「何のことだ?」

「女医がアンタを治療した時、気になることがあると言っていたらしいな。連絡がないから俺に何か知らないかと聞いてきたんだよ」

 思い出した。目の前のことに忙殺されて忘れていた。

「時間を作って行くと伝えてくれ。それと……ユウタにはアタシのことを一切話すなと」

「下手に知ればユウタの身が危ない、か」

「余計なことを言うな」

「お安いご用だ」

 からかっているような口調に腹が立ったが、それ以上は何かを言う気になれなかった。


 車は高速道路を走っていた。木更津湖の対岸に、ヨコハマLU$Tの町並みとイワサキ本社が見える。

「帰ったらまず報告だね」

 ジローが呟いた。

「で、ユウタのことはどうやってごまかすつもり?」

 リサが問いかけてきた。

「工場を潰したときに、ユウタ達と鉢合わせした。半蔵には伏せた。今回もそれで行く」

「アタシが隠し撮りしてた映像を出せば、アンタの嘘を暴くこともできるんだよ」

 リサ――取引を持ちかけたつもりの失言。クランを監視しているなら、自分から手持ちのカードは明かさない。

 リサがクランを監視しようとしている可能性は消してもよさそうだ。

「やってみろ。お前が死ぬだけだ」

「課長の前でドンパチやったらただじゃ済まないよ」

「目の前の奴はみんな壊してやる」

 にらみつけた。沈黙。リサを動かすのは死への恐怖――折れる。

「わかったよ」

 リサは諦めたようにため息をついて、体を座席に沈めた。 


 リサとジローを伴って、服部半蔵のもとへ出頭した。一連の経緯を報告した。

 半蔵の興味を惹いた事柄――河本とセルゲイが何らかの生物のデータを収集していたこと、クランのクローンを作っていたこと、千早のクグツが出現したこと。

「ご苦労だった。追って指示を待て」

 半蔵の言葉で解散した。体が限界だった。足を引きずるようにして自室に戻り、シャワーを浴び、着替えた。ベッドに体を横たえた――緊張がついに途切れた。泥のように眠った。


 目が覚めた――耳元でアラームが鳴り始めていた。アラームを切って、起き上がった。半蔵からは別命あるまで待機と言われている――別命があればしばらく身動きが取れない。行くなら今しかない――診療所。今なら、リサとジローの目を気にする必要もない。パーカーにデニムパンツ、キャップをクローゼットから取り出して着替えた。

 

 部屋から車庫へ向かった。空いている車を借りて、N◎VAへ向かった。

 パーキングエリアに車を止めて、診療所に電話を入れた。すぐに女医が電話に出た。

「はい?」

「アタシだ」

「ああ、あの時の――」

「アーガスから話は聞いた。話したいことがあるんだってな」

「ずっと連絡がないからてっきり――」

「いろいろとやらなきゃいけないことがあるんでな」

「そう……すぐ来られるの?」

「今車で向かってる」

「この後予定があるの。1時間くらいで終わると思うけど」

「そのくらいで着く」

「そう……待ってるわ」

「ああ」

 電話を切った。高速をしばらく走ってインターチェンジで降り、診療所から離れた駐車場に車を止めた。グラブコンパートメントからウエスを取り出し、手が触れたところを丁寧に拭った。ハンドル、ドア、シート。5分ほどかけて、およそ全ての場所を磨き終えた。今までの仕事で指紋を残すような真似はしていないはずだが、念のための保険だ。

 駐車場からは徒歩で診療所へ向かった。広場や雑居ビル――弾痕が残っていた。住人――建物の中で息を潜めていた。クランを狙う影は、なかった。

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