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赫らの紅  作者: 紀伊・千尋(きいの・ちひろ)
第3章 孤独な共生
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第11節「この大馬鹿野郎!」

※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.

※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。

※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。


 地面から引き剥がされて、持ち運ばれる感触。一瞬遅れて背中に痛み。堅いものに叩き付けられる感触。誰かが耳元で何かを叫んでいる。

「クラン! おい、クラン!!」

 焦点が定まる。おぼろげな感覚が次第にはっきりしていく。動悸、悪寒、体が崩れる感覚が治まっていく。自分が背中から地面に打ち付けられたとわかる。声の主――ジロー。

「どうしたんだ、急に!?」

「しっかりしなさいよ!」

 ジローが盾をかざして、クランとリサを守っているところだった。横合いから怒鳴りつけたのはリサだ。上体を起こしながら、ゆっくりと頭を振る。ジローが牽制射撃を浴びせている間に、無理矢理全身のばねを使い跳ね起きて、走って物陰に隠れた。

「なんなんだい、あれは?」

 ジローの質問に答えようとした――言葉が頭の中でつながらない。

「確かに君とうり二つだ。だけどそんなものを見たくらいでどうして――」

「……自己像幻視現象オートスコピー

 リサが小さく呟いた。

「なんだい、それは?」

「ドッペルゲンガーって聞いたことある? 自分の姿を見ると、一時的に正気を失うっていうあれ」

「それを、クランに?」

 射撃を続けながら、ジローが答えた。サブマシンガンのスタッカートが部屋中に反響する。銃弾が床や壁に跳ね返る音が聞こえる。敵の射撃が途切れた隙を突いて、三人で扉の裏に隠れた。リサがと扉を閉じる――ハッキング。

「たいがいはオカルト扱いされてるけど、本当に見たとしたら深刻。脳の機能が損なわれて、自分で自分を認識できなくなってるってことだから」

「それを、クランにそっくりの偽物を作って引き起こそうとしたということことかい?」

「どうやったかは知らないけど、たぶんそれが一番有力な線。さっきのアンタの様子見てたらわかるよ」

 リサがクランに向けて言葉を放つ――認識できた。言葉がはっきりと頭の中でつながっていく。

「今、偽物って言ったな?」

 リサがうなずくのが見えた。

「だけど相手は、自分が本物だって言ってる。それでアンタを動揺させようとしてるんだよ」

 クランの偽物――見た目や声色は自分と寸分違わず同じ。しかし見分け方はある。

 立ち上がった。

「アイツはアタシが――壊す」

「調子が戻ってきたみたいだね。どうする?」

「連中の狙いはアタシだ。ジロー、リサ、言われたとおりにしろ」

「なんとかしてくれるんでしょうね?」

 不満を口にしながらも、リサは建物の構造を把握しているようだった。

「他人事みたいに言うな。コンピュータはお前の領域だろうが」

 廊下の反対側から現れた警備員に、銃撃を浴びせかけた。

「ジローは後ろを守れ。時々扉の向こうを牽制しろ」

「無茶言ってくれて」

 ジローが盾を構えて、射撃姿勢をとった。

 頃合いか――リサに指示した。

「リサ、コンピューター室の扉を一人分開け」

 作動音がして扉が徐々に開いていった。扉の間――わずかに陽炎が揺らめいたように見えた。

「消火剤!」

 クランの叫びとともに、天井の自動消火設備が勢いよく泡を噴き出した。泡のシャワーの中、走り込んでくる人影がはっきりと浮かび上がった。グレネードランチャー――使えない。爆風で自分たちも巻き込まれる。センサー――役に立たない。互いにジャミングをかけている。目と耳が勝負だ。

 物陰からショットガンを浴びせた。人影――クランの偽物が熱光学迷彩を解除した。偽物も背中からショットガン。しばらく撃ち合った。持っている銃は自分と同じ。なら、装弾数は8発のはず。

 8回目の銃声が聞こえたところで、飛び出した。ショットガンを物陰に向かって放り投げると当時に、走り込んだ。物陰の手前で、スライディングをかけた。偽物の反応――視線を上に向けていたために一瞬、遅れた。左手を振った――袖口から拳銃。右手――偽物の左手首をつかんだ。力を込めた。柔らかい感触――生身。だがこれだけでは決め手にならない。

「後ろの二人と模擬戦やったときの結果、覚えてるか? アタシが何を言ったか覚えてるか?」

 偽物の視線が落ち着きを失う――予想外の質問。

「『テメエの葬式は何宗で出せばいいんだ?』だ!」

 偽物の顔が驚愕に彩られた。眉間に銃を突きつけた――もう抵抗はない。引き金を絞った。偽物が血を吹いて仰向けに倒れた。

 後ろを見た。ジローが廊下越しに撃ち合っていた。左腕からミサイルを放った。廊下の角を曲がるところまで誘導した。爆発。後ろからの銃声が途絶えた。

「リサ、アタシが合図したら照明を落とせ。ジロー、暗視装置をオンにしろ」

 コンピュータルームに殴り込む。本来ならコンピュータごと河本を吹き飛ばしてしまえばいい――わかってはいても、別の方法を考えていた。クランの中で疑問が渦を巻いていた。疑問――どうやってアタシの偽物を作った? 疑問――なぜユウタがここにいる?

 推論――方法は不明だが、ユウタの記憶を引き出して、クランの偽物を作った? ストリートの噂で足りない部分を、ユウタの記憶で補った?

 連中が暗視装置を装備していても、起動にコンマ何秒かの時間がかかる。不意を突いて暗闇を作れば、その隙を突ける。コンピュータルームの床はカーペットになっていた。熱光学迷彩――意味がない。カーペットに一瞬足跡が浮き出る。

 クランは視覚センサーの暗視装置をオンにした。

「今だ!」

 研究所が闇に包まれた――照明が落ちた。走った。扉の隙間から滑り込んだ。滑り込みながらセンサーで複数の目標を同時にロックオン。引き金を引き、サブマシンガンのスタッカートが響く度、男達が血を噴いて倒れた。光が戻る――照明が復帰する。バックアップの照明が作動したらしい。コンピュータルームに障害物はない。ジローが反対側を押さえているが、急がないと十字砲火を喰らう。

 コンピュータルームにはいくつかの入り口があった。その一つ、奥の扉の手前から銃撃を浴びせてきている男達。スラブ系の顔立ち――その中にセルゲイの姿があった。ロシアンマフィアの子飼いも一緒らしい。微かな違和感――見覚えのある顔。あれはどこかで――クランの脳裏にひらめくものがあった。ヒルコ加工工場で、ユウタと一緒にいた少年。

 悟った。セルゲイに甘い餌をちらつかされて、犬になった。クランの情報を売って、ユウタを捕まえさせた。

 ――この大馬鹿野郎!

 少年とクランの目線が合った。少年の顔に一瞬、動揺の色が浮かんだ。

 ――お前を、殺さなきゃいけなくなっただろうが!!

 奥歯をきつく噛みしめた。

 連中の武装はアサルトライフル。射線から逃げるように走った。後ろで銃弾の跳ねる音が聞こえる。グレネードランチャーは近すぎる。動きを止めていては蜂の巣だ。一か八か――側転しながら膝のミサイルを発射。扉の後ろに回り込ませた。爆発。男達が吹き飛ばされて来た。地面をサブマシンガンでなぎ払ってとどめを刺した。

 反対側を見た。ジローが河本達と撃ち合っていた。熱光学迷彩を起動――ジローに注意がそれている隙を突く。正面から踏み込んだときは役に立たないが、使いようだ。ジローが撃ち合っている間に、足音を消して側面に回り込んだ。撃った。手下達が血を噴いて倒れた。河本――両足を撃ち抜いて逃げられなくした。

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