第10節「お前こそ、誰だ?」
※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.
※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。
※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。
視界の隅に輝点――ナノレイヤーで作られた視覚センサーが、アーガスからメッセージが届いたことを知らせる。意味不明の文字の羅列――リサの盗聴や監視を警戒して、メッセージは暗号文でやりとりすると決めた。頭の中の暗号表で変換――ユウタの行方がわからなくなった。
こんな情報は頼んでいない。しかし、アーガスはクランに関することなら何でも調べている。膨大な情報の中にユウタの情報も含まれている。クランの興味を引きそうなものを選んで、送りつけてくる。
アーガスの情報。続き――ストリートチルドレン仲間と話していたのが最後。ユウタの話――仲間の何人かは連絡が取れなくなっている。つながりそうでつながらない。何が起こっている?
なぜこんな時にメッセージをよこす――愚問。アーガスはクランがトレーラーを尾行していることは知らない。
窓の外に意識を戻した。フロントガラス越しに前を見た。トレーラーの向こうに、研究所のような建物が見えてきた。
「道の先にある建物はあそこだけ。決まりみたいね」
リサの声が聞こえる。
「監視システムをだませ。ゲートを開けさせろ」
「システムはごまかせても、人間がいる」
ジローが口を挟んだ。
「だからアタシやお前がいるんだろうが」
研究所らしき建物。尾行を始める前に、リサに大型コンピュータの注文履歴を調べさせた。何台もつないで使うものなら、過去にも注文したことがあるかも知れない。予想は当たった――実績があった。コンピュータの搬入先――目の前の研究所。
大型コンピュータを設置できる部屋はに必要なこと――教えたのはリサ。床が機器の重みに耐えられること。機器を冷却するための熱交換器やポンプ、冷却水のパイプ。電力を供給する大型ケーブルと変圧器。配管を通すスペースは地震が来ても壊れないよう免震構造であることが望ましい。
全てを満たす部屋は限られる。研究所の施工に当たった業者のデータベースをハッキング、設計図を入手。場所の目星をつけておいた。
トレーラーが正面のゲートをくぐった。リサが監視システムに欺瞞情報を送り込んだ。熱光学迷彩を起動して、一人で車を降りた。ジローの車――通された。後をつけた。ジロー――守衛と話している。近寄って守衛に眠り薬を嗅がせた。守衛が前のめりに倒れた。
「走れ!」
車に乗り込みながら叫んだ。ジローがトレーラーを追い越して車を横付けした。大型荷物の搬入口が開いていた。車から降りて、走った。ジローとリサも続いた。
隔壁や扉は全て開いている。サブマシンガンを撃ちながら、走った。視界の先にコンピュータルームへの入り口が見えた。クラン達への反撃や妨害――なし。おかしい――襲撃に気づいているのか? そうだとしてもやることは変わらない。考えるだけ無駄。
コンピュータルームに走り込んだ。並び立つ何台ものコンピュータ。クラン達に視線が集まる――部屋の中の研究員達。河本らしき男の姿。何かを囲むように立っていた。クラン達に気づいて、人垣がばらけて、研究員達と河本が物陰に隠れようとしていた。
後ろに隠されていたものが見えた。列車や航空機の座席のような椅子。水平に近い角度まで倒された、その上に横たわる人影。クランは自分の目を疑った――ユウタ。
なぜだ!? どういうことだ!? なぜアイツがここにいる!?
思考を目の前の事態に引き戻した。動揺している暇はない。
河本に銃を向けた。こいつを始末すれば、任務の半分は終わりだ。河本がポケットロンに向かって怒鳴っていた――あれを出せ、構わん、いいから早く。部屋の奥の扉が開いた。その奥から女の姿。
自分が、そこにいた。
赤い髪、赤い瞳。白い着物、赤い袴。狐の面。クラン・カーラが、クランの目の前にいる。心臓が激しく脈打つ。胸を突き上げるような衝撃。自分の耳にまで聞こえる心音。
「誰だ、テメエは」
喉の奥から声を絞り出した。袴の下からサブマシンガンを取りだして突きつけた――銃身が重い。腕が震える。自分の呼吸音が聞こえる――呼吸が荒くなっている。赤い髪の女が口を開いた。
「クラン・カーラだよ」
自分と同じ声、同じしゃべり方。動悸が激しくなる。悪寒が走る。こめかみと手のひらに濡れた感触が広がった。
「お前こそ、誰だ?」
女の問いかけ。瞳孔が広がる感触。体が奥から崩れていくような感覚。焦点が定まらない。視界が揺らぐ。手に力が入らない――銃を取り落とす。膝から力が抜ける――立っていられない。膝をつく。
遠くから男達の声。何かを叫んでいる。赤い髪の女が袴の下からサブマシンガンを取り出す。銃口がクランに向けられる。避けようとした――体が動かない。言うことを聞かない。自分の体が自分のものでないような感覚。女が引き金を絞る――腹部に衝撃を感じた。




