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赫らの紅  作者: 紀伊・千尋(きいの・ちひろ)
第3章 孤独な共生
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第9節「だからアタシやお前がいるんだろうが」

※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.

※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。

※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。


 高速道路を走ってイワサキの本社に戻った。駐車場で替えの車を見せられた。白のハッチバック。丸みを帯びたヘッドライトに大きめのフロントグリル。街中でよく見かける。

「スタビライザとショックアブソーバは強化してあるし、ボディとガラスは防弾にしてある」

 傍目にはわからなかった。ジローの説明を受けて初めてわかる。

「ナンバープレートはダミーのものをいくつか付け替えるようにしてる」

「人間の目はごまかせるだろう。だがセンサーはどうする?」

 幹線道路や高速道路に設置された監視カメラや速度違反検知システム。ナンバープレートを読み取り、データベースに照会。一連のプロセスがシステム化されている。登録されていない車には、警察が追跡を差し向けてくる。

「私がやる。システムにダミーの情報を送り込むんだよ」

 電子迷彩の応用。

「その前に、少し休憩しない? 一日張り込みだったから疲れちゃった。シャワーも浴びたいし」

「それは僕も思ってた。せめて仮眠は取りたい」

 クランも賛成だった。

「わかった。6時間後にまた集合だ」

 リサがほっと息をついて足早に急いで行った。ジローも後を追おうとした――その背中に声をかけた。

「ちょっといいか?」

 ジローが振り返った。

「歩きながら話そう。お前の部屋に着くまででいい」


 横に並んで歩いた。互いに顔を合わせることはない。横目でジローの表情を窺った。

「お前、ここに来る前は何をしてた?」

「別の任務だよ」

「そうじゃない。イワサキに雇われる前は何をしてたかってことだ」

 かまをかける。

「言っていることがよくわからないな」

「どういうことだ?」

「僕は元々ここの人間だよ」  

 ジローは単純だ。嘘をついている可能性は低い――だが、何かを隠したい、知られたくないという感覚も伝わってくる。

「N◎VA生まれか?」

 念のため確かめる。ジローは首を振った。

「ヴィル・ヌーヴ生まれらしい」

「らしい?」

「僕はどこで何をしていたかはよく覚えていないんだ」

 決定的な情報――クランと一致。

「そういう君はどこから来て、何をしていたんだい?」

「N◎VAのストリートで拾われたんだと。アタシもガキの頃のことはよく覚えてない」

 ジローの表情――少しだけ眉間にしわが寄った。自分と共通する何かを見出したのか。畳みかける。違う質問を放つ。

「リサとはどうやって知り合った?」

「ある日紹介されたんだ。任務のためだってね」

「誰に?」

「服部課長だよ」

「オユンって名前に聞き覚えはあるか?」

 ジローの表情に驚愕の色が浮かんだ。

「なんでその名前を知ってるんだ?」

「アタシの主治医みたいなもんだ。お前もか?」

「僕以外に、博士の世話になっている人がいたなんて」

 廊下の先にジローの部屋が見えてきた。

「リサはどの辺の生まれなんだ?」

「知ってどうする」

「別に。一緒に戦う奴の素性くらいは知っておきたいだけだ。裏切りとかどうとかは気にしなくていい」

 沈黙――違う角度から話す。

「リサから生まれや育ちの話を聞いたことは一度もないのか?」

 数秒の逡巡――ジローが口を開いた。

「質問はしたよ。だけど言われたね、『あなたが話せば、私も話す』と」

「逆にリサから聞かれたのか?」

「聞かれたよ。今と同じことを答えた。それで初めて、『私も同じ』と答えてくれたさ」

 仏頂面だったジローの表情が、少しだけ和らいだ。

「ふうん」

 心の中で舌なめずりしながら答えを聞いた。

「これ以上はリサから聞いてくれ」

 ジローの心の奥底――クランへの不信感がこびりついている。そして、リサへの恋慕。ジローの顔には、しゃべりすぎたと書いてあった。部屋の前まで来た。ジローが扉を開けた。その背中に言葉を投げつけた。

「それで、リサとは寝たのか?」

 ジローが無言で扉を閉じた。


 深夜。コンテナ埠頭の出口。そこで待ち伏せた。リサのハッキングで、目的の大型コンピュータを載せたコンテナと、その位置はつかんでいる。GPSと無線ICタグ。その組み合わせで、現在位置がわかる。紛失・盗難を防ぐために、セルゲイの息のかかった業者もシステムを使っている。違法物品でなければ、探られても痛くない。運送会社のシステムに侵入、位置を追跡する。

「来るよ」

 助手席に座るリサの膝上に置かれたコンピュータ。そのディスプレイを覗き込んだ。コンテナを表す輝点が、地図の上を動いているのが見える。

 窓越しに外へ目をやった。ヘッドライトを輝かせたトラクターが向かってくる。その後ろに、大型コンテナを載せたトレーラーが引っ張られ、地面の段差からくる衝撃を受けて上下に揺れている。

「間違いないな」

 窓の外を見たまま、リサに声をかけた。

「本当に疑り深いね、アンタは」

 リサの不満を聞き流して、トレーラーが通り過ぎるのを待った。車間距離が十分離れたところで、ジローが車を動かし始めた。

 トレーラーの後ろにくっついて走った。トレーラーはやがて、山間へ入る高速道路に乗った。追った。トレーラーが高速を降りた。山の中へ続く細い道に入っていく。トレーラーと、ジローの車の他に走る車はない。

「このまま尾行したら怪しまれないかな?」

 前を向いたまま、ジローが尋ねてきた。

「このまま追い続けろ」

 怪しんで止めれば、運転手を脅して情報を引き出す。問題――待ち伏せがあるかどうか。ヘッドセットのセンサーを全開にして周囲を警戒――木々やフェンスに遮られて、役に立たない。頼れるもの――目と耳、微かな違和感を感じ取る観察力。サブマシンガンを取りだし、セイフティを解除。いつでも撃てるように構えた。

 警戒――緩めない。緩められない。車の外にも、中にも。ジロー――急に車を止め、クランを外に放り出して逃げるか? リサ――嘘の情報をクランに教えこんでいないか? 二人――クランが銃の引き金を引くのではと警戒しているか?

 互いに警戒している。自分の命を守るために、他者を差し出すのではないかと。だがそれでも、暗黙のうちに交わされた約束を守らなければならない――力を合わせるという約束。誰も独りで、この局面を切り抜けることはできない。

 くそったれ――舌先まで出かかったその言葉を前歯でかみ砕いた。

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