第8節「人使いが荒いね」
※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.
※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。
※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。
防犯カメラの死角を探しながら、雑居ビルの周りに張り込んだ。リサとジローは一時ビルの前を離れて、昼下がりにまた戻ってきた。その間、ビルには様々な人間が出入りした。社員と思われるビジネスマン達、外部の清掃業者、消防設備の点検業者。タクシーに乗って訪れた取引先らしき者達。これほど人の出入りの激しい建物で、武器を隠し持ったり、公にできない話をしたりするということは考えにくい。
「私もそう思う」
リサも同じ考えだった。リサは掃除用ロボやエレベーターのカメラをハッキング、中の様子を覗いた。机に向かう社員。外部の人間と商談をする社員。どこの会社にもある風景。イワサキも同じ――表だっては。
「ガチガチにセキュリティを固めてるって感じじゃなかったな。建物にも怪しい点はなさそう」
登記――セルゲイの自社所有ではなく賃貸。オーナーはN◎VAで貸しビル業を営む会社。その会社のデータベースに侵入し、住所と築年数を元に施工業者を割り出した。さらにその施工業者のデータベースに入り込み、設計図を入手――何の変哲も無い貸しビル。
「賃貸ということは、勝手に改造している可能性も考えにくい、か」
ジローがつぶやいた。借りただけの建物は勝手に改造できない。その代わり固定資産税がかからない。メンテナンスは貸主がやってくれる。
「社用車も全部リース。壊したり捕まったりした記録もなし。きれいなもんだね」
「取引の中身はどうなってる」
「そっちも当たってみた」
コンピュータもハッキング――通関や受発注、請求と支払いの記録。貿易会社なら当然の記録。社員の電話も盗聴――納品や契約の話。犯罪を匂わせる話題は一切なし。
社用車らしきセダンが横付けして、セルゲイらしき人物が降りてきた――一人だった。ボディガードらしき人物は見当たらなかった。
「カゲムシャだろう」
リサの報告を受けてうなずいた。本物と子飼いの連中は別にいる――尾行にも限界がある。
「で、これからどうするの? 社員を捕まえて口を割らせる?」
首を振った。
「あの様子じゃ、大事な情報は知らされていないだろう」
どうする――そう思ったところで、ジローが口を開いた。
「僕に考えがある。河本が本当に大切にしているものが壊されそうになったら、本物が出てこざるを得ないんじゃないか」
「何それ?」
「僕にもまだわからない。でも今までの情報を、もう一度洗い直してみないか」
「そうだな」
同じ情報でも、見方によって見えてくるものが変わる。河本が大切にしているもの――セルゲイと組んでことを起こすのに必要なもの。その手がかりがないか。クランの頭に引っかかるものがあった。
「リサ、もう一度受発注の書類を見せてくれ」
取引品目――気になる記述があった。大型のコンピュータ。そして複数の発電機。なぜだ?
「横流しして金にするつもりか? 故買屋の真似事か?」
クランの言葉に、リサが首を振った――否定の合図。
「こんな大型のコンピュータを欲しがるところは限られてる」
「そんなに大きいのか?」
「アーコロジーのメインフレームに使うようなコンピュータだよ。型番でわかる。何台もつないで使うから、他にもあるかもね」
「それだけ大きなコンピュータなら、膨大な電力が必要だ。外部から電気を取らないのは、電力会社との接触すら嫌なんだろう」
ジローが言葉を付け加えた。
「何のために使うんだ、こんなものを?」
「考えられる理由は一つだ」答えた。「よっぽど見られたくない何かを保管するためだ。まさかサーバ屋をやるわけじゃないだろうしな」
リサがうなずいた。
「その推理、いい線行ってると思う。データは個人の端末に保存するより、クラウドで保管する方が簡単だもの。なくさないし、バックアップもセキュリティもクラウドサービスでやってくれる。データが欲しくなったらいつでもどこからでも取り出せる」
「その便利さを捨ててでも秘密にしたいというわけか」
ジローがリサの言葉を引き取った。
推論――河本とセルゲイがやろうとしているのは、犯罪のしのぎというレベルではない。もっと重大な何かだ。
「荷物は港で陸揚げされ、通関検査を受けて一度倉庫に入る。倉庫から出る車を追えば、目標にたどり着けるはずだ」
ジローの言葉にうなずいた。
「リサ、セルゲイが使っている倉庫業者と運送会社を出せるか」
「人使いが荒いね」
リサが手元のコンピュータを操作した。通関書類に載っている会社名を検索にかける――ヒット。
運送会社――表向きにできないものを運ぶ以上は、セルゲイ達の息がかかっているはず。ダミー会社か、非合法物品の荷運びを請け負う裏の業者のどちらかだ。
「書類の上では昨日入港したことになってる。通関検査が順調に進めば、明日には倉庫から出てくる」
「そのトラックを追いかければセルゲイの拠点にたどり着けそうだね」
「よし、作戦は決まりだな。コンピュータを制圧する。そこでセルゲイに渡りをつける。それが無理でも、河本とセルゲイに連絡を取って誘い出す」
これだけのコンピュータならば、揃えるのに膨大な金額がかかる。クランとリサ、ジローの3人しかいなければ、一か八かで奪還しに来る可能性が高い。
「よかったね、クラン。アンタの好きな時間でしょ?」
好きな時間――戦闘と破壊。否定はしない。
「まさかアタシを一人でいかせようってんじゃないだろうな? テメエがいないと、コンピュータのことはどうにもならないぞ」
リサの皮肉にそう応じた。半分は意趣返し。半分は事実。
「そうなると、僕が護衛について行かなきゃね」
話は決まりだ。
「追跡するのはいいが、この車は向かないな」
「それなら、替えの車があるよ。一度この車を返そう」




