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赫らの紅  作者: 紀伊・千尋(きいの・ちひろ)
第3章 孤独な共生
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第6節「誰かを利用するくらい、誰だってやってるよ」

※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.

※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。

※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。


 会議室の大型ディスプレイに表示されているもの――タタラ街の地図。ロシアンマフィアの拠点があると思しき場所。港の近くに輝点。その輝点から雑居ビルの写真がポップアップする。リサが説明を加える。

「セルゲイの表の顔は貿易会社の社長。武器や麻薬を仕入れたり、盗難車を輸出したりするなら、表の顔にぴったりだと思う」

「だろうな。倉庫も借りやすいし、援軍を呼ぶのも逃げるのも港に近い方がやりやすい」

「だけど、一つ問題がある」ジローが口を挟んだ。「セルゲイがいつもそこにいる保証がない。河本とそこで会う保証もない。セーフハウスを転々としている可能性もある」

「だから調べるんだろうが」

「ドローンを使った見張りや、通信の傍受も必要だね。それは私がルーティンを組んでやらせる」

「それだけじゃない、一度現場を見に行く必要があると思う」

 そう言ったのはジローだった。

「意外と積極的だな」

「僕は臆病だからね。自分の目で確かめるのは基本だから、そこを押さえないと安心できないのさ」

 タタラ街――クランが一度任務で訪れている。工場のストリートチルドレン――もしかしたら情報源になるかも知れない。

「偵察と聞き込みをするなら、正体を隠しながらする必要があるな」

 イワサキから派遣されている者だと知れたら、襲撃部隊を差し向けられるか、逃げられる。特にクランの噂は知られていてもおかしくなかった。

「少なくとも変装は必要だな。アタシとお前は髪を染めて、服も目立たないものに替える」

 仕事の時はこの服を着るのが、クランのスタイルだ。しかし今回は情報集めの最中に目立つ真似はできない。鬱憤は襲撃の時に晴らしてやる。

「それともう一手欲しいな。アタシらはよそ者だ」

 可能性――セルゲイが地元の人間を買収して、情報網を築き上げている。

「それならいい方法があるよ」

 リサはジローに目配せした。


 ジローに駐車場へ案内された。ジローとリサの後からついて行った。視線の先に明るい色の車が現れた――中型トラック。車体にはポップな文字と食べ物のイラストが躍る――ホットドッグやクレープの移動販売車?

「僕のもう一つの顔だ」

 ジローは運転手――こういうことだったのだ。


 キッチンカーの内装――コンロ、流し台、冷蔵庫と冷凍庫。調理道具の収納場所。水タンクにガスボンベ、発電機。食洗機にアイスクリームメーカーも見える。軽食に限らず、本格的な食事も作れそうだ。

 運転席の後ろには簡易ベッド。天井を見上げればルーフ上に設けられたベッドスペースへの出入り口が見える。

「ただの屋台じゃないな」

 振り返って、ジローに声をかけた。

「誰が料理するんだ?」

「僕だよ」

「――へえ」

 正直に言って驚いた。 

「リタイアしたら流しのレストランでも始めるつもりか?」

 ジローがうなずいた。

「工作員が夢を持つのはおかしいかい?」

 夢――クランには縁のない言葉。クランを動かすのはあの男――大上・煽流を壊すという決意、そして――知りたいと思う心。

「リサと二人でか?」

 かまをかけてみた。リサが楽しげに笑いながらジローの腕に抱きついた――一瞬、リサの目に暗いものが走った。見逃さなかった。リサ――ジローを心の底から信頼しているわけではない。ジロー――リサの心に気づいているか? 恐らく気づいていない。

「見張るのはこれでいいとして、正体を隠す工夫がいるな」

 リサは河本に顔を覚えられているし、クランもタタラ街で派手に暴れた。噂は流れていると考えなければならない。

「僕とリサの分は着替えがいくつか車に備え付けてある。クランはどうする?」

「アタシは部屋から取ってくる。リサ、お前もどうだ?」

「変装するならちょっと念入りに化粧しないと。私も部屋から化粧品とか道具とか取ってきたい」

「それなら、15分後にまたここに集合だ」


 廊下――リサと並んで歩いた。リサ――憮然とした顔で足早に歩いている。歩みを早めた――クランも歩みを早めた。

「何!?」

 リサがにらみつけてきた。苛立ちが顔に表れている。

「機嫌が悪そうだな」

「アンタには関係ないでしょ」

「ジローが信用ならないのか?」

 前置きなし。まっすぐ核心に入った。

「アイツ、何夢見てるの!? いつの間に私が一緒に店やることになってるの!? マジありえないんですけど!?」

「稼ぎが減るのも、朝から晩まで食材の仕入れと接客に精を出すのも御免か」

「当たり前じゃない。ちょっと女子にもてるからって思い上がるなっての」

 リサの態度――表情を歪め、悪態をつく。これが本心。ジローの前では隠していた地。愛情はない。利用するだけ。夢もない。リサを動かすもの――現実的な金勘定と、死への恐怖。

「だけどお前、一人じゃ戦えないだろう?」

 だからジローとくっついている。

「誰かを利用するくらい、誰だってやってるよ」

 わかり合うにはほど遠い関係。嫌いな相手でも利用し、利用される。そうしなければ生き残れない――クランも同じだ。

「そうだな。アタシもせいぜいお前達を利用させてもらうよ」

 一瞥をくれて、別れた。


 収穫はあった。リサとジロー――リサはジローを信頼していない。ジローへのリサの気持ち――恐らく本物。ジローがリサの気持ちを知ったら、どんな顔をするのだろう。

 首を振った――愚かな思考と感傷を追い払った。考えるべきこと――この状況をいかに利用するか。それだけ。


 部屋で着替えを選んだ。パーカーにジーンズ、キャップ。ストリートに入るための服装。髪と瞳――ナノレイヤーを透過する光線を調整。黒く見えるようにした。鏡を覗いた――黒く見える。効果を確かめた。

 着替えて駐車場に戻った。リサ――髪の色を茶色にして、ひっつめ髪にしていた。 

「乗るぞ。ジローは運転席、リサは助手席。アタシは後ろの座席だ」

 二人を後ろから見張る――変な気を起こしたらためらわず撃つ。ジローに選択の余地はない。リサ――一瞬不服そうにしたのを目で抑え付けた。

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