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赫らの紅  作者: 紀伊・千尋(きいの・ちひろ)
第2章 愚かな酷評者
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第3節「アイツを、壊す!」

※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.

※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。

※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。


 駆け寄りながらサブマシンガンを袴の下にしまい込んだ。腰の後ろからショットガンを取り出した。視覚センサーとリンクした照準装置が、男をロックオンする。引き金を絞る。乾いた音とともに、無数の弾丸が吐き出された。上下左右に無数の弾が散らばる。男を貫く――思った刹那、男は単分子ワイヤを引っ張って、ワイヤを巻き付けていた鋼体電車線を切った。男が垂直に落下していく。コンマ数秒遅れて、散弾が鋼体電車線やトンネルの天井に跳ね返る音がした。

 頭上から空気を切る音――鋼体電車線がバラバラになってクランの頭上に落ちてきた。途中で切られた重みに耐えられなくなったのか。あらかじめ切り込みを入れていたのか。横に跳躍してかわした。

 その間に男は着地して、ショットガンの射程範囲外に走り去ろうとしていた。

「私はクレー射撃の的ではないのですよ。もう少し相手が工作員であることを考えて作戦を立てた方がよろしい」

 際限のない挑発。体が熱くなる。血が沸騰する。アイツを――壊す!

「逃がさねえぜ!」

 グレネードランチャー――あと2発弾丸が残っている。トンネル――少しカーブしている。しかし、爆発に巻き込めば関係なく吹き飛ばせる。爆風を遮るものも、逃げ場もない。

 取り出して弾丸を装填。照準をセット。男がカーブの陰に隠れた――発射! 数秒経過して着弾。爆発音。轟音と爆炎があがった。


 男を追撃する。黒焦げになっているか、一撃で倒せなくても相当なダメージを受けたはずだ。念のためグレネードランチャーに最後の一発を装填。背中にしまい込んだ。サブマシンガンを手に取った。

「そこで待ってろ」

 つぶやいて、トンネルの奥へと歩を進めた。カーブの入り口まで来た。奥を覗き込む。男の姿――見えない。レーダー、センサー――反応なし。消えた!? 隠れる場所も逃げる暇もないのに、どうやって?

 上下左右を見回した。上――鋼体電車線と天井。右――コンクリートの側壁。下――レールとリニアモーター用のリアクションプレート。左――扉。扉!?

 思い出した。リニアのトンネル――一定の距離ごとに、非常口を設けている。まさか――。

 扉に向かってサブマシンガンを撃ち込もうとした――足の裏に何かが触れた気がした。不吉な気配を感じて、後ろに飛んだ――間に合わなかった。蛇が鎌首をもたげるようにして、単分子ワイヤがせり上がってきた。そのままクランの左腕に巻き付いて、行動の自由を奪った。

「なっ……!?」

 扉が開いた。奥から男の姿が現れた。

「全くもって詰めが甘いですねえ。せめて扉がないところまで私を追い込んでからにするべきでしたね」

 男の顔――焦りも狼狽も浮かんでいなかった。ますます憎らしさが募る。

「テメエ、ぶっ壊す……!」

「これだけ打つ手が外れて、しかも拘束されているというのに、闘志を失いませんか」

 男は一拍置いて、言葉を継いだ。

「なんだか貴方が気に入ってしまいそうです」 

「こんな時に何を抜かしてやがる!」

 落ち着け。奴の手に乗るな。

「本心ですよ。だからこうして拘束するにとどめているのです」

「そうかい。じゃあ――こっちから願い下げだ!」

 空いた手を振った――袖の中からピストルが現れた。撃った。男は横に転がってかわした。一方でワイヤーを伸縮させ、緊張力を調整しているのが伝わってくる。クランの腕を切り落とさないようにしているらしい。

「あまり私を動かさないでください。でないと、貴方の腕を切り落としてしまいそうです」

「……やってみろよ」

 ピストルをしまい込んだ。背中からグレネードランチャーを取り出した。

「おやめなさい! 貴方も死にますよ!」

「上等だ! 刺し違えてやるよ!!」

 男に突きつけようと思った瞬間、男がワイヤーを巻き取り始めた。高速でクランに接近してくる。グレネードランチャーを握った方の手を蹴り上げようとする。横に飛んでかわそうとする。ワイヤーが締まる――振り払った。左半身が軽くなった。視界の隅に、血を吹き出しながら転がるクランの左腕が映った。

 左腕に目をやる――肘から先が失われていた。激痛。悲鳴――飲み込んだ。うめき声が漏れただけですんだ。

「ぐ……っ!」

 同時に、男が懐まで踏み込んできていた。手刀でグレネードランチャーを弾かれた。重量バランスを失って、クランも横に転がった。倒れ込みながら、グレネードランチャーを拾い上げた。

「テメエ……ぶっ壊す!」

 男が素早く後ろに飛びすさった。グレネードランチャーを脇に抱え込んで、引き金を絞ろうとした――遅かった。扉が閉まった。

 激痛をこらえながら、立ち上がった。意識が朦朧としてきた。大量の失血で、バイタルチェッカーが危険信号をがなり立てていた。ペンキを流したように、地面に血の跡ができていた。今も流れ続けている。

 逃げられた。あれだけ挑発されながら、相手に傷一つつけられなかった。しかも、クランを倒そうと思えばいつでもできた。

「テメエ、ただじゃ……すまさねえ!」

 意識が飛びそうになるたび、歯を食いしばって意識を取り戻した。激痛をこらえ、応急の止血処置をしながら、ただ一つの言葉を胸の中で繰り返した――アイツを、壊す!

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