14
「まだ待ち合わせ時間前だぞ。謝ることはない」
「でも女性をお待たせしちゃったので。それにしても、僕は10分前に着いたのに、それより早かったんですね」
「ああ、15分前くらいには着いていたな」
「そんなに?だったらますますお待たせしちゃってすみません。……あ、これ良かったら貰ってください。この辺りで有名なお店のお菓子です。美味しいですよ」
「くれるのか?」
「はい、せっかくシャーウッドに来てくださったのでお土産をあげようと思って。ブラウンベリーのクッキーです」
ありがたく受け取り、礼を言った。
そして、実はヒルデもお土産を持参していたので、お見合い前のちょっとしたお菓子交換会になった。
「私からもお裾分けがある。王国のお菓子だ。よかったらもらってくれ」
レイヴンやミレイユたちの分を買った時、ちょうど彼とお見合いをすることも思い出したので、一箱多く買ったのだ。
お見合いをしてくれたことに対するささやかなお礼でしかないが、男性にはぜひ食べてもらえたら嬉しい。
ヒルデからお土産を受け取ると、男性ははにかんだ笑顔を見せた。
男性は、ロアンと名乗った。
28歳。種族:獣人(象属)、魔法適正:なし、加護:なし、職業:飴細工師。
穏やかそうなところは姿絵とあまり相違ない容姿だが、サイズ感は想像以上だった。間近で見ると彼の大きな体の圧がすごい。
象属の獣人の特徴はその体躯と、パタパタ揺れる尾のようだ。
互いに自己紹介をして一息ついたのを見計らってやってきた給仕が、二人にメニューを手渡してくれた。
「ヒルデさんは何にしますか?」
「そうだな、では渋茶とスコーンにするぞ」
「良いですね。でも僕は珈琲で」
終始にこやかなロアンは、慣れた様子で二人分のメニューを注文してくれた。
「ヒルデさん、今日は遠いところまでありがとうございます。ここまで迷いませんでしたか?」
「私は方向音痴なのだが、迷わなかったぞ。分かりやすい看板があって助かった」
「良かったです。ここまで何でいらっしゃったんですか?」
「飛竜で来たぞ」
「えっ、飛竜に乗れるんですか?それはすごいですね。僕は乗馬も無理です。怖くって」
体格に恵まれたロアンは、たとえ馬から落ちたところで全然ダメージを受けなさそうなのに乗馬が怖いなんて面白い。いや、怖いものだって人それぞれだから文句はないのだが。
話していると給仕がやって来て、ヒルデたちに「失礼します」と小さく声をかけた。
ロアンは給仕に丁寧に礼を言う。そして湯気を立てている珈琲を一口飲み、ふうと息を吐いた。
「実は今日、特別に緊張してるんです」
「特別に?私はまた何かしてしまっただろうか」
「ヒルデさんの所為ではありませんよ!あの……お恥ずかしながら人族の方とお見合い出来るのが初めてで緊張しています」
「なんだ、そういうことか」
「それから、ヒルデさんが姿絵通りの方で驚いています」
「え?」
きょとんとロアンを見ると、彼は少し恥ずかしそうに頭を掻いた。
「髪もサラサラで……その髪型も、とても似合っていると思います」
「おお、そうか良かった!褒めてくれてありがとう!」
外見を褒められたのは聞き間違いではなかったようだ。
お見合いが終わったらミレイユたちに早速報告をして、お礼の肉でも買って持っていこう。
幸先の良さそうなお見合いに、ヒルデは嬉しくなった。
「ちなみに人族とお見合いをするのが初めてとのことだが、最近結婚相談所に登録したのか?」
「いえ、違います。僕はずっと人族の方とお見合いがしたいと希望を出していたのですが、相性演算装置って登録者の希望を聞いてくれるばかりじゃないですよね。ずっと人族の方の釣書さえ来ないような状態が続いていたのですが、今回ようやく人族の方の釣書が来て、お見合いも決まりました。それがヒルデさんです」
「そういうことか。私もお見合いで獣人の方と会うのは、ロアン殿が初めてだ」
「では、僕がヒルデさんの初めての獣人のお見合い相手ということですね。なんだか嬉しいです」
対面に座っているロアンが、やけに乗り出してきた。
体が大きいからなのか、こうしてグイグイ近づいて来られると、間にあるはずのテーブルがとても小さく見える。
「じゃあまず、典型的な質問になってしまって恐縮ですが、ヒルデさんは休日、どのように過ごされているんですか?」
「そうだな。鍛錬したり、仲間と飲んだり食べたり、浴場へ行って湯に浸かったり、野営や採掘だな」
「……へ?」
眉根を寄せたロアンの膝がテーブルに当たって、カップがカチャンと音を立てて揺れた。
「えっと……野営や採掘?ヒルデさんは人族の女性なのに、刺繍をしたりお花を摘んだりしないんですか?」
ロアンの顔が、何故か不安げに揺れている。
何故ロアンが悲しそうな顔をしているのかは分からなかったが、花についてのエピソードを思い出したヒルデは手を打った。
「花はあまり摘まないが好きだぞ。良い匂いがするよな」
「やっぱり!ああ、良い匂いだなんてとても可愛らしい感想です。匂いは大切ですよね」
ロアンの顔が、一瞬で明るくなった。
「ところで、ヒルデさんの理想の結婚って、どんな感じなんですか?」
「理想の結婚?」
「ああ、僕の質問は広すぎましたかね。じゃあまず、お仕事とか」
「仕事か。頑張って働こうと思っているぞ。相手には苦労させたくないからな」
「いいですね。僕とも価値観がピッタリあっています。僕、妻にはきちんと仕事もして欲しいと思っていまして」
「なるほど、私は色々と頑張るつもりだぞ」
「ありがとうございます!もちろん、か弱い妻にばかり負担はかけませんからね。妻となる女性は、この僕が守ります」
「ありがとう。私もロアン殿を守るぞ!」
ロアンの笑顔がますます明るくなった。嬉しさを隠さない彼に、ヒルデも思わず笑顔になってしまう。
話が弾むにつれて、ロアンの尻尾が大きく振れるようになってきた。
よく笑ってくれるし、注文した珈琲さえも忘れて夢中で喋っているようにも見える。
(これはなんとなく……今までのお見合いとは違う気がするぞ……!?)




