ダイアログーその9
「オレ様たちの場合はだ、成虫になってからメスと交尾できるのは1、2週間だ」
「交尾できずに死んでいくオスも多くいる。自慢じゃないが、いや自慢だな、オレ様は5匹のメスと交尾をしたぞ」
「例えばだ、この大切な期間に台風なんか来てみろ。交尾なんぞ不可能じゃ」
「オマエにわかるか?迷ったり悩んだりする暇なんぞないのだ。生きる目的がはっきりしている、し過ぎている」
「オマエのように"死にぞこないと変わりたい"なんぞ、露ほども思わん」
「針の穴を通すようなチャンスに全力で集中するのだ。オマエにはわからんかもしれんな」
「人間のように、長い期間、ただのお遊びでダラダラと交尾を楽しむのとは訳が違うぞ。まぁその後で痛いしっぺ返しを食らう場合もあるようだがな」
「まぁ、オマエはそれもできないようだがな……」
クッソ。
だから何なんだよ。
セミのくせに、エッラそうに。
ただのモテ自慢じゃないかよ。
ってか……こんな死にぞこないのセミに女のことで言われたい放題、しかも何も言い返せない僕って……
いや、そうだよ……大体、セミと人間を……
「今更、セミと人間を一緒にするな、とは言わせんぞ。オマエはそのセミと入れ替わりたいんだからのう」
今はそんなこともう思ってないよ。
言ったことをジンワリと後悔してるさ。
オレ様がこんな性悪で不愉快なヤツだと知っていたら、オレ様と入れ替わりたい、なんて思っていないさ。
いいか、僕は確かに死にたいくらいに生きる希望を無くしている、いろいろあってね。
でもね、これまで人をわざわざ不愉快にさせようと思ったことはない、オレ様のようにね。
何故かわかるか?
「わからんね」
それはね、社会の秩序を維持するために必要なことだからだ。
皆が皆、オレ様のように、平気で人を不愉快にするようなことになったら、社会の秩序を維持できないだろう?
人間には、言語がある、ジェスチャーがある、表情がある。
それらは何故人間だけに与えられたかわかるかい?
社会の秩序を安定させるために、人間に授けられた能力なんだ。
もちろん、使い方次第では逆効果にもなる。
でも、そのおかげで、人間はこれだけ繁栄してきたんだ。
まぁ、いろいろと諍いもあるけどね。
僕はいつも、無理せずに、自然に自分らしく生きたいと思ってきた。
つまり、人を不愉快にすることは、僕にとって不自然なことなんだ。
オレ様は"生きる目的がはっきりしている、し過ぎている"といったよね。
僕にとっては、授けられた能力を本来の目的に沿って、自然に使うことが生きる目的、というか理由だったんだ。
その先に、何かいいことが待っているはずだ、そう思ったこともある。
「話が長いのぉ……で、何が言いたいんじゃい」
僕はもうオレ様と入れ替わりたい、なんて思っていない。
思ったことを後悔している。
それと、セミと人間を一緒に語るな。
人間はね、人生100年時代、と言われているんだよ。
セミの時間軸とは違うんだ。
オレ様は僕をアブラムシにして、人間とアブラムシでは、見えている世界の次元が違うことを僕に見せようとしたんだろ?
なのに、何故、セミと人間は同列に語っているんだい?
オレ様の羽がジジっと音を立てた。
「言いたいことはそれだけか?」
まだあるけど、話が長い、って言われたからね……ここで……
「ふん、それも他者を不愉快にさせないとかいう配慮とやらかね……」
「では、言わせてもらおう」




